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白黒の英雄 ~ちょっと記憶力の良い俺が、魔法を無効化しながら異世界を救う話~  作者: アキラ・ナルセ
第一章 火の国編

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第19話 リシアの過去を聞いた。俺は会いに行く。

 

 ヴォルクは遠い目をしてリシアの過去を語り始めた。

「俺が当時、第一部隊長になったばかりの頃、十年前の話だ」


 十年前というとリシアが、母と兄を失ったと言っていた年だ。


「俺たちはモンスターの大規模討伐遠征に出ていた。イグナス南部にある小さな村がモンスターの襲撃を受けたと聞きつけたからだ。――アイツはそこにいた」


 ヴォルクの表情が、ほんのわずかに陰を帯びる。


「当時、モンスターという種族がようやく確認されたばかりの頃でな。正体も目的もわからなかった。それゆえに世界各国が同盟を組み、大規模な討伐に動いていたのだ」


 どういう経緯でモンスターは生まれたのだろうか。そんな疑問が浮かんだがヴォルクの話を聞くことにした。


 我々イグナス軍は、ここから西に位置するグラディア軍と同盟を組んで大規模な討伐に出た。いや、討伐というよりはもはや戦争だったな」


 彼は杯を置き、遠くを見るような目で語り続ける。


「戦況は芳しくなく、我々が拠点としたその村も襲撃を受けた。軍人、村人問わず多くが命を落とした。

 そして、ある民家の跡で母と兄を失くした少女がいた」


 俺は、言葉を呑んで一言。

「つまり、それが」


 ヴォルクはうなずいた。

「リシアだ」


 * * *


「ママ!  お兄ちゃん!」


 崩れた家屋の残骸の中。

 焼け焦げた木材と黒煙の中でか細い声が響く。


 血に染まった地面。

 倒れた母と青年の身体に、小さな少女が縋りついていた。


「……いや、いやああああああッ!」


 泣き叫ぶ声が瓦礫の間に反響する。


 ザシュッ!!


 刃が肉を断つ音と共にモンスターが倒れた。

 そこへ俺たちが駆けつけたのだ。


「やっと、見つけた生存者か……」


 灰と煙をかき分け、重い足音を響かせて現れたのは、まだ隊長になったばかりのヴォルクだった。

 彼は刀にこびりついた血を拭うと腰の鞘に納刀した。


 そして――


 涙を流して家族の亡骸に縋る少女を見下ろすと、隊員に低く指示を出す。


「おい。この子を安全なところに誘導しておいてくれ!」


「はっ!」

 すぐに駆け寄ってきた兵士が、少女にそっと手を伸ばす。


 しかし少女は動かなかった。


「どうしたんだ?」

 ヴォルクは静かに問いかけると、少女と目線を合わせるように、ゆっくりと膝をついた。


 戦場の匂いがまだ残る拠点の空気の中で、少女の顔だけが、異様に澄んで見えた。


「心配しなくてもこの村の人々は、我々で丁重に弔う。お前の安全も保証される。だから――」

 だが、その言葉は途中で遮られた。


「――私を、連れてって」

 少女は震えもせずまっすぐにそう言った。


「……なに?」


 その場にいた兵士たちが息を呑む中、隣で黙っていたバオウ団長がゆっくりと片目を開いた。


 ヴォルクはその少女に問う。

「それはどういう意味だ?」


 少女は一歩前に出る。

「私の名前は、リシア」


「私、強くなりたいの。あなたたちの強さを私に教えて!」


「そんなことできるわけ」

 ヴォルクは困惑し、思わず立ち上がる。


 そんな彼の後方でバオウが口角を上げた。

「いいだろう!」


 その声は空気を一変させるほどの迫力だった。

「娘っ子ッ! 我々と来るがいい!」


 リシアの目が、ぱっと見開かれる。

「ほんとうに!?」


「今日この日より――お前は我が軍の兵士だ! お前を最強の戦士にしてやろう!!」

 豪快な声が響き渡る。


 バオウの右手がリシアの肩にどんと置かれた。

「このヴォルクがな!  がはははははッ!!」


「は、はあああああっ!?」

 ヴォルクが目をむく。

「なにを仰るのですかバオウ団長、俺がですか!?」


「お前以外に誰がいる! 頼んだぞ、ヴォルク!!」

「ええ!?」


 彼女はとことことヴォルクの前までやってくると言った。

「よろしくね、ヴォルク」

 小さな手で、差し出された拳。


 その表情に涙はなく、あるのは静かに燃える決意だけだった。


 ヴォルクは頭を抱えながら、深々と溜め息を吐いた。

「なんてこった」


 * * *


 酒の香りが漂う、夜の食堂。


「――というわけだ」


 ヴォルクはグラスを指で転がしながら、静かに語り終えた。


「……あれから、十年が経った。バオウ団長はこの世を去り、俺がその席を継いだ。

 そして復讐という名のエネルギーに突き動かされた彼女は誰よりも早く、誰よりも強くなって隊長になったんだ」


 俺は言葉を失っていた。あのリシアが、どれだけの過去を背負って、ここまで来たのか。それを今ようやく、ほんの一部だけど知ることができた気がした。


「それ以来リシアには、厳しい鍛錬を長い時間をかけて施してきた」

 ヴォルクの声は穏やかだったが、その奥には迷いと祈りが滲んでいた。

「それが……正しかったかどうかは、今でも分からない。だがそれを彼女自身が望んでいた。だから、止めることはできなかった」


 グラスの中で、酒がわずかに揺れる。


「本当はな。特別扱いなんてしちゃいけない。軍人として、団長として、そうあるべきなんだろう。だがお前にならこれを話せると思ってな」


 ふっと目を細めて、ヴォルクは言った。

「俺にとってリシアは実の娘のような存在なんだよ。だが、だからこそ俺にはできないことがある。復讐っていう(かせ)から、あいつを解き放ってやれるのはお前しかいない」


 俺はその言葉を静かに胸の奥で受け止めていた。


 やがてつぶやく。

「重いですよ、それ」


 苦笑混じりに口元を歪めながらも――その目は、まっすぐに前を見ていた。


「俺、今からリシアに会ってきます!」


 俺は立ち上がった。


 その勢いに、ヴォルクは目を見開いた。

「なに、今からか!? いや、まぁアイツのことだからな。この時間ならまだ一人で鍛錬場にいるかもしれん」


「俺の言葉で何かが変わるかは分からないですけど。それでも伝えたいことがあるんです」


「よし! 行ってこい黒瀬凪! お前が軍に入るかどうかはそのあとでいい」

 ヴォルクは酒杯を掲げて笑った。

☆今回の一言メモ☆

地球でも異世界でも飲酒は二十歳から!

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