第11話 俺が異世界で人権を獲得する日
イグナスの焔戦団という軍を総括しているという"団長"ことヴォルク・ハーゲンが腕を組み言葉を発する。
「奴らが急遽現れた件も含めて、謎が増えるばかりだ。まるで、外のなに者かが意図を持って動き出したような」
リシアが同調した。
「そうね」
ヴォルクが続ける。
「凪と第一部隊は今回の首謀者と戦闘をしたのだったな?」
リシアが答える。
「ええ。私たち第一部隊は今回の事件の首謀者と思われる二人組と接触したわ。そして彼らは、モンスターを制御していた」
隣のユーリス・エルグレイドが続く。彼は隊長であるリシアの部下であり、副隊長を務めているらしい。いかにも高価そうな双剣を両方の腰に携えている。
「僕たち第一部隊が市街地でのモンスタの掃討を行っていた際、“ハク”と名乗る白い髪の仮面の男が黒瀬凪と交戦していたのを確認しました。その男は、黒瀬凪が使った“白い力”と対になるような、"黒い力"をまとっていました」
ヴォルクが口を開く。
「我々が知る一般的な魔法は、地・水・火・風の四系統。白い魔法も黒い魔法も、聞いたことがない。エルマ様は?」
エルマは安楽椅子を揺らしながら、ゆっくりと思い出すように答える。
「私も知らないわね。二十年ほど前に、四属性すべてを同時に操って中央国家ゼクスラントを切り拓いた英雄がいたという話なら有名だけどね。黒色や白色の魔法なんて話は私も初耳よ」
リシアが続きを引き取った。
「私の炎魔法を使った斬撃は、ハクには思うように通じなかった。彼の全身を覆う黒色のオーラが、あらゆる攻撃を遮断する壁のようだったわ」
「お前の斬撃が通じないとなると、隊長格以下の攻撃はほぼ無力ということになるな」
ヴォルクの言葉に、会議室が再び緊張に包まれる。
「そうね。彼の“白い力”でハクの隙を作って一撃を入れられたけれど。もし彼がいなかったら、被害はさらに甚大だったわ。最後には彼の仲間と見られる白髪の仮面の少女が現れ、ハクと共に消えた」
ヴォルクは目を丸くした。
「消えたとはどういうことだ?」
「言葉のままよ。黒い魔法陣と共に、なにもない空間から突如現れ、そしてまるで煙のように消えました。あんなの……見たことがないわ」
第二部隊の隊長レイガン・ドランベルクがまとめるように低い声で加わった。
「魔法ではない、謎の力。そしてそれと対になるような凪坊の存在は、我々にとって切り札にもなり得るわけですな」
俺は少し迷った末に口を開く。
「彼は、ハクは俺の姿を見てかなり驚いていました。なにかはわかりませんが『返してもらう』とも言っていました。たぶん、彼らは今後もこの国に来ると思います。もしかすると、俺がいることでこの国にまた危険が迫るかもしれません」
「ちょっと!なに馬鹿正直に自分に不利なことを言ってんのよ!」
リシアが勢いよく声を上げた。
「だ、だって……ここまで来たら、もう誰でもわかることだし……」
「それが馬鹿だって言ってんの!」
ヴォルクが咳払いをして仲裁した。
「……ともかく! まとめると奴らは黒瀬凪の存在自体を知らなかったが、今回を境には彼らの目的になったとみることができる。であれば、今回の本来の目的は別にあったと見るべきだ。仮に凪がいなかったら、安全だったとは言えないだろう」
エルマは続けて言った。
「これがイグナスだけの異常ならまだいいけれど――」
ヴォルクがエルマに言う。
「中央国家ゼクスラントには今回の騒動の報告はすべきでしょうが、凪のことは……」
エルマはふっと視線を俺に向ける。
「そうね、凪ちゃんのことを伝えるべきかどうかは――まだ迷っているの。凪ちゃんのその魔法を消す”白い力”が本当だったとしたら……いろいろな意味で標的になる可能性もある。ね?」
俺はそれを言葉にした。
「……つまり異世界からやってきた“イレギュラー”である俺がこの世界の主力である“魔法”を、簡単に打ち消せる力を持っているとすれば――」
それを受け継ぐように。
「どの国ものどから手が出るほど欲しがるわね。新たな争いを呼ぶ可能性がある。」
静かにエルマが言った。
「だけど安心なさい。凪ちゃんはもう我々の仲間同然よ。この世界のいざこざに巻き込んではならないと思っているわ」
ヴォルクが言った。
「確かに。だが難しい問題だな。これは扱いを誤れば、新たな火種になるだろう」
そのとき、一人の戦士が、立ち上がって声をあげた。
「ヴォルク団長。そしてエルマ様! 今回の一件は……この、その……」
彼は一瞬、視線をこちらに向けて、言葉に詰まった。“この異世界人”とは、もう言いにくいのだろう。
「凪でいいですよ」
その一言に、少し面食らったような表情を浮かべた。
「お、おう! 凪には、俺としても感謝しかありません!ですから……この件は、しばらくゼクスラントへの報告は見送るのは賛成です。そしてしばらくは我々、そしてイグナスで保護を続けるべきかと! また彼が標的になったときも我々が市民と同様に守れば良いのです!」
空気が張る中、彼はまっすぐ俺の前に歩み寄ってきた。誰も制止しなかった。その一歩一歩が、全員に何かを伝えていたからだ。
青年は右手を勢いよく差し出した。
「俺は――ガルド・ライネス! イグナスの焔戦団の第四部隊長だ」
太い眉と情熱をたたえた瞳で俺をまっすぐに見つめている。
「凪、お前の勇気に本気で敬意を抱いている!」
俺はその手を、しっかりと握り返す。
「ありがとう、ガルドさん」
誰が最初に手を叩いたのかは分からなかった。けれど、次第に一人、また一人と、幹部たちの手が重なっていく。静かではあるが暖かい拍手だった。
――それは俺という存在を一人の人間と認めて、讃える拍手だった。
俺は、ここにいていいんだ。
そう、思った。
☆今回の一言メモ☆
地球ではうまく満たされなかった凪の承認欲求でしたが、彼の行動が真っ当に評価される場所ができました。




