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白黒の英雄 ~ちょっと記憶力の良い俺が、魔法を無効化しながら異世界を救う話~  作者: アキラ・ナルセ
第四章 地の国編

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第108話 信念不動


「大人しくしているようだな、ミーナ・サフィール」

 

 その少女こそ、ミーナを去さらってこの国に連れてきた張本人。グラディアで“四闘神(しとうしん)”のひとりに数えられる存在――リオナ・ラグナードだった。特徴的な吊り上がった大きな瞳と金の髪をしている。


 ミーナはそれに対して返答する。

「もし私が空を飛べたら……今ごろ、とっくに逃げてますけどねー」


「……心配するな。お前に危害を加えるつもりはない。今のところはな。このあと、食事も持ってきてやる」

 確かにそこには敵意も怒りもなかった。


 ミーナは言葉を失いながらも――その場を動かず、じっとリオナを見つめ返していた。


「リオナさんって……」


 沈黙の中、不意にミーナが声を発した。


「……なんだ?」

 少しだけ間を置いて、リオナが返す。


 ミーナはじっと彼女を見つめたまま、ぽつりとつぶやく。

「大きい目、黄色の細くて綺麗な髪……。それにすらっとしたボディライン……」


 リオナの眉がピクリと動く。


「胸も……大きいし」


「……どこを見ている、この娘は……」


 だがミーナは気にする様子もなく、両手を自分の胸元に置きながら続けた。


「いいなぁ……私なんか体重増えちゃったし、胸小さいし……」


 しょんぼりしているミーナに困惑するリオナ。


「あ、ごめんなさい!」


 ミーナは真剣なまなざしでリオナに向き直った。


「どうして……こうまでして、リシアさんとの決着を望んでいるんですか? リシアさんのことをライバルっていうのは、なんとなくわかりますけど……」


 リオナは一瞬だけ黙り込み、ふっと鼻で笑った。


「……食えない娘だな。いいだろう――あの女がここに来るまで、少しだけ付き合ってやる」


 そう言って、リオナは部屋の隅に背中を預け、腕を組んだ。


「多少は聞いているかもしれないが、この国において人間の価値は――純然たる“強さ”によって推し量る。

 特に我々軍人にとって、それは顕著になる。強さこそが存在意義。強くなければ、生きている意味がない」


 ミーナは静かに問い返した。


「強さって……それは、戦いにおける“武力”という意味ですか?」


 リオナの視線が鋭く向けられる。

「それ以外に、なにがあるというのだ?」


 その答えに、ミーナは一拍おいて、はっきりと答えた。

「“心”です」


 その言葉に、リオナの目が細くなった。

「……なにを言っている? そんなものが、いったいなんの役に立つ?」


 その瞬間、部屋の空気が静かに、しかし確実に張り詰めていった。


「うーん。ナギさんや、リシアさんみたいに上手くは言えませんけど……」


 ミーナは、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「この国の人たちって、なんだか……よそよそしくありませんか? きっと“強さ”だけを追いかけてたら、心のどこかで、寂しくなっちゃうと思うんです」


 リオナは目を細め、すぐに反論した。


「――強さがなければ、魔物にもモンスターにも殺され、奪われる。人同士の争いすら止められない。強さがあるから秩序が保たれる。これは当然の話だ。……お前の言うことは、ただの理想論でしかない」


 その言葉は冷徹で、揺るぎない信念を宿していた。


 だが、ミーナは静かに続けた。


「そうかもしれません。……でも、それでも――」


 彼女の声は少し震えていたが、想いははっきりしていた。


「リシアさんが“変わった”のって、たぶん……強さを求めた先で、ひとりになって、寂しくなっちゃったからだと思うんです」


 その瞬間、リオナの目がかすかに見開かれた。


「……!」


  言葉を失ったのは、むしろ“強さ”の象徴だった彼女の方だった。


「私は――」


 リオナの声が低く響いた。


「私は数々の人間と戦って、強さでここまで来た。

 一人で、ここまでやってきたんだ……! それを否定することは、絶対に許さんぞ!!」


 リオナの瞳が鋭く光り、まるで獣のような気迫でミーナを捉えた。


 だがミーナは怯まなかった。


「一人で……ですか」

 そう言ったあと、わずかに間をおき――もう一度、静かに言葉を紡いだ。


「これは……私の勘ですけど。リシアさんは、きっとリオナさんの言う通り、この場所に来ると思います。でも……そのあと、もう一人。リシアさんを追って、ここに来る人がいます」


 リオナの眼差しが、わずかに揺れた。


「……」


「たぶん、そのふたりなら――リシアさんと、ナギさんなら」


 ミーナはゆっくりと微笑んだ。


「きっと、あなたの“強さ”を……“心”で突破しちゃうと思います」


「――ふ、ふふふ……!!」


 突如、リオナが低く笑い出した。


「はははははっ!!」


 その笑いは、嘲笑ではなかった。

 むしろ、久しく味わっていなかった“高揚”そのものだった。


 ひとしきり笑ったあと、リオナは目を細めて言った。


「そうか……たぎってきたぞ。その“リシアを追ってくる”という人間――お前も、リシアも、その男に(たぶら)かされたんだな!?」


 ミーナは微笑みながら、はっきりと答えた。

「……そう、かもしれませんね。でも――ナギさんなら、きっとあなたも変えてくれると……私は思っています」


 リオナの瞳に、鋭い光が宿る。

「――これは、久しぶりに面白くなってきた」


 そう言い放つと、彼女はくるりと踵を返し、部屋の出口へと向かって歩き出した。


「いいだろう。お前たちの言う“心”とやら……それと、私の“力”――どちらが正しいか、行く末を見届けてやる」


 その背中に、ミーナのまっすぐな声が届く。


「――はい」

☆今回の一言メモ☆

ミーナがリシアと凪のことを大きく信頼していることがわかるシーンとなりました。

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