『プロローグ』
――まさに世界が終わるのは今だった。
空には血のような雨をともなって大嵐が吹き荒れ、稲妻が何本も落ちている。
焼けた大地はすでに死んでいた。緑も、声も――。
遠くの海では巨大な波が街を飲み込んでいた。
――ただひとつ、生き残っているものがあるとすれば、それは。
頭上でまるで神のように存在する、漆黒の“それ”だ。
山よりも大きく、空そのものよりも重い存在。
翼は大気を押しつぶし、尾の一撃だけで街一つが沈む。
存在そのものが災厄とされ、千年の封印を越えて蘇った“古の魔竜”。
その巨大な影を前に、俺はただ――剣を握っていた。
不思議なことだが恐れはない。
「……やるしか、ないよな」
"逃げ道"なんて、とっくにない。
この戦いに勝たなきゃ、何も始まらない。
仲間たちは――いない。
誰かが戦わなきゃならないなら――それは、「俺」なんだ。
俺は、戦うためにここにきた。
未来を託された以上、俺はその意味をこの剣に込める。
古の魔竜が、ゆっくりと首をもたげる。
無数の魔法陣が空に浮かび、その咆哮がこの世界にとどめを刺そうとしている。
俺は右の手を天に掲げる。
「消えろ!!」
俺の目に映る魔法の全てが消えた。
すべての魔法を無に返す“白の力”の放出。それが、俺自身が持つ唯一の力。
でもこれは兵器じゃない。
力のための力じゃない。
古の魔龍は俺を消そうとしている。その神の如き力で。
「……例え、差し違えたとしても、なんとしてでもお前を倒す!」
――その瞬間
体が軽くなった気がした。
光が閃く。
視界が、真っ白に染まった――。
* * *
思えばこの戦いの始まりは、もっと静かだった。
ただ、ひとつの出会いから始まったんだ。
あの赤い髪の少女と、
――まだ何も知らなかった俺との。