変化
「容態は?」
問われて、シロが切なそうに答える。
「変わらない、って」
「そうか……」
あいつと離れて、もう長いこと時間が経ったような気がする。
『任せといて! 俺、案外、丈夫だから!』
笑って言っていたあの時が遥か過去のように思える。
「あの子の回復力を信じるしかないよ。今は」
「そう、だけど……なんか……俺にもやれることねぇかな……」
「クロ……。俺も同じ気持ちだけど……時には人に任せて様子を見ることも大事だよ。焦ったって俺たちには手の施しようがない」
「うん……。分かっちゃいるんだが……」
「……」
椅子に腰掛けて、手元を見つめる。
こういう時、何もできない自分を歯がゆく思う。
クロやあの子に対して、落ち着かせることひとつ出来ない。
普段は偉そうに檄を飛ばしていたって、肝心な時に役に立たない。
ほんと、僕って奴は……
「シロ。俺やっぱ……見てくるわ!」
『あぁ、やっぱりか』
分かってたこととはいえ、こうなっては仕方ない。
「……俺も……僕も行く。一緒に行く」
クロが、目を丸くする。
「え、珍しいな……? お前も来んの……?」
「いけない?」
「いけないことはないけど……大丈夫か?」
「何言ってんの。僕よりクロが心配なんだよ」
ヒュッ……
クロから変な音がした。
「そ、そんなに心配しなくたって、俺ひとりで……」
「心配なんてしてないよ。何? 僕がいると不都合?」
「そ、そそそそんなことはねぇけど!?」
「じゃあ、いいじゃない。家族のピンチに、放っておくほど、人非人じゃない」
「おう……そうな」
クロが痛みをこらえるような顔をする。
まだ、本当は調子が戻っていないんだろう。
『無茶をする』
最善の選択じゃないかもしれない。
本当は動かず見守る方が、あの子のためかもしれない。
でも、それはやってみなくちゃ分からない。
たとえ、僕の行動が間違いでも、出来るだけ後悔が少ない方を選びたい。
僕も、今まで通りとはいかないだろうから。
少しだけ、クロに倣うべき時が来たのかもしれない。