いようと思ったんだ
病室を出たところで、俺は思う。
『もう、退院してもいいんじゃない?』
黒兄ぃも、大分回復してきた。
俺の目から見れば、十分健康だと言える。
少なくとも、ああして軽口を叩ける程度には。
『医者の目には、そうは映ってない、ってことか』
今も昔も、専門家の言うことは難しくて俺にはよく分からない。
病院の個室で、あれだけ好き勝手にやっているんだ。
「健康」のお墨つきをもらってもいいと思う。
むしろ、周囲のためにも、さっさと退院させるべきなんじゃないだろうか。
大学をサボって、病院に押しかけているんだから。
どうせ、黒兄ぃのことだ。
過労かなんかで倒れただけなんだろう?
誰も……俺には本当のことを教えてくれないけれど……。
ねぇ、俺、分かってるよ?
みんなが、こぞって何かを隠したがってるの。
俺にだけ、何か大事なことを話せずにいるの。
ねぇ……
俺って……そんなに信用ないかなぁ?
俺ってそんなにダメな奴?
みんなが話し合って、俺に隠すと決めたなら、俺に出来ることなんてないけど……。
ないけど、なんか……寂しいじゃん。
みんなが知ってて、俺だけ……俺だけが知らないなんて。
俺だけ仲間外れ、みたいで。
寂しいじゃん。
「なかまにいれて」
そう言えたら、ラクなのに。
「僕にも教えて」
そう、伝えられれば、ラクなのに。
俺の口は、ぎゅっと結ばれたまま、言の葉を形にはしてくれない。