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Life is Change

Life is Change

「あれ?もしもーし?聞いてる?ってもしかして先輩だったりしますっ?!……って上履き、青色だ!ってことは同級生じゃん!良かったぁ……先輩かと思っちゃった」


『何が』かについては言及を避けるが、全体的にいろんなものが大きい女子生徒がボクだけの聖域(サンクチュアリ)に躊躇なく入ってきてそう叫んだ。

 

「え?っ……な、な、何の用ですか……」

 ボクは驚き、言葉に詰まる。

 

「えっ!?……んー?別に用なんてないよ?知ってる曲が聞こえてきたから『あー!知ってる曲だ!』って思ったらトビラ開けちゃってただけ!……演奏してたのが先輩だったら怒られちゃうところだった!気をつけないとだぁ。……それよりさ、さっきのギター?あれ演奏してたのキミでしょ?他に何が弾けるの?」


 そう言ってボクより背の高いブレザー姿のクラスメイト、《初音由衣(ハツネユイ)》は乱雑に重ねて置かれた椅子に手を伸ばした。その中の1番上の椅子を取り、椅子の背をコチラに向けて大股開きで跨ぐように座る。その挙動のせいで体操服のズボンが少し見えた気がしてボクは急いで視線を逸らした。

 

 え?ていうか居座るの?!


「……あれ?もしかして私、無視されてる?」

 視界の端で初音さんはふざけるよう、大仰に手をブンブンと振るのが見えた。


 ……どうやらボクは長くフリーズしていたらしい。『女子高生と密室で二人きり』なんて、ボクのような《三軍扱い》の高校生にとって刺激が強すぎる。 

  

「無視をしていたわけじゃない。……です。……ただ考え事をしてただけです。……よ。」

 ボクは緊張から語尾が定まらない。

 

「そうなの?考え事って?」

 

 ――そりゃ緊張もするさ、一度も話したことのない女子生徒、しかも相手はいわゆる《一軍》ってやつだ。ボクなんかとは生涯関わらなくてもおかしくない相手なんだ。

 というか、そもそも《女子》というだけでボクからしたら会話困難な難敵なのに、彼女の場合はそこに《一軍》、《運動部》、《高身長》だなんて苦手属性も付与されやがる。

 《部室》というコチラに有利なフィールドでも圧倒的に不利。喋り方が変になるくらいで済んでる事を褒めて欲しいくらいだ。


「……?また無視?私、キミになにかしたかな?あっ、もしかして邪魔だった?帰った方が――」

「――邪魔じゃないですよ!」

「え!?……あぁそう?」


 しまった!

 思わず食い気味に返事をしてしまったせいで()()引かれてしまった気がする。


「いや、えーと、ボクはずっと一人で演奏してるので、誰かに聴いてもらうことでいい刺激になるっていうか!一人だと成長の限界?とかそう言うのあるじゃないですか?!見られることでいい緊張があって集中力が上がる的な?」


 必死に取り繕う自分がいた。そんな自分を、なぜだろう?と冷静な自分が後ろから見てる気分になる。本来なら一人の方が楽だし、彼女に去られたところで問題はない。……なのにボクは今、必死になって取り繕い、彼女がこの場を去らなくなる理由を探していた。

 これが俗に言うところの、エゴとエゴが綱引きしてる状態ってやつか。……なんかの歌詞みたいだな。


 ……なんて無駄な事をボクが考えていると、初音さんは納得したように頷き、「そっか、わかるよ!バスケでもそうだったもん!人に見られてると緊張するけど、そういう時に実力発揮できないといけなかったし、人に見られるのって練習になるよね!」と言って顔の前で親指を上げる。

 勝手に納得してくれたのはありがたい。


「それで?何を考えてたの?」

 初音さんはそう言って下から覗き込むようにコチラを見る。


 その仕草に、童貞らしく『わぁ、女の子ってマツゲながぁい!』とか『の、のぞきこまれちゃうと照れちゃうよ……』みたいなリアクションが出来るタイプじゃないボクは窓際に向かって歩を進め、真っ赤になった顔を隠す。

 くしくも、『背で語る』みたいな雰囲気になった事に自分で笑いそうだ。


「初音さんが……好きな曲って何かなって考えてました」

「…………え?!」


 ………………間違えたッ!!!!

 くっ、……『他に何が弾けるの?』って最初に聞かれたから『初音さんの知ってる曲』を考えてました。って言おうとしたのに『好きな曲』って言ってしまった。我ながらキモすぎる!キモすぎるぅぅぅうう!!

 

 今度こそドン引きされた、『ドン引き確定ね』ってヤツだ!絶対やばい!明日からどんな顔して教室にいけばいいんだ?!振り向くのが怖い!恐ろしすぎる!!


「……なんで私の名前知ってるの?私、自己紹介したっけ……?」

 あっっっぶっねー!セーフ!

『クラスメイトに自分の存在を知られていなかった。50のダメージ』。…………いや、致命傷なんだけど。

 

 

「……同じクラスの田中です」

 ボクは振り返ってそう名乗った。くそっ、なんかカッコつけたみたいだ。

 

「ええっ!?そうなの!?同じクラスっていつから!?」

「四月からですね。お互い入学してから一度も進級してないし、クラス替えもないので全ての同級生が四月から半年以上、最初に振り分けられたクラスに在籍してるはずですが?」

 少しシニカルで意地悪な物言いをしてしまった。

「半年以上……?えー……」


 そう、今は十一月!つまりボクたちは同じクラスになって半年以上経過してるのだ。


「えーと、……ごめんなさい!」

 椅子に逆向きで座ったまま初音さんは頭を下げた。


「……いえ、謝らないでください。初音さんは悪くないです。授業中以外は教室にいないボクが悪いだけなので」

「えー、そうだとしても私が悪いよ。クラスメイトなのにゴメンネ?」


 初音さんはそう言うと、顔の前で両手を揃えて謝るポーズをとり、首を少し傾けた。


 170センチを優に超えるであろう、その大きめな体と対照的にあどけなさの残る幼顔、運動部の女子らしさを感じる短くまとまった髪が首を傾けた拍子に少し揺れた。


 あぁなるほど、周りの同級生たちが愛だの恋だのなんてものにうつつを抜かす気持ちが少しわかった気がする。……止められないんだ。自分がどう考え、どう制御しようと試みたところで、想いってやつは勝手に溢れちまうんだ。


「うーん、私の好きな曲かぁ」


 ――彼女の口から発せられた《好き》という単語が頭の中で反響する。

 我ながら気持ちの悪い脳みそだと反省するが、……止められる気がしない。


「えっとね、……私はYUIのグロリアが好き」


 知ってはいるが、弾けないタイトルだ。

 素直に弾けない……と言えば彼女はこの場を去るだろう。そうすればまた明日から『覚えてもらえないクラスメイト』に逆戻り待ったなし。


『寂しくなんかない』って言ってた?いいや、それはウソだ。ボクは余計なことばかり考える脳をフルに回転させ、妙案を手繰り寄せる。


「どう?聞いたことある?いつだったか、CMとかでも使われてたから有名な曲だと思うんだけど?」


 一か八かだ。


「……いやぁ……、そのっ、今日ボクが持ってきてるのエレキで……。あ、あのアコギかエレアコ持って来てたら弾けるんですけどっ」

 

 ボクはそう言って頭を掻く仕草をする。

 ……コレも嘘だ。本当は弾けない。

 それにアコースティック向きの曲かどうかも定かじゃない。…………だからコレは一か八かの賭けだ。どうだ?通ったか?!


「…………え?アコギ?エレアコ?……ってなに?」


『ごめん、わかんないや』と俯く初音さんをみてボクは心の中でガッツポーズをした。

 勝った!賭けに勝った!


「……2つともギターの種類です。えーと、説明するよりモノを見て聞いてもらった方が分かりやすいと思います」

「そっか、そういうのがあるんだね。じゃあ……明日は?」


 明日っ?!

 無理だ、早すぎる。いくらなんでも一日で耳コピできる訳ない!


「……あ、あしっ、明日ですか?いやぁどうでしょう……。あっ、そうそう部室!明日は部室が使えないんですよ!」

「えー……そうなんだ。……今日は木曜日だから――来週は?」

『女の子と次に会う約束をする』という超絶ビッグな青春イベントが舞い降りて来たことに驚き、膝が震える。コレってもうデートじゃん!


「来週!来週なら平気ですよ!」

 

 良かった。流石に知らない曲ならヤバいけど、知っている曲だし、1週間もあれば多少は形になるはずだ。耳コピはずっとやってきた、ボクの唯一の趣味で特技なのだから――。


「――じゃあ週明け、月曜日ね!楽しみにしてるね!」


 ――は?

 短っ…………。


 ガラっ!と大きな音がして我に帰る。初音さんが勢いよく扉を開いた音だと気づいた頃には、彼女の姿は見えなくなっていた。

 


ハッキリと誤魔化さずにいうと、第一話に対する反応がなく、あぁコレは書いても読んでもらえないんだろうな。と思いました。でも、結局のところ書かないと成長もしないだろうと思い書き続けることにしました。


面白いと思ってもらえたら幸いです。

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