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第八話 クソ父親

「ただいま」

「おう、あと五分遅かったらビンタしてたところだ」


 そこにはお母さんじゃなく、お父さんがいた。


「さて、お疲れの俺のために肩をもんでもらおうか」

「はい」


 そして意識を閉ざし無心で肩をもむ。本当は触りたくない。でも、ビンタを避けるために揉む。本当おかしくなる。揉むんだったら茂君の肩を揉みたいよ。


 はあ、彼に、茂くんに会いたい。その思いが胸を埋め尽くす。今はそれしか考えられない。むしろ茂くんのことを考えないと、もはやどうしようもない。


 そして、肩もみから解放されたら次は何かというと、楽しくないご飯だ。食卓に並べられたご飯を食べる。いつも通りの、くだらない日々。彼が、茂くんがいなければ。

 隣に座っているのがお母さんじゃなくて茂くんだったら、前に座っているのが鳩さんだったら、そんなありもしない光景を思い浮かべてはまた絶望する。私にとっては昼のお弁当の時間だけがまともなご飯の時間だ。


 お母さんの話に作り笑顔で答え、お父さんに媚びを売る作業が終わり、部屋へと戻った。

 そして、電話をかける。すると元気よく茂くんが電話に出た。


「今日もかけてくれた! うれしいな」

「茂くんも毎日よく私の電話に出てくれるね」


 この二週間本当に毎日出てくれるのだ。感謝しかない。


「だって学校外でも喋れるとか最高じゃん。楽しいし」

「やっぱり茂君は私を楽しませる天才だー」

「ったりめえだ!」


 そして会話が弾んでいく。そんな中、


「おーいお邪魔するぞ」


 お父さんの声がした。それを聞いてすぐに、茂くんに小声で「今はしゃべらないで」と、指示を出し、笑顔でお父さんを迎える。


「どうしたの?」


 恐怖を押し殺して笑顔で言う。笑顔じゃないと、殴られてしまう。


「ちょっとなあ、俺お前と話したいことがあったんよ」

「何?」


 意味が分からないけど、たまにこうしてお父さんに部屋に勝手にはいられて話をされることがあるのだ。会話の内容? 基本的にくそみたいな内容で一方的に叱責されることが多い。なんで、会話中に入ってくるのよ。本当お父さんマジで。


「お前は俺のお金で生きていってる」

「……」

「感謝しろ」

「ありがとうございます」


 と、お父さんに土下座する。

ビンタと土下座のどちらか楽か聞かれたら答えるまでもない。


「踏むぞ」


 そして背中を踏まれる。お父さんの欲求を満たすためのものだ。とりあえず今は我慢だ。我慢しかない。


「娘ってこう言うためにいるんだろうな。俺の日々のストレスを解消するためにさあ!」


 そんなことない!!!! と言いたいところだが、言っても無駄だ。余計私の立場を悪くするだけだ。私に出来るのはこの厄災を耐え切ることだけだ。

 しかし、それにしても最近は肩揉め程度の要求しかなかったのに、よほど嫌な方があったのだろうか。

 だがそれを聞くのはリスクがありすぎる。お父さんに嫌なことを思いださせて、さらに機嫌を悪くする可能性がある。


「それとなあ」


 背中を踏む事に飽きたお父さんが、口を開いた。


「お前、お小遣い持ってるか?」

「え? 五千円持ってるけど」

「その金ギャンブルに使っていいか? ストレス解消としてな」

「……ごめん、それは嫌」


 次の瞬間、地面に頭をぶつけられた。


「素直にお金を渡せばいいんだよ! それぐらいわかれ! このクソ娘が。よこせ!」


 そして私の頭を床に叩きつけながらカバンの中から財布を取り出し、その中の五千円をあっさりと奪った。わずかなお小遣いの中で、私が頑張って貯めていたお金なのに。


「これでいいんだよ」


 ああ、結局現実は現実だな。茂くんが居たところでお父さんがいると言う現実は変わらない。何も変わらない。変わるのは結局学校だけ、茂くんの関わりようがない家は変わらないのだ。

 お父さんが出ていった後、思わず涙が出てきた。本当にこんな非人道的な行為が許されるのだろうか、私はただ普通に暮らせたらいいだけなのに。こんなのでもいなかったら私は生きていけないという事実が嫌になる。能力のない私には従うしかないのだ、生きるために。


「あ、そうだ」


 と、スマホを取る。

 そうだ、今の私には茂くんがいる。茂くんと話せる。


「もしもし」


 もしかしたらお父さんの行いを聞きたくないと言う理由で通話が切られているかもしれない。二〇分くらいかかっていたわけだし。

 返事が返ってこないのが怖い。もし、返事が返ってこなかったら、私は絶望でこの場で倒れこむだろう。そんな自信がある。


「終わったのか?」


 そんな私の恐れを消し去るように彼は少し心配そうにそう言ってくれた。


「うん。どれくらい聞いてた?」


 恐る恐る聞いてみる。前もって大分お父さんがくそなのは言っていたが、もし耳元で、好きな人の父親がこんなくそ野郎だと知ったらショックかもしれない。


「大体はな……」


 大体聞いていたらしい。反応が怖い。もしもこれで……私まで嫌われたら……。


「愛香!! 俺にできることがあったら言ってくれ。どう考えてもさっきまでのは明らかにおかしい」

「……ありがとう。やっぱり茂君は優しいね」


 良かった。茂君は茂君だ。私の救世主だ。


「当たり前だろ。むしろこれで憤慨しない奴がどこにいるんだ」

「……ここにいるよ。もう憤慨する気力もなくした。さっき抵抗してみたけど、だめだったし」


 もはや私はあの男におびえながら過ごすしかない。それはもう誰の目にも明らかなことだ。


「離婚を要求するのは?」

「無理だと思う。お金の問題だとか、色々あるし」

「でも、おかしいだろ!!」

「おかしいよ。でも、それで何ともできないのが今の私なの……」

「……明日お前の家に行っていいか?」

「そんなのだめだよ」

「大丈夫。愛香に迷惑かけないから」


 そんなことを言って、「じゃあまたあとで」と言って電話が切られた。いったい何をするつもりなのか?

 


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