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大阪梅田あやかし横丁~地下迷宮のさがしもの~  作者: 真鳥カノ
其の陸 迷宮の、出口
91/105

横丁の父?

 ここで張り込む理由がなくなったとなると、初名は急にそわそわし始めた。

「あの……私、ここにいて大丈夫なんでしょうか? 出入り禁止ですよね」

 堂々と辰三に着いて入ってきたくせに、今更怯え始める初名を、辰三も弥次郎も呆れて見ていた。

「何言うてんねん。ここまで来といて……」

「別にええやろ。そんなことにいちいち目くじら立てとるほど暇ちゃうからな、あいつは」

「ああ……世話役ってそんなに大変なんですね」

「いや、迷子になってそれどころやないっちゅう意味やで」

「ああ……」

 風見だけでなく、弥次郎や辰三の苦労までも窺える発言だった。

 言葉を無くしていると、弥次郎はそんな初名の顔を窺うように覗き込んだ。

「なぁ、風見が言うたこと、理不尽やと思うか?」

「風見さんが言ったこと……出入り禁止のことですか? いいえ」

「そうか。良かった」

 弥次郎が目に見えてホッとした表情を見せた。少し珍しい。

「あいつも、キミが憎くて言うたんとちゃうからな。そこ誤解して、もう来んようになってしもたら悲しいと思たんや」

「それは何となくわかります。風見さん、ここの人たちのことをすごく大事に思ってるんですよね。百花さんへの接し方を見て、そう思いました」

「そうやな。あいつは……ここの世話役で、この横丁を作った|者≪もん≫やからな」

「だとしたら……この横丁皆のお父さんみたいな人ですか?」

 初名のその言葉に、弥次郎も辰三も苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

「それは不本意や」

「あんなん親父やない」

「わ、わかりました。すみませんでした……」

「でも、まぁ……あいつ自身は、そう思てるかもな」

 弥次郎がそう言うと、今度は、辰三も頷いた。

「僕ら皆、風見さんに呼んでもろたようなもんやしな」

「……”呼んだ”?」

 初名が尋ね返したのとほぼ同時に、琴子が皿を持って卓の前に立った。

「はい、お団子お待ちどおさま……なに、風見さんの話?」

「そうや。俺ら皆、風見に呼ばれて集まったっちゅう話や」

「そうやったねぇ。うちらなんか、死んだばっかりで右も左もわからんかったところを、いきなり『俺らの近くに店出したらええわ』なんて言われて、そらびっくりしたもんやったわぁ」

 随分と、唐突な申し出だ。その時の状況を知っているのか、弥次郎も辰三もクスクス笑っていた。

「弥次郎さんも辰三さんも、そんな感じなんですか?」

「俺か? 俺は……俺の持ち主やった奴を探してたんやけど、もうとうに死んどるて風見に言われて気付いてな。途方に暮れとったら、腰落ち着けるのにええ場所があるて言うて、連れてこられたんや」

 次に辰三の方を向くと、辰三は少し肩をすくめて、ぼそぼそと喋った。

「僕は人の紹介やな。でも僕を拾ってくれたその人は、絶対に信用出来る男や言うて、風見さんに引き合わせてくれたわ」

「へぇ……やっぱり、器が大きいんですね」

「まぁ狭量ではないな」

「そうや。清友さんに聞いたことあったわ。風見さん、色んな土地で同じようなことしとったって」

「清友さん? 清友さんに会ったことあるんですか?」 

「露天神社の撫で牛さんやろ? キミこそ知っとったんか」

「撫で牛……」

 そう聞いて、ようやくすべてが腑に落ちた。初名のことをよく知っていたことも、境内で起こったことを収めてくれたことも。

「まだここが閉じる前は、よう会うとったわ。風見さんと清友さんは兄弟みたいなもんやしな」

「そ、そうなんですか?」

「そう聞いてるで」

「なんせ二人とも……いや、”二人”は変か。”二頭”とも、あの菅公にそれは可愛がられとったらしいからな」


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