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大阪梅田あやかし横丁~地下迷宮のさがしもの~  作者: 真鳥カノ
其の伍 紡ぐ思い、解ける時間(とき)
83/105

救済、そして……

 初名も百花も揃って首をかしげると、風見は手にしていた針で、自分の指を突いた。突いた先から、宝石のような真っ赤な玉ができた。

 風見は、それを百花に向けて振りかけた。

「風見さん、何を……」

 その言葉の言い終わる前に、百花の体はするりと消えた。

 あとにはただ、真っ赤な襦袢だけが残っていた。初名は、それをただただ掻き毟るように、抱きしめた。

「百花さん……!」

「おい、あんまり強く握るなや。ホンマに死んでまうぞ」

「ホンマにって何ですか……え?」

 よく耳を澄ませると、足下でカサカサと音がした。その音は、百花の襦袢の裾から聞こえて、よく見たら中で何かが動いていた。そっと、裾から顔を覗かせたのは……

「く、蜘蛛!?」

 それは、確かに蜘蛛だ。人の足の甲ほどの大きさほどもある、真っ黒な、だが原の崎が赤い、しなやかな動きを見せる蜘蛛だった。

「……え、もしかして……?」

 風見は、にやりと笑って、その蜘蛛を手のひらにひょいと載せた。

「そう、百花や。力が弱っとって人の姿になられへんけどな。ゆっくりでも力を取り戻したら、また|あの≪・・≫百花になれるんちゃうか」

「ほ、本当に……!?」

 蜘蛛は、風見にぺこりと頭を下げ、次いで初名の方に向き直った。なんだか恥ずかしそうに、もじもじと動いている。

 初名が指を近づけると、蜘蛛は、そっと触れた。

「ああ、百花さんだ……!」

 触れた先から伝わってきたのは、初名の手を優しく握ってくれたあのぬくもりと同じだった。

 今度は、別の涙があふれ出て座り込んでしまった初名を見て、風見は満足そうに笑った。

「辛いな、百花。お互いに大事に想う|者≪もん≫ができたら、寿命でも簡単に死ぬわけにはいかんのやで」

 蜘蛛……百花が、静かに頷いたように見えた。

ーーと、その時、店の外がにわかに騒がしくなった。

 どうも横丁の面々が集まっていたらしい。だが、それにしても騒然としている。どうしたのかと思った矢先、勢いよく戸が開いた。

「百花おばちゃん!」

 戸口には、女の子が立っていた。いや、年の頃は初名とほぼ同じだ。だが制服を着ていて、明らかに高校生の出で立ちだった。

 その女の子を、外にいた面々……おもに弥次郎や辰三、ラウルたちが引き留めようとしている。

「|絵美瑠≪えみる≫、後にしなさい!」

「お父さんは黙ってて!」

 そんな制止を振り払って、女の子はずんずん入ってきた。目には、じんわりと涙がにじんでいる。

(ああ、この子も百花さんが好きだったんだなぁ)

 そう思い、初名は百花の前を空けた。

「おばちゃん! 嘘や! なんで蜘蛛になんかなってもうたん!? そやからお父さんにあげる血、ちょろまかすって言うたのに……!」

(お父さんにあげる血……ああ、そうか。ラウルさんの娘さん……)

 女の子の泣き叫ぶ声を聞きながら、ぼんやりとその女の子の姿を見つめていた。室内は暗く、相手の顔はよく見えない。だが先ほど逆光の中で見た制服は、見覚えがある。それに、今聞こえるこの声も。

「……この制服って……甲西大付属高校……?」

 間違いない。この制服は、初名の通う大学の付属校のものだった。

「甲西付属の、『絵美瑠』……って……」

 名を呼ばれて、女の子は振り返った。その顔は、初名の知る人のものだった。

 女の子も同じことを思ったらしい。二人揃って、驚きのあまり目を見開き、そして同時に呟いていた。

「小阪、初名さん?」

「都築……絵美瑠さん……!」

 遅れて店に入ってきたラウルが、二人を見て唐突に言った。

「ああ、そうか。去年の大会の団体戦で対戦したのって、初名ちゃんやったんか、絵美瑠」


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