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大阪梅田あやかし横丁~地下迷宮のさがしもの~  作者: 真鳥カノ
其の伍 紡ぐ思い、解ける時間(とき)
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百花の告白

「百花さん……」

「百花、お前……」

 驚くと同時に、どこか気まずい空気になった初名と風見を見て、百花はクスクス笑った。

「いややわ、二人して熱ぅなって。うちのために、そんなケンカせんといてぇな」

 どこから話を聞いていたのだろうか。初名は思わず俯いてしまった。そんな初名の顔を覗き込んで、百花は頬を撫でた。

「なんや、嫌な思いさせてしもたね」

「そんなことは……!」

「ええんよ、そう思て当然なんやから」

 本当にそんなことは思っていない、そう否定しようとした。だが百花は、よしよしと頭を撫でるばかりだった。

 そして、風見とラウルの方も向き直った。

「そやけど自分のことは、きちんと自分で話す。もうお手間かけませんよって……初名ちゃん、場所、変えよか」

 心配そうにこちらを見つめる琴子と礼司の顔を見て、初名は頷いた。

 立ち上がりかけたその時、初名の腕を、正面にいた風見が掴んだ。

「俺も立ち会う」

 百花の顔に浮かんでいた笑みが、ほんの少しだけ、悲しそうに滲んだように見えた。

「もう、信用してくれへんのやね、風見さん」

「俺は、ここの世話役や。全員を守る義務がある……全員を、や」

 風見は、初名とラウル、そして百花と順に視線を送っていた。

「信用するんと、見過ごすんは、大きく違うんやないか?」

 百花は、小さく頷いて、初名と風見の先頭に立って、歩き出した。風見もそれに付いて歩き出し、続いて行こうとした初名の前に、ラウルが遠慮がちに立った。

「初名ちゃん、申し訳ない」

 そう、深々と頭を下げるラウルに、百花への他意などないのだとわかった。

「百花さんは、うちの娘にもホンマに良うしてくれた。そやからきっと初名ちゃんのことも……それやのに……」

「私はいいです。後で、一緒に百花さんに謝りましょう」

 ラウルにそう言い置いて、初名は店を後にした。

 きっと、自分も謝らなければならないと初名は思っていた。風見やラウルの話を聞いて反発していたが、心のどこかでは、風見の言っていた|最悪の状況≪・・・・・≫を想像してしまったのだから。


******


「さて、何から話そうかなぁ。何話したらいいと思う、風見さん?」

 『仕立屋 太夫』に戻ると、百花はゆったりと座りながら、そう尋ねた。そんな百花とは対照的に、風見は初名や百花には背を向けたまま座り込んでいた。

「俺は立ち会いはするけど口は挟まん。好きに話したらええ」

「……やって。何が聞きたい、初名ちゃん?」

 その声は、ゆったりとしていて優雅にも聞こえるが、初名にはどこかいつもと違って聞こえた。いつもよりも、ずっと沈んだ声のようだった。

 だから、今の気持ちを隠さずにハッキリと尋ねることにしたのだった。、

「おばあちゃんのこと、話して欲しいです。どんな風に過ごしてたか、どうして……ここに来なくなったのか」

「……そうやねぇ」

「あと、百花さんはおばあちゃんのことを、本当はどう思っていたのか」

 百花の眉がぴくりと跳ねて、そして悲しそうに垂れていった。初名までが百花のことを疑うようなことを言った。百花を、悲しませてしまった。

 だけど、初名は百花を信じたかった。だから、尋ねることにした。

 百花は、しばし考え込んだ後、静かに告げた。

「あの子は……梅子は、うちの……友達……」

 その言葉に、初名の心がふわりと軽くなった。が、百花は続けた。

「友達になれたかもしれへん子。でも、無理やった。うちはあの子を、喰おうとしてしもたんやから」


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