告解
初名の声は、震えていた。泣いているのか、怯えているのか、両方か。
その言葉を受け止めた百花は、驚く様子もなく、ゆったりと初名の顔を覗き込んだ。
「……なんで傷つけてしもたんか、聞いてもええ?」
初名は、ゆっくりと頷き、呼吸を繰り返してから、話し始めた。
「去年、剣道の大きな大会に出ました。高校生活最後の、全国大会です。絶対に負けたくなかったから、気合いも入ってたし、興奮もしてたと思います。部員……仲間も皆同じで、団体戦でも決勝までいきました」
「いやぁ……全国大会の、決勝? 凄いなぁ、ホンマに凄いわ」
百花は、珍しく頬を染めながら喜んでいた。だがそんな嬉しそうな顔をされると、初名はかえって苦い気持ちになっていた。
「団体って確か……順番決まってるんやなかった? 中堅とか、大将とかが強いんやろ?」
「はい。私は中堅を任されてました。決勝の相手校は、団体戦に二年生が混ざってて、その子が中堅で、私の相手でした……すごく強かった」
「いやぁ、その子も凄いなぁ」
初名は、その言葉には苦いながらも笑って頷いていた。
「大将戦より凄かったって、終わった後、皆に言われました」
「そうなんや。どっちが勝ったん?」
「……相手です」
「……そうか」
百花の声が、少し気遣わしげに響いた。初名も声を落としてしまったからかもしれない。だが、初名がはっきりと言えなかったのは、それだけが理由ではなかった。その空気を、百花は感じ取ったようだ。
「……その試合で、何かあったん?」
初名は、再び深呼吸した。答えるために、心の準備がいるのだ。
「私の竹刀が、折れてしまって……」
「竹刀が折れるて……そんなことあるん?」
「滅多にないですけど、たまには。激しくぶつかった時に相手の竹刀が私の竹刀に突き刺さって、勢いで離そうとしたらものすごく|しなって≪・・・・≫、メキメキッて音がして……」
「いやぁ……」
「あ、でも別に反則じゃないんですよ。審判に言って試合を止めて貰って、急いで竹刀を替えたから試合は続けられました。けどなんだか集中が切れちゃって……それを原因にするべきじゃないとは思うんですけど、やっぱり悔しかった。コートを出て面を取った後も、私、ぶっきらぼうにしてたんだと思います。大将戦まで終わった後、中堅戦のその子が来てくれて、謝ってくれました」
「……ええ子やね」
「そう思います。ただちょっと強引で……自分の竹刀を私に押しつけて、折れた竹刀を持って行こうとしたんです。お詫びですって言って」
「あら、まぁ……」
「負けた直後っていうのもあったし、あまりに強引に持って行こうとするから、自分で思ったよりも強く引き留めちゃって、ちょっとしたもみ合いみたいになってしまって……その、竹刀の、折れた先が……目に……」
百花の静かな呼吸の音が響いた。だがそれ以上に、初名のしゃくり上げる声が、大きく響いていた。
初名は拳を必死に握りしめ、口を閉じて嗚咽を堪えようとしていた。




