一緒に、食べよう
「まぁ、供養みたいなもんや。どうせ他に食べたい物もないんやし。それならあの子らの分食べたってもええやろ。なんせ今の時代は甘味で溢れとるからな。毎日極楽やろ」
そう言った辰三の笑みは、どこか寂しげだった。何かを美味しいと思うことがないということではなく、その喜びを共有できる相手がいたのに、できなかったからだ。
だから、辰三の心は、満たされない。満たされないからこそ、きっと今でもこうして、彼らの”甘い”を求めているのだ。
「まぁ出来へんもんは仕方ないわ。ところでさっきから全然食べてへんやん。いらんのやったら僕が……」
抜け目なく手が伸びて来るので、初名はその手をはたき落とした。痛覚があるのか反射的なものか、辰三は若干眉をひそめた。
「冗談やん。怖いなぁ」
「なに、人のもの盗ろうとしてるんですか」
「だから、ごめんて」
「そうじゃなくて……なに、人の分で満足しようとしてるんですか」
「……は?」
きょとんとしている辰三を放って、初名は手を挙げた。
「すみません! お団子……いえ、あんみつください! 大盛りで!」
奥から顔を出した琴子までが、目を丸くしていた。当然、目の前に座る辰三も。
「何言うてんねん。まだ食べるんか」
「だって供養なら、私たちだけが食べたって仕方ないじゃないですか。一緒に食べないと」
「一緒て誰と?」
「家族と、です! お団子よりもあんみつの方が分けやすくて、一緒に食べてるって感じしませんか?」
初名の叫びに応えるように、机の上で、ドンと大きな音が響いた。見ると、大きな丼にたっぷりとあんみつが盛られている。
それを置いた腕はか細いが、それを置いた主の顔は、逞しかった。
「そういうことなら、どーんとお食べやす」
「琴子さん、ありがとうございます! こんなにたっぷりだったら、きっと大満足ですよね?」
訊ねる初名の顔を見返す辰三の瞳は、驚きで大きく開かれていた。澄んだ色をしていると思ったが、今は、それが目いっぱい開かれて、大粒の宝石のようだった。瞬きを繰り返すたび、キラリと光が増していく。
「は……ははは、確かにそうやな」
辰三は小さく笑い、琴子に向けて手を挙げた。
「琴ちゃん、あんみつ、あと2つ頼むわ」
「2つ!?」
「そらそうやろ。家族は一人ちゃうで」
言われてみれば、そうだった。あの箪笥の上に並んでいたのは、女性一人と子供が二人……全員で三人なのだ。
「いやぁ……注文してくれるんはええんやけど、大丈夫? そんなに食べきれます?」
琴子が心配そうに眉を下げた。今出してくれたあんみつは、おそらく二人前はあるだろう。それを、あろうことか三皿注文しようとしている。
だが辰三は、少しも怯むことなく、初名を見て言った。
「一人ではさすがに食べられへんわ。そやからな……手伝うてくれるか?」
初名は、気付くと迷うことなく頷いていた。
「はい、もちろんです!」




