表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大阪梅田あやかし横丁~地下迷宮のさがしもの~  作者: 真鳥カノ
其の三 甘いも、酸いも
36/105

鞄をありがとう

 青年は顔を上げてからも、どこか申し訳なさそうな面持ちだった。

「えーと……影響って、何がですか? 私、何も持病とかないですよ?」

「さっきのあの女の子の怨念を喰らったやろ。その影響や」

「怨念て……」

 そう言われて、思い出した。確かに先ほど、ジェラート屋さんの前にいた女性から黒いもやが溢れているのを見た。風見たちは、確かにあれを『怨念』と呼んでいた。

「そうでした。あれを見て、私、倒れたんでした」

 青年は、深く頷いた。

「あやかしとか神さんとかの存在を感じ取れるんやから、ああいう悪いもんも見えてまうんやろな。見えたら、そら影響受けへんはずがないやろ」

「でも私、今まであんな黒いの、見たことないですよ」

「まぁそこは風見さんと縁ができたせいとちゃうかな。他の理由かもしれへんけど。とにかくさっき倒れたんは、僕の不注意。すんませんでした」

「と、とんでもない! お世話になってありがとうございます!……でも何で助けてくださったんですか?」

「……は?」

 青年は、心から初名の言葉が理解できないといった顔をした。何を言っているんだ、と顔に書いてある。

「だって初対面ですよね? こんなに面倒見て頂いちゃって申し訳なくて……」

「初対面とちゃうけど?」

「へ?」

 怪訝な顔をしていた。それどころか、不機嫌さがにじみ出た顔だ。

 だが何度見直しても、青年の顔に見覚えがなかった。

 深く首をかしげていると、青年の眉間にも深いしわが刻まれていった。

「僕のせいで倒れたし、それに約束もあったから連れてきたんやけど……そんなに嫌やった? 記憶から抹消するぐらい?」

「いや、そんなことは……約束って何ですか?」

 青年は、手元の布に視線を落とした。どうも何やら針仕事の最中だったらしい。すぐに糸を結び、初名の目の前に差し出した。

「ん」

 よくみると、差し出された布には見慣れた柄が見えた。

「これ……私の鞄……?」

「いらんの?」

「いります」

 受け取った鞄は、確かに初名が持っていたものだ。梅の柄の着物が元になっている。底に空いていた穴は、まるで初めからなかったように塞がっている。

「あ、ありがとうございます。繕ってくれたんですね……って、約束ってこれことですか?」

「そうやで」

 思い返せば、つい先ほど、そんな約束をした。そしてその約束をした相手とは……

「もしかして……辰三さん?」

「他に誰がおるねん」

 針仕事を終えたらしい辰三は、そう言って肩をたたいて伸びをした。まだ驚いている初名に、ちょっとぶっきらぼうに言い放った。

「はーくたびれた。予定外の仕事したら疲れてしもたわぁ。さっき約束したジェラートのおかわりも食べ損ねたし、何か甘いもん食べたいなぁ~」

 辰三の視線が、チラリと初名に向いた。初名はその意図を、瞬時に理解した。

「はい! もちろん、お礼とお詫びを兼ねて、ごちそうさせて頂きます!」

 その言葉を聞いて、辰三はニンマリと口の端を持ち上げていた。その顔は、確かに包帯の奥から覗いていた、あの笑みと同じだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ