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大阪梅田あやかし横丁~地下迷宮のさがしもの~  作者: 真鳥カノ
其の二 指輪は、待っている
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ここに、いる

「そやけど、あの子を送り出した後、風見に言われてしもうた。俺らは待つことはできるが、一緒に逝ってやることはできん。あの子を、ここにずっと留め置く気かって。それからずっと、どないしようか考えとった。けど……良かったわ。キミと会えたみたいで」

「……え、私ですか?」

 弥次郎は頷いた。少し遅れて、風見も同じように頷いていた。

「あの子は、もう俺しか拠り所のない寂しい子やなくなっとった。だから、勇気を出してあの指輪を選ぶことができたんや。俺が言うのも変やけど、ホンマにありがとう」

「そ、そんな……」

 戸惑う初名に向けて、弥次郎は手を差し出した。

「これ……礼になるんかはわからんけど」

 受け取れと言うように、拳をぐっと突き出している。初名がそろそろと手を差し出すと、掌に小さなものが落ちてきた。

 小さな、プラスチックの竹刀……御守りについていたストラップだ。

「あ、これ……無くなったと思ってたのに」

「みたいやな。俺のとこに来とったわ」

 その時ふいに、風見の言葉を思い出した。確か、先日、こう言っていた。

『持ち主と深い絆で結ばれた、”探しもの”しとる奴が集まってくるんや』

 御守りもここにあった。ならば、同様にこの小さな竹刀も寄って来てもおかしくはない。

「これでようやく、探し物が全部そろったな」

 風見の満面の笑みに、弥次郎の温かな笑みに、初名は力の限り、頭を下げた。

「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」

 大仰な身振りの初名を見て、弥次郎はくすくす笑った。

「俺は本来の持ち主に帰しただけやし、礼はいらん」

 弥次郎がそう言うと、続くように風見も胸を張って言った。

「俺も礼なんかいらんで」

「お前は何もしとらんやろが」

 すると後ろから辰三がひょこっと顔を出して言った。

「僕には何かないん?」

「お前はややこしくしただけやろが」

 苛立つように声を荒らげた弥次郎の様子は、もう厳格さなど感じなかった。妙におかしくなって笑ってしまった初名に、弥次郎はきまり悪そうに笑って見せた。

「まぁ、俺らはここで、こんな感じで、いつでもおるわ。そやからキミも、困ったことがあったら、いつでもおいで」

 弥次郎はそう言いながら、手にした煙管をくるりと回した。煙管の雁首が、天井の明かりを跳ね返して、鈍く光った。


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