ここに、いる
「そやけど、あの子を送り出した後、風見に言われてしもうた。俺らは待つことはできるが、一緒に逝ってやることはできん。あの子を、ここにずっと留め置く気かって。それからずっと、どないしようか考えとった。けど……良かったわ。キミと会えたみたいで」
「……え、私ですか?」
弥次郎は頷いた。少し遅れて、風見も同じように頷いていた。
「あの子は、もう俺しか拠り所のない寂しい子やなくなっとった。だから、勇気を出してあの指輪を選ぶことができたんや。俺が言うのも変やけど、ホンマにありがとう」
「そ、そんな……」
戸惑う初名に向けて、弥次郎は手を差し出した。
「これ……礼になるんかはわからんけど」
受け取れと言うように、拳をぐっと突き出している。初名がそろそろと手を差し出すと、掌に小さなものが落ちてきた。
小さな、プラスチックの竹刀……御守りについていたストラップだ。
「あ、これ……無くなったと思ってたのに」
「みたいやな。俺のとこに来とったわ」
その時ふいに、風見の言葉を思い出した。確か、先日、こう言っていた。
『持ち主と深い絆で結ばれた、”探しもの”しとる奴が集まってくるんや』
御守りもここにあった。ならば、同様にこの小さな竹刀も寄って来てもおかしくはない。
「これでようやく、探し物が全部そろったな」
風見の満面の笑みに、弥次郎の温かな笑みに、初名は力の限り、頭を下げた。
「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」
大仰な身振りの初名を見て、弥次郎はくすくす笑った。
「俺は本来の持ち主に帰しただけやし、礼はいらん」
弥次郎がそう言うと、続くように風見も胸を張って言った。
「俺も礼なんかいらんで」
「お前は何もしとらんやろが」
すると後ろから辰三がひょこっと顔を出して言った。
「僕には何かないん?」
「お前はややこしくしただけやろが」
苛立つように声を荒らげた弥次郎の様子は、もう厳格さなど感じなかった。妙におかしくなって笑ってしまった初名に、弥次郎はきまり悪そうに笑って見せた。
「まぁ、俺らはここで、こんな感じで、いつでもおるわ。そやからキミも、困ったことがあったら、いつでもおいで」
弥次郎はそう言いながら、手にした煙管をくるりと回した。煙管の雁首が、天井の明かりを跳ね返して、鈍く光った。




