皆感謝してる
苦笑いを浮かべつつ、どこか神妙な面持ちをしている初名を、落ち込んでいるとみたのか、横から団子が一串、差し出された。
「まぁ……からかったのはすまん。これで勘弁して」
「……これだけですか?」
「何や? 随分図太くなったな、キミ」
差し出された団子はありがたく受け取り、ぱくりと一口でかじりとった。だが、一口で終わってしまった。
物足りないという顔をすると、辰三は渋々もう一本差し出そうとした。が、初名はその手を押しとどめた。
「琴子さんの団子も美味しいですけど、別のも食べたいです」
「は?」
「地下街には美味しいスイーツのお店いっぱいありますよね? 辰三さん、色々リサーチしてるんでしょ? 連れてってください」
「そらまぁ……美味い店はぎょうさんあるけども」
「”美味い”……?」
「まぁ、ええわ。ほな今度はワッフルでも……何?」
自分で言い出したくせに呆けている初名の顔を、辰三は訝しげに見ていた。初名は、辰三から飛び出した言葉に、驚き感激していたのだった。
「辰三さん、”美味しい”って思ったんですか?」
「はぁ?」
「だって味わからないって言ってたから……」
「あぁ、それはまぁ……味はわからへん。でも今はなんとなく、そんな気がするっちゅうか何ちゅうか……な」
しどろもどろになっている様が何故か可笑しくて初名は笑いを堪えられなかった。辰三には睨まれてしまったが、風見や弥次郎、ラウルたちまでが一緒になって笑い出してしまい、結局辰三の方が引っ込むことになったのだった。
ふてくされたように団子をかじる辰三をまだニヤニヤして見ながら、弥次郎が言った。
「まぁ、ようはここの皆、何かしらキミに感謝しとるっちゅうことや」
「……よくわからないんですけど……そうなんですか?」
首を垂直になるくらい傾けている初名を笑いながら見つめて、弥次郎は頷いていた。
「よくわからんでも、そうなんや。俺もな」
そう言って、弥次郎はまたふぅっと煙を吐き出した。煙が上っていく先を、黙ってじっと見ている。まるで、その向こう側にいる誰かを見つめているようだった。
その|誰か≪・・≫に心当たりがあった初名は、それ以上のことは、尋ねないようにしたのだった。
押し黙った初名を見て、風見がぴくりと眉を動かしたことは、初名は気付かなかった。
「なんでまだ遠慮しとんねん? お前は、もうこの横丁の仲間なんやぞ?」
「……へ? 仲間!? 私が?」
驚いて慌てる初名に、風見は怪訝な表情を見せた。不本意だったらしい。
「何でびっくりしとるねん」
「だ、だって私……あやかしでも幽霊でもないから……」
「うちかて普通の人間やで。半分吸血鬼やけど」
「だ、だって絵美瑠ちゃんは半分身内みたいなもので……私は完全に赤の他人……」
「梅子の孫やないか」
風見がさらりと言うと、その肩に乗っていた艶やかな蜘蛛が、初名の肩に移ってきた。しなやかな手(足?)と頭を動かしている様子は、頷いているように見える。
百花も、同意しているのだ。
それでも、つい数ヶ月前に来たばかりの、生きた人間である自分が彼らの”仲間”を名乗っていいものか。その思いは拭えなかった。
そんな初名に、風見はほんの少し呆れたようにため息をついた。
「……なぁ、清友に会わせてくれたっちゅうだけで、こんなこと言うてると思うんか?」
「そ、それ以外に何かありましたっけ?」
風見はクスリと笑い、初名と真正面を向く形で座り直した。手元にある酒を飲み干すと、柔らかな視線を、初名の方に向けたのだった。
「そうやな……まず、この『梅田』が、何でそう呼ばれるようになったか……知っとるか?」




