宴会
風見と清友が五十数年ぶりに再会したーー!
その知らせは、あっという間に横丁中に広まった。ここに身を寄せるのは、古くは戦国の世、新しくは戦後という、時代背景まで豊かな豊かな面々だった。
風見が清友とちょくちょく交流していたことをよく知っている者がほとんどであるため、その喜びようは、不思議な事に本人以上である者も見られた。
皆、喜んでいたのだ。喜びすぎて、その日は店を閉め、全員が集まって宴会を始めるほどに、喜んでいた。
「宴会て……何でお前らが騒ぐねん!!」
そんな賑やかな面々を見回して、風見が叫ぶ。何故なら、皆が集まったのが、いつも会合を開いている集会所であり、風見の住処だからだ。
集まった面々を叱り飛ばす風見を、弥次郎と辰三がまあまあと宥めて、座らせていた。
「ええがな。この五十年ほど、特に悪いこともなかった代わりにええこともなかってんから」
「だからって人の”ええ事”で騒ぐなや」
「わかってへんなぁ、風見さんは……風見さんが嬉しいことは、僕ら皆も、嬉しいんや」
「……へ?」
賑わっていた場が、一気にしんと静まりかえった。視線が、一気に辰三に集まる。
「なに?」
「タツが……めちゃくちゃええ事言うた……!」
目を見開いて驚く弥次郎に、全員が賛同した。
「な、何やねん、それ。失礼やな」
「いや、日頃の行いっちゅうかなんちゅうか」
「もうええよ。今のなし! 琴ちゃん、団子新しいのないか……」
照れ隠しなのか、厨房の琴子のもとへ行こうとした辰三を、横からのびた手が引き留めた。それまで団子が載っていた皿を奪って、ニッコリと笑って見せた。
「お団子は私が取って来てあげますから、辰三さんは座っててくださーい」
ようやくできた反撃の機を逃すまいとしている、初名だった。皿を奪われてはどうしようもない。辰三は諦めて座り込んだ。その様子を満足して見つめ、初名は厨房に向かおうとした。すると、その皿が更に横から奪われた。
「初名ちゃんこそ、座っとき」
「ラウルさん? いや、そんなわけには……何かお手伝いさせてください」
「ええ子やなぁ。そやけど君、主賓やねんから、大人しく座っとくのも礼儀やと思って、な?」
子供を宥めるように言い聞かせ、ラウルは去って行った。色々と、訳がわからないまま初名は立ち尽くしていた。
「主賓て……なに?」
「そらそうやろ」
ふわりと真っ白な煙が天井に向かって上るのと同時に、その言葉は聞こえた。見ると、弥次郎が酒や肴は置いて、一服していた。
「私……何か歓迎されるようなことしました? むしろいつもお邪魔したり、ごちそうになったりだったと思うんですけど……」
そう言って首をかしげる初名を見て、弥次郎は目を瞬かせていた。次いで、風見、そして辰三とも目を見交わしていた。
「キミ……ええ子っちゅうか、お人好しっちゅうか……」
「そこまで行くとただの鈍感やな」
「ど、鈍感!?」
辰三と弥次郎は、首を振って呆れてしまった。食い下がって問いただそうとする初名だったが、その眼前に、温かな皿とカップが差し出された。
見ると、そこにはニコニコと笑って並ぶ琴子と礼司がいた。
「初名ちゃんはええ子よ。お客さん連れて来てくれて、帰るときも付き添ってくれたもん」
「立派な、常連客や」
あの、老人のことを指しているのだろうか。そのことを考えると、初名は少し胸が痛む。結局、自分はあの老人の助けにはなり得なかったのだ。
だが、琴子たちはそんなことは知らない。今も、あの”知人だった”老人の来訪を心待ちにしている。
だから、初名はあの老人のことはもう、口にしないことに決めていた。




