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大阪梅田あやかし横丁~地下迷宮のさがしもの~  作者: 真鳥カノ
其の陸 迷宮の、出口
101/105

出口での再会

 手を重ね合わせると、二人は確信したようだった。そこにいるのは間違いなく、もう二度と会えないかもしれないと思っていた友であると。

「なんや、元気そうやな」

「……君もな」

 ぎこちない掛け合いだった。互いに笑みを浮かべているものの、どうしてかまっすぐに見つめられない。

「……お二人とも、照れてるんですか?」

「照れてへんわ!」

「いや、ちょっと照れるわ」

 真逆のことを、まったく同じタイミングで言う二人に、初名は笑いが零れた。姿を見れば、大の男と少年が並んでいる。兄弟とも、年の離れた友人とも見える二人が、もじもじしてなかなか再会を喜ぶ言葉を素直に口にしない。

 どちらもあれほど気さくで、親切で、懐が深いというのに、自分のことになるとてんでダメらしい。

「あの……話したいこと、あるんじゃないんですか? 五十年以上会ってないんですよね?」

「そう、やなぁ」

「だったらちゃんとお話しないと! また同じようにできるかどうかもわからないですから……」

 今日初名がやっているこの行動も、次同じようにできるという保証はない。現に、初名が二人の手を繋いでいないと、二人はお互いが見えないようだった。

 そして、二人とも再び視界がぼやけているようだった。

 初名やお互いを見つめているようで、目をこらして、どうにか相手の姿を視界に捉えようとしている。

(やっぱり、ずっとは出来ないのかもしれない……!)

「は、早く! 言いたいこととかあるでしょう」

 まだ戸惑っている様子の二人に、初名は少し強引に発破を掛けた。そのつもりだったのだが……風見も清友も、ちらりと顔を見合わせたかと思うと、クスリと笑って一歩歩み出した。そして、がっしりと肩を組んだ。

 初名の肩を。

「……え?」

 初名の右肩に風見の腕が回され、もう片方の肩には清友の腕が回されていた。

 初名を挟んで、三人が肩を組み合っていた。

「え? な、何で私まで……?」

 そうあたふたして尋ねても、風見も清友も答えてくれなかった。互いに謎めいた笑みを交わすだけで、何も。

 そして唐突に、静かに、清友が告げた。

「……ああ、僕はもう戻らなアカンみたいや」

「え!? もう?」

 清友は頷くと、初名が握る手に、ぎゅっと力を込めた。

「ありがとう……!」

 そう言った声は、穏やかな清友の声の中で、一番力強い響きだった。初名も、その手を強く握り返した。

「私こそ、ありがとうございます……!」

 その言葉に、清友は笑って頷いた。

 そして、まるで溶けていくように、姿を消していった。

「帰ってもうたか」

「……はい」

 清友は、自分の居るべき場所へと戻った。それは、風見にとってはまたしばしの……もしかすると永劫に近いかもしれない別れだった。

 だが、風見は寂しそうでは無かった。初名を見つめる瞳は、いつもの陽気な風見のもので、ニタリと笑ったかと思うと、頭をぽんぽん撫でた。

「俺も、ありがとう……何でも、やってみるもんやな」

「はい」

 そう言って浮かべた初名の笑みは、自分でもわかるほどに、どこか自慢げだった。こんな風に笑えたのは、いつ以来だろうか。

「ええ顔や」

 初名は頷き、胸の内で「あなたも」と呟いた。

 迷宮の出口を見つけた者の晴れやかな笑顔は、自分が浮かべても、見つめていても、気持ちの良いものだった。


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