出口での再会
手を重ね合わせると、二人は確信したようだった。そこにいるのは間違いなく、もう二度と会えないかもしれないと思っていた友であると。
「なんや、元気そうやな」
「……君もな」
ぎこちない掛け合いだった。互いに笑みを浮かべているものの、どうしてかまっすぐに見つめられない。
「……お二人とも、照れてるんですか?」
「照れてへんわ!」
「いや、ちょっと照れるわ」
真逆のことを、まったく同じタイミングで言う二人に、初名は笑いが零れた。姿を見れば、大の男と少年が並んでいる。兄弟とも、年の離れた友人とも見える二人が、もじもじしてなかなか再会を喜ぶ言葉を素直に口にしない。
どちらもあれほど気さくで、親切で、懐が深いというのに、自分のことになるとてんでダメらしい。
「あの……話したいこと、あるんじゃないんですか? 五十年以上会ってないんですよね?」
「そう、やなぁ」
「だったらちゃんとお話しないと! また同じようにできるかどうかもわからないですから……」
今日初名がやっているこの行動も、次同じようにできるという保証はない。現に、初名が二人の手を繋いでいないと、二人はお互いが見えないようだった。
そして、二人とも再び視界がぼやけているようだった。
初名やお互いを見つめているようで、目をこらして、どうにか相手の姿を視界に捉えようとしている。
(やっぱり、ずっとは出来ないのかもしれない……!)
「は、早く! 言いたいこととかあるでしょう」
まだ戸惑っている様子の二人に、初名は少し強引に発破を掛けた。そのつもりだったのだが……風見も清友も、ちらりと顔を見合わせたかと思うと、クスリと笑って一歩歩み出した。そして、がっしりと肩を組んだ。
初名の肩を。
「……え?」
初名の右肩に風見の腕が回され、もう片方の肩には清友の腕が回されていた。
初名を挟んで、三人が肩を組み合っていた。
「え? な、何で私まで……?」
そうあたふたして尋ねても、風見も清友も答えてくれなかった。互いに謎めいた笑みを交わすだけで、何も。
そして唐突に、静かに、清友が告げた。
「……ああ、僕はもう戻らなアカンみたいや」
「え!? もう?」
清友は頷くと、初名が握る手に、ぎゅっと力を込めた。
「ありがとう……!」
そう言った声は、穏やかな清友の声の中で、一番力強い響きだった。初名も、その手を強く握り返した。
「私こそ、ありがとうございます……!」
その言葉に、清友は笑って頷いた。
そして、まるで溶けていくように、姿を消していった。
「帰ってもうたか」
「……はい」
清友は、自分の居るべき場所へと戻った。それは、風見にとってはまたしばしの……もしかすると永劫に近いかもしれない別れだった。
だが、風見は寂しそうでは無かった。初名を見つめる瞳は、いつもの陽気な風見のもので、ニタリと笑ったかと思うと、頭をぽんぽん撫でた。
「俺も、ありがとう……何でも、やってみるもんやな」
「はい」
そう言って浮かべた初名の笑みは、自分でもわかるほどに、どこか自慢げだった。こんな風に笑えたのは、いつ以来だろうか。
「ええ顔や」
初名は頷き、胸の内で「あなたも」と呟いた。
迷宮の出口を見つけた者の晴れやかな笑顔は、自分が浮かべても、見つめていても、気持ちの良いものだった。




