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大阪梅田あやかし横丁~地下迷宮のさがしもの~  作者: 真鳥カノ
其の陸 迷宮の、出口
100/105

合流

 初名は走った。時々振り返り、清友がちゃんと自分に着いてきているか確認しながらも、足を緩めることはしなかった。時間が限られているわけではない。ただ気持ちが逸っているのだ。

「どこへ行くん?」

 少し不安そうな声が、後ろから聞こえてきた。

「今、私にできることを……いえ、出来るかもしれないことをするんです」

「”出来るかもしれない”? どういうこと?」

 初名には、そうとしか言えなかった。これからやろうとしていることは、自分でも確証が持てないことだった。

 だが、あの優しい人たちが集う横丁で聞いたこと、教わったこと、感じたこと、すべてを繋げて考えた。

 商店街を抜けて、角を曲がり、まっすぐに走る。いつもの出入り口へ向かって。

 そこが、約束した場所なのだ。

 いつの間にか、清友からの質問は止んだ。初名音走る方向で、何かを察したのかもしれない。ならば尚のこと、早くたどり着きたかった。

 地下へ向かう階段も、一段一段降りる時間がもどかしい。そう思っていると、清友は、ぐっと初名の手を引き留めた。

「そこから先へは……行かれへん」

 頭を振りながら、清友は言う。向かう先は、階段を降りてドアをくぐった先は、きらびやかな賑わいを見せる地下の街。だが、人ならざるモノにとっては、出口の見えない迷宮。神の眷属である清友ですら、彷徨ったのだ。

「僕は、もうここに迷い込むわけにはいかんのや。だって、君はもう……」

「私はもう、ここから出してあげることは、できないんですよね」

 清友は、苦い表情で頷いた。

 百花が以前言っていた。横丁に入れる人間は、生涯で一度だけ、あやかしたちを”外”に連れ出してあげることが出来ると。だが、何故か一度だけ。

 初名の祖母・梅子は、地下街で迷子になっていたあやかしを連れ出してあげた。そのことで、もう横丁の誰も連れ出すことはできなくなってしまった。

 そして、初名も同様に、もう誰のことも連れ出すことは出来ない。地下街で彷徨っていた清友を、外へ出したのだから。

 そしてあの時外へ連れ出したのだから、清友のことも、再び連れ出すことは出来ないのだ。

「ここに何があるんかわからへんけど……僕はもう、近寄ることはせんて決めたんや。そやから……」

「大丈夫」

 そう言うと、初名は再び清友の手を引いて、ぐいぐい階段を降りていった。そして、ドアの手前で立ち止まった。

 地下街に浸透している冷房の風が、冷気をほんのりと運んでくる。

「ここなら、大丈夫でしょ」

「そうやけど……」

 戸惑いながら初名を見つめる清友の瞳が大きく見開いたのは、次の瞬間だった。

 その姿が、現れたのは。

 弥次郎と辰三に引き連れられ、絵美瑠が先陣を切って走ってくる。その中心にいるのは、銀色の神と気弱かな真っ白な着物に身を包んだ、風見だ。

「おーい。初名ちゃーん。連れて来たでー!」

「何やねん、人を罪人みたいに引っ張りよって! そんなんせんでも歩くっちゅうね……ん?」

 風見もまた、目を瞠っている。入り口近くに立っている初名の姿が目に入ったようだ。そして、その向こうにいる姿にも。

 だが、まだ二人ともぼんやりしている。目をこらして、時にはこすったりしている。辰三が言ったように、入り口近くのことになると、その存在が鮮明でなくなるらしい。

 初名は、清友の手をとった。

「連れ出してあげることはもうできないけど……もしかしたら……!」

 そして、もう片方の手で、風見の手を取った。

 探り合うような二人の手をそっと真ん中で合わせると、二人の手は、ごく自然に互いの手を取った。まるで、お互いが誰なのか、一瞬で感じ取ったかのように。

「清友……か?」

「風見……?」


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