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1.知らんと言う事を知ってるソクラテスさん

 毎日おしゃべりをしていたら、弟子が神託所で変な質問をしたために、彼は自分探しをしなければならなくなりました。

 紀元前470年ごろから399年の71年くらいに渡る生涯を経た、古代ギリシアの人としては長生きだったソクラテスさん。彼は当時の男性らしく、とにかくおしゃべりが好きでした。

 青年や少年達を周りにおいて、毎日朝から晩まで柱の周りでおしゃべりをしていました。

 そのうちに、多分周りに(はべ)らせていた青少年達から、ソクラテスさんの考え方を支持する弟子が出てきました。その弟子の一人が、アポロンの神託所と言う所で「この世で一番頭いい人って誰?」と言う質問をして、巫女から「ソクラテスさんが一番ですね」って言われたと知ってから、ソクラテスさんは恐怖に囚われます。

 何せ、ソクラテスさんは「おしゃべり」が好きなのであって、特別に自分が頭良いと思ってなかったからなんです。

「なーんで俺が一番頭良いってことに成ってんの?」と思いましたが、アポロンの神託所での言葉は当時のギリシア社会では絶対だったので、ソクラテスさんは理由探しを始めます。

 色んな「知識階層」の人と問答をして、何となく分かってきたことが、「彼等って知識は持ってるけど、本当の事を知ってるわけじゃないんだね。やっぱり人間って神様には敵わないんだな」って言う事でした。

 で、「人間って言うのは知識があってもなんも知らんのだ。神様には成れんのだ」と言う事を自覚して身の丈に合った生涯を送りましょうっていう考え方になって行ったんだって。


 ソクラテスさんは文字で考え方を残すと言う方法を取らなかったので、彼の功績は弟子達の記述で残されました。

 その弟子の記述の中では、ソクラテスさんがソフィスト(弁論者。金銭の譲渡と共に知識を与える人々。今で言う教師職)を話術で出し抜いたと言う、英雄譚的な語られ方をする場合もあるそうですが、ソクラテスさんとしては「アポロンの神託」が頭の中でぐるんぐるんしてて、自分が世で一番頭が良いと言われている理由を探すのに必死だったんですよ。

 必死に自分探しをしているのに、誰も「本当の事」を知らない。誰も人生の教師になってくれない…と言う哀愁から、「不知の自覚」と言われる心境に至ったようです。

 それで、「ああ、俺は、『人間なんてなんにも知っちゃいないんだ』って事を知ってる分、『自分には知識がある』と思ってる連中より知恵があるって事なのかな…」と言う所に彼の考えは落ち着きました。

 一連の問答による自分探しを経験した後、ソクラテスさんは弟子達から「やっぱこの人スゲーわ」って思われるように成り、本人としては気に入らなくても、「昔いた頭の良い人。西洋哲学の祖」として、彼の名は今日にも知れ渡ってしまいました。

 ソクラテスさんとしては、「お金のために知識を売っちゃいけないよね」って言ったわけでも、「俺は弁論者達より清貧を貫いてる立派な人間だぜ」って言ったわけでもないっぽいですけど(もしかしたら言ってかも知れないですが記録が無いのであくまで予測です)、自分の人生の理想として「善く生きる事」を掲げ、無報酬で知識を与えるって言うのを続けていたので、常に彼の家にはお金がありませんでした。

 家庭を持っていて、責任ある身分なのに、全く家庭を顧みないで、ある種の自己満足のために仙人のように生きて行こうとするため、奥さんから「働けー!」と言う意味を込めて、服を洗った水を頭からぶっかけられたりしていたらしいです。

 ソクラテスさんは知識を与える事を金銭の譲渡とセットにしないと言うのを信条にしていたので、「ソフィスト(教職)に落ちる」事は出来ません。だけど、ソクラテスさんにはおしゃべり以外に興味はありません。体を鍛える事も好きだったそうですけど、戦争に行ったからと言って手当が得られる時代では無かったのかな。


 ソクラテスさんの死亡の要因は、「話術によって青少年達を堕落させた罪」と言うもので有罪になったからでした。ちょっとショッキングな略し方になってしまってますが、ソクラテスさんの心情や生き方や教えの布教(おしゃべり)が気に食わなかった人々によって裁判にかけられ、陪審員達の不評を買った事と、弟子に勧められても「逃亡する」と言う選択をしなかったことから、ドクニンジンの杯を煽ることに成りました。

 古代ギリシアでは「なるべく自然死に見せる死刑」が行なわれていたので、末端からゆっくり体を麻痺させていくタイプの毒を飲むって言う方法に成ったんです。

 これは想像ですけど、ソクラテスさんと問答をして「言い負かされた」と思った教職(ソフィスト)の人達の意向も、裁判が行われた理由にはあったかも知れません。

 死と言うものについても、ソクラテスさんは「そんなに悪い事じゃないよ」って言う仙人的な思想を持っていたようですが、自分探しをしてから貫いている「自分の知っていることを妄信しない」と言うスタンスを死と言う概念にも取り入れたため、弟子の勧めた「逃亡」を良しとしなかったんじゃないか…と、言われています。

 つまり、ソクラテスと言う人物は、世界で一番頭が良いと言われてしまったがために、「より理想的で信念に基づいた人間でなければならない。そして働いたら負けだ」と言う、現代のニート貴族みたいな人に成っちゃった哲人さんだったと言う事です。

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