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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
ワームホールの先星

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ワームホールの先星⑥

◇◇◇◇



「変な夢を見てました。クラスメイトと選挙っていうバトル?をしてました。」


言葉を吐き出した瞬間、胸の奥に残っていた甘い夢の残り香が、フッと薄れる。


まだ現実と夢の境目がぼやけていて、言葉が上手くまとまらない。


選挙って何だろうって思っていたけど、目隠しをした状態で歌わされたんだよね。

まさか目隠しカラオケ大会だったなんて…。


でも、歌っている途中に強い風が吹いて、目の前が真っ白になっちゃって…。


気が付いたら、オランゲっていう人は何処かに消えたのか見当たらず、まーちゃんがひとり料理してたっけ。


風が吹いている間に何が起こったのか分からないけど、カラオケの後の焼肉は、夢の中で食べたのに…、今でも舌に残る味があった。

独特な甘さと、仄かな鉄のような匂い。


今思うと、少し生臭くて、でも不思議と美味しかった。

独特な味と匂いだったけど、何のお肉だったんだろ?


そういえば、後からまたもう1人女の子がやって来たんだっけ?


あ、そうだ、ピンク色のモモカもいたんだった!

でもまた直ぐにお別れしちゃったけど…。


「そして、目が覚めたら、プールの周りにお魚がいっぱいあって…」


プールにはモモカが居て、周りにはカラフルなお魚や面白い形のお魚や蟹…、沢山の海の生き物がプールサイドに打ち上げられていたんだった。


カラフルな熱帯魚がピチピチと跳ね、シマシマ模様の魚が弱々しく口をパクパクさせ、大きな蟹は小さなハサミをカチカチ鳴らし、ザリガニは目を洗いながらコンクリートの上を這っていた。


あと、少し離れた所に大きな青い魚が打ち上げられていたけど、モモカはよっぽどお腹が空いていたのか、尻尾から半分まで無くなっていた。


古いプール水の匂いと生臭さが混じり合って臭いがキツかったけど、鱗や甲羅が夕陽のような色を反射してて、まるで宝石をばら撒いたみたいで綺麗だったなぁ。


そういえば、深海魚である筈の鮟鱇まで打ち上げられていたな。


あの時、ちょうど夢の中で鮟鱇の吊るし切り方を教わっていたから、試してみようと思ったんだ。


だけど、縄でグルグル巻きにされた大きな鮟鱇が、そこに本当に転がっていた。


あれ、夢じゃなかったのかなぁ?


モモカがそんな器用な縄の結び方出来る筈がないし……。


もしかして、詩由羅ちゃんがやってくれたのかなぁ?

プールサイドの隅でボーッとしていたけど、何かあったのかな?


「持ち帰る準備をしていたら、生徒会長達がやって来て…。」


あの瞬間、生徒会長の鋭い声がプール中に響き渡った。

"何をやっているのですか!?"って、ヒステリックに叫ばれて、心臓が止まりそうだった。


生徒会長はいつもそう。

立場上忙しくて仕方ないのかもしれないけど、感情が爆発すると大した事ない時でも大声でまくし立てるから、周りの子たちも自然と距離を取ってしまう。

芋臭いし、友達いなさそうで、ちょっと可哀想だなぁ。


「あらあら、まぁまぁまぁ〜…、あ〜、困りましたねぇ〜…。」


渦神先生は、ゆっくりと自分の頰に手を当てて首を傾ける。

その仕草が、まるで芝居みたいに大袈裟で、職員室の空気が一瞬重くなる。


「…あの、渦神先生?そもそも私、何で呼び出されたんですか?」


私は恐る恐る尋ねる。


もしかしたら、私に意地悪した子達を叱ってくれる為に、私の事情を聞いているのかな?

それなら、嬉しい……。


渦神先生は、深く息を吸ってから、真っ直ぐ私の目を見て言った。


「桜丘さん、貴女は今日から2週間の自宅謹慎を命じます。」


「そんな!?」


思わず立ち上がる。


椅子がガタンと倒れ、職員室の床に響く。


「何で!?私、意地悪された側なのに!?」


何で私が自宅謹慎しなくちゃいけないの!?


「もしかして、プールに飼っていたお魚を勝手に持って行ったのがダメだったんですか!?」


でもそれはモモカが勝手に獲ってきたモノだし、ザリガニは美味しくなさそうで可哀想だからプールに戻してあげたのに!


「それとも、私を意地悪した人達から、私が悪い事をしたとか…、デタラメな事を言われたのですか!?」


言葉が止まらない。

胸の奥で何かが爆発しそう。


だって、そうだとしか考えられない!

アイツ等、意地悪で、粗暴で、卑怯で、低俗で…、残飯以下の人達だったもの!


私の身の潔白を証明しなくちゃ!


焦る私を、渦神先生は静かに見上げた。

表情は穏やかで、どこか遠くを見ているよう。


「ん〜…、先程から何を言っているのか先生にはさっぱりですが…、これは桜丘さん、貴女の為でもあるのですよ。」


私はア然とした。


何が私の為なんだろう?

何で加害者じゃなくて、被害者である私が制限されなくちゃいけないの?


ありえない!


そもそも先生、"何を言ってるのかさっぱり"って…、どういう事!?

私の話を理解していないんじゃないの?

見た目だけじゃなく、頭の中まで皺クチャじゃないの?


そんな納得出来ない理由で自宅謹慎なんておかしいよ!


「私は教室に戻ります!」


「あぁ待って桜丘さん…!」


呼び止めようとする先生を無視し、職員室のドアを勢いよく開ける。

ブワッと廊下の冷たい空気が頰を叩く。


職員室を飛び出すように出て教室に戻ろうと階段を駆け上がろうとしたら…


キーンコーン、カーンコーン…


「あ…。」


下校のチャイムだ。


説明していただけで半日が終わったんだ。


学校が終わったのなら仕方が無い。

帰らなくちゃ。


何だかんだ先生の言いなりみたいになっちゃって、悔しいし、悲しい。


校舎を出ると、夕日が眩しい。

空は燃えるようなオレンジに染まり、校庭の木々が長い影を落としている。


風が頰を撫で、夢の残り香のような甘い匂いが一瞬だけ漂った――でも、すぐに消えた。


校門の鉄格子も夕陽に赤く染まり、縦線が並んだ長い影を地面に映し出し、風が校庭の落ち葉をサラサラと巻き上げ、かすかな土と草の匂いが鼻をくすぐる。


キーン、コーン、カーン、コーン…


チャイムの余韻がまだ耳に残る中、私は重い足取りで校門に近づいていた。


「みにゃあ〜。」


か細い、掠れた鳴き声が背後から聞こえた。


振り返ると、校舎の右側――古い桜の木の根元から、黒い影がゆっくりと歩み寄ってくる。


黒くてボサボサの毛並み、少し痩せた体躯。

夕陽がその黒い毛に赤い光を差して、輪郭をぼんやりと浮かび上がらせる。


私の唯一の家族、モモカだった。


「モモカ?」


名前を呼ぶと、モモカは足を止めて、私の顔をじっと見上げた。


黄色みがかった瞳が、夕陽を映して金色に輝いている。いつもより少し毛並みが整っていて、頰の汚れも薄くなっている気がする。


「良かった!ちょうど探そうかと思っていたんだ!」


思わずしゃがみ込んで手を伸ばす。


モモカは一瞬だけ躊躇うように体を低くしたけど、すぐに近づいてきて、私の指先に鼻先をすり寄せた。


冷たい鼻と、かすかに温かい息。

少し元気そうで、ホッと胸が緩む。

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