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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
ワームホールの先星

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ワームホールの先星①

海と霧に包まれた孤島の朝は、静かで、冷たい風が吹いていた。


島には中央を貫く一本の道があり、海辺から山の頂へとまっすぐ伸びていた。

その道の両脇には、無数の紅い鳥居が隙間なく並び、朱色の柱が左右から迫るように連なっている。

頭上では横木が途切れることなく続き、歩く者を包み込むその様は、まるで終わりの見えない永遠のトンネルのようだった。


数百を超える紅い鳥居は、風が吹くたびに木肌を擦り合わせ、かすかな軋み音を立てる。それに重なるように、遠くから絶え間なく波の音が響いていた。


ここは、神々が住まうと囁かれながらも、いつしか人の記憶から消え去った忘却の聖域――


その道を、ひとりの小さな子供が歩いていた。

男か女か、ひと目では判別しがたいほど細く華奢な体躯。新雪を思わせる純白の長い髪はふたつに結われ、歩くたびに揺れ、その間から尖った耳がわずかに覗いている。頭には幾重にも重ねられた紫薔薇の飾りが咲き乱れ、揺れる度に朝の霧を弾く。

紫色の大きな瞳は穏やかに輝き、どこか現実から遊離したような光を宿していた。


『ルレクテシエカヲキトナカヤダオリロココノシタ〜ワ♪』


小さな口からこぼれ落ちる歌声はひとりのものとは違い、複数の老若男女が重なり合って歌っているかのように、声は幾層にも響き、鳥居の間をすり抜けて島全体へと広がっていく。


独特な旋律。

理屈では理解できない、しかし確実に何かを揺さぶる歌。

空気そのものが震え、霧がかすかに脈打つ。


子はヒラヒラと重なり合うフリルに覆われた長袖のブラウスと、ゆったりとしたドロワーズズボンを身にまとっていた。

胸元には大輪の紫薔薇が咲き誇り、淡紫色の生地は朝露に濡れて、柔らかな光を反射している。


『タイツワザデカズシテシソクナマエタハトゥウクメシヒニリモノコ〜♪』


薔薇の花びらを象った靴で軽やかにステップを踏み、背丈よりも長く薄いヴェールをヒラヒラと翻しながら進んでいく。


紅い鳥居が、次々と背後へと流れていった。

やがて霧は徐々に薄れ、遠くに青い海が姿を現す。

白く砕ける波が、島の縁を撫でるように寄せては返す。


子は微笑みを浮かべたまま、歩みを止めない。

アメジストよりも深く透き通った紫の瞳に、鳥居の赤が揺らめいて映る。


歌声は更に高らかに、強くなり、島そのものを包み込んでいった。


――その瞬間。


突風が吹き荒れ、波が荒れ狂い、地面が不気味に軋み始める。


それはまるで、自然が悲鳴を上げているようだった。


「止めて!」


幼いながらも鋭利な声が、風を切り裂いて響いた。


霧の向こうから、淡いピンク色の影が浮かび上がる。


ふわりと舞い降りたのは、少女だった。

長いピンクの髪を大きな白いウサ耳リボンで結い上げ、小さく丸い耳には大きなピンクの球ピアスを光らせ、ピンクと白のエプロンドレスは柔らかく広がり、胸元には金色の鍵のペンダントが揺れている。

足元はレースのソックスにピンクのおでこ靴という全体的に丸く幼い少女を表現している。


それはまるで精巧な人形のような愛らしさ。

しかし、その存在が放つ圧は、島の空気を一変させるほどだった。


「アナタの歌、頭が割れそう!」


ピンクの少女は指を一本立て、非難するように言い放つ。


目は閉じたまま、ニコニコと笑顔を浮かべているが、その声音には隠しきれない嫌悪が滲んでいた。


『私はこの世界を破壊する為に歌っているのです。』


紫薔薇の子は、歩みを止める事なく静かに答えた。

複数の男女が重なったその声は、鈴のように澄んでいながら、氷の刃のような冷たさを帯びている。


「ここは私の世界よ!何で部外者であるアナタが破壊する必要があるの!?」


ピンクの少女は腰に手を当て、頬を膨らませる。


『3つ目の世界の創造と、2つの世界の均衡を保つ為に、この世界を破壊しなければなりません。』


「意味分かんない!1番最初に世界を創造したのはわたち!わたちの世界が1番なのに!?」


静かに微笑みながら答える紫薔薇の子に対して、ピンクの少女は激しい感情を露わにして問い詰める。


『1番最初故に異世界への負担が大きいのです。』


その言葉に驚いたピンクの少女は一瞬だけ、真っ赤な目を見開く。


しかし、すぐに目を閉じて首を大きく左右に振った。


「だから何でわたちの世界を壊す必要があるの!?3つ目の世界なんか創らなければ良いじゃないの!」


ピンクの少女は、まるで駄々をこねるように爪先が丸い靴で足を踏み鳴らした。

地面が更に震え、鳥居の一つが悲鳴を上げて傾く。


『そう言われましても…、それが私、破壊の悪夢乙女の使命なのですから。』


「話になんない!」


怒りを露わにするピンクの少女に対し、紫薔薇の子は静かに、確実に距離を詰めてくる。

ドレスに飾られた薔薇が風に舞い、周囲だけが異様な霧に包まれていた。


『恐れる必要はございません。私が全て破壊しますから。』


「ハイソウデスカとでも言うと思っているの!?」


ピンクの少女は両手を広げる。


「そんなにわたちが占拠(せんきょ)した世界を壊したいなら、わたちのペット達と勝負…、選挙(せんきょ)しなさい!」


『仕方がありませんね。』


紫薔薇の子は小さくため息をついた。


ピンクの少女は一瞬だけ真っ赤な目を開いて金色の瞳孔を細め、そして悪戯っぽくニヤリと笑う。


小さく丸い右手を差し出しながら、名乗ろうと口を開いた。


「わたちの名は…」


キーンコーン、カーンコーン…


どこからともなく、荘厳な鐘の音が響き渡った。

風鳴りとは違う、島全体を包み込むような、重く深い音。

霧が渦を巻き、紅い鳥居が一斉に淡く紅い炎の光を放つ。


『私の名は…』


キーンコーン、カーンコーン…


二人の声が重なり合い、鐘の音に飲み込まれていく。


風は更に強くなり、波は天を突くように高く盛り上がり、島そのものが悲鳴を上げた。


二人の子は、互いを真正面から見据えたまま、名乗ろうとした言葉を、鐘の音に奪われた。



それは、遥か遠い昔の出来事だった。


そして現在。


校庭、正門、その先に続く長い坂。


海が空と溶け合う地平線の彼方、校舎がそびえ立つ。

校庭を抜け、正門をくぐれば、長い坂が商店街へと続く。

その先には、小さな家々がひしめき合い、緑の木々と紅い鳥居が点在していた。


それ以外は何もない。それだけ。


そこは、幻の町――ゲンソウチョウ。

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