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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
ケルベルス座の上級星と水の星徒達

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ケルベルス座の上級星と水の星徒達⑲

文字通り巨大な壁を越えた達成感の余韻に浸れる時間は、ほんの一瞬しか与えられなかった。


チョキチョキッ、キィィッ…!


金属が空気を引き裂く鋭い音が遠くから響き、背筋を凍らせる。

次の瞬間――


ジャバババババババッ!!


海がドガァァァンッと真っ二つに割れ、白い飛沫が滝のように四方へ降り注ぐ。


拓かれた轟音と水飛沫の壁の中から姿を現したのは、背丈程ある巨大な銀の裁ちハサミを両手で振り回す、ずぶ濡れの男だった。

白衣と紺色のスラックスが海水を吸ってピッタリと肌に張り付き、裾からダラダラッと滴る水が血のように不気味に光る。


「ハァァアアアぁんもぉおおおおッ!!せっかくの髪型が台無しじゃないですかぁッ!!?」


カキコケラーの怒りと狂気に歪む声が響き、海を切り裂きながらこちらに迫って来る。


チョキチョキッと刃が鳴るたびに海面がズバズバズバッと切り裂かれ、波が左右に弾け飛ぶ。

飛沫は太陽を受けてギラギラッと乱反射し、まるで狂気そのものが散乱してギラつていた。


真ん中分けして毛先を緩く巻いていた筈の彼の紫色の髪は、頭から昆布でも被ったかのようにペッタリと顔中に貼り付き、僅かに揺れ動く隙間から覗く赤い目はギロリと刺すようにアタイ達を睨む。


銀色のハサミの表面に海水がビチャビチャッと跳ね、刃が怒りを帯びる。


その両脇からキコリンコとアマビヒコが、ザバザバザバッと海を掻き分けて迫る。


向かって右側はキコリンコ。

長い爪が、ギラギラッと海面の光を反射し、まるで銀の刃が蛇のようにうねり、波が切り裂かれる。

彼女の金色の髪と真っ赤なハイビスカスの髪飾りが波にユラユラッと激しく揺れ、蛇のような瞳がギラリッと殺気を放つ。


左側からはアマビヒコ。

瞬き星の飾りがビカビカッと太陽を跳ね返し、飛沫の度に七色の閃光を撒き散らす。

ピンクと水色の長髪が魚の尾びれのようにグネグネッと水を掻き、まるで海そのものが彼女の怒りに共鳴する。


優雅に見える2人の泳ぎはマグロのように素早く、彼女達は波と同化するように一直線に突進し、海を切り拓きながら走る男を追い抜き、あっという間に目前まで迫る。


3人の強い殺意に息が詰まりそうだ。


だがしかし、こうなる事は想定済みだった。


「鱗魚助、今だ!」


アタイは鱗魚助の右腕を両手で抱くしがみつくと、力をドバドバドバッと送り込む。

桜の鈴がチリリリリリッと鳴り響き、胸の奥からドクドクドクッと熱いエネルギーが沸き上がる。

手のひらがジリジリッと火傷するように熱くなる。


鱗魚助は両手をササササッと素早く構える。

忍者の印を結ぶ動作は、まるで海の渦を操る神聖な舞だ。

右手をスッと胸の前に掲げ、左手をカチッと交差させ、指がキキキキッと精密に折り重なる。

親指がピンッと鋭く伸び、人差し指がクルクルッと滑らかな弧を描き、中指がパチパチッと弾けるように動き海底の波動を指先に宿す。


「水遁の術!」


鱗魚助が吠え、右足を海面にトントンッと叩きつける。


ゴゴゴゴッ!


海面が唸りながら裂け、海底の怪獣が咆哮する。

波がグルグルグルッと巨大な螺旋を描き、泡がブクブクブクッと狂ったように弾け飛び、海水の塩辛い匂いがムワッと鼻を刺す。


アマネラッカの壁で遮られていたせいで鱗魚助の能力を把握出来ていなかったのか、突然現れた渦潮にキコリンコとアマビヒコは避ける事が出来ず、そのままズズズズッと飲み込まれる。


そう、コイツ等は上っ面だけの関係。

団体でありながら作戦もなければ情報共有すらもない。

そんな気はしてたよ。


「何!? この渦は!」


彼女の叫びが、渦のゴオォッという轟音に掻き消される。


グルグルッと洗濯機のように回転させられ、カラフルな長い髪バサバサバサッと渦に絡まり、瞬き星のような紫色の瞳が混乱に揺れる。


「<ξっ!レよナょせょ!」


キコリンコの声が、ザバザバッという飛沫音に飲み込まれる。


必死に藻掻こうとする爪がビカビカッと光らせながら暴れるが、渦にドバドバドバッと引きずられる。


「よし、このまま海底に沈めてやるッ!」


だが、遅れてやって来たカキコケラーが渦を見上げ、巻き込まれた2人に呆れる。


「全く、世話が焼けます…ねッ!」


巨大なハサミを縦横へと振り回し、チョキチョキチョキッと渦潮をズバズバズバッと切り裂いていく。


2人の女を巻き込んだ渦潮は円錐状に綺麗に切り取られた。

海水がバシャバシャバシャッと飛び散り、虹色の飛沫がキラキラッと空に舞う。


そして、彼の白衣のポケットから長くて太い赤い糸がビュウウウッと蛇のように飛び出し、小さな竜巻のような形に切り取られた渦潮をグルグルグルッと巻き取る。


カキコケラーがハサミを砂上に突き刺し、両手で赤い糸をガシッと掴むと引っ張り上げて渦潮を止めた。


…かと思ったら、スナップを効かせこちらに向かって投げ飛ばした。


キコリンコとアマビヒコを巻き込んだ渦は、糸引きコマのようにギュルギュルギュルッと高速回転しながら向かって来る。


よく見ると渦に赤い屑糸が混じっており、周囲の海面がザザザッと逃げるように裂け、その間から水の竜巻が襲い来る。


「あの糸のせいで解除出来ねぇ…ッ、逃げるぞ、モモカ!」


鱗魚助が、アタイをガッシリ抱えて海面をグッと蹴る。


だが、渦の中からアマビヒコがバシャアッと飛び出す。

大きな目の星がビカビカビカッと輝き、両手がグワッと鱗魚助を掴もうとする。


「捕まえた!」


彼女の甲高い声が波のゴオォッと混ざる。


「舐めるなッ!」


鱗魚助が、ブーツでアマビヒコの腹をガツンッと蹴り飛ばす。


「チョベリバッ!?」


ブーツの踵がカラフルな腰布にガリッと食い込んだ直後、体の軽いアマビヒコはあっという間に吹き飛ばされ、ドボンッと海に落ちる。


蹴られた衝撃で彼女の顔は苦痛に歪み、右手で腹を押さえ込みながら左手でバシャバシャと必死に泳いでいる。


だが、その隙にキコリンコが渦からバシャッと飛び出し、右手の爪をギラギラッと突き付ける。


「ス≠ぁレ)!」


彼女の蛇のような瞳がギラリッと殺意を放ち、宝石だらけな爪の先端がピリピリッと空気を切り裂く。


爪が、アタイの腹に迫る。


「モモカぁ!」


ジョーカーが、抹茶色の体をピョンッと飛び出してアタイを庇う。


キコリンコの爪が、ジョーカーの腹にグサッと刺さった。


ぬいぐるみの布が、ビリビリッと裂け、薄い綿がフワフワッと海面に舞う。


「うわぁ〜、やられたぁ〜…なんちゃって!」


ジョーカーの赤い口がパクパクパクッと怪しげに笑い、手を入れる穴から小刀サイズの包丁をサッと取り出すと、ビュンッとキコリンコに投げ飛ばす。


だが、キコリンコは左手の爪をササッと振って飛んで来た包丁をカキンッと弾く。


「レよ″~カゝ、∧ナニ<ξ!」


彼女はベッと銀色の舌ピアスを見せつけ挑発する。


「しょんなぁ〜!」


ショックを受けたジョーカーは両手を上げて顔を左右に大袈裟に振ってふざけるが、一緒にふざけている余裕はない。


キコリンコが再び左手の爪をギラギラッと突き出し、反対側からカキコケラーが巨大なハサミを大鎌の如く振りかざす。


しまった、挟み撃ちされた!


「終わりですよッ!」


「レヽナニナニ″(キマ冫モス!」


カキコケラーとキコリンコの声が、左右から聞こえ、ハサミの刃と刃物のような爪が、ピリピリッと空気を切る。


刃と爪が同時に迫り、時間がスローモーションのように歪む。


やられる!


――かと思った瞬間、目の前が水飛沫で覆われた。


「え?」


感じたのは、刺すような痛みではなく、柔らかなヴェールに包まれた感覚。


まるで海の底に沈んだような静寂と、冷たい水の感触。


そして不思議な事に、揺らめく水の向こうに映っているのは、ハサミを振りかざすカキコケラー、爪を突き出すキコリンコ。


更に不思議な事に、武器を突き出す2人の間に立っていたのは鱗魚助と、彼に抱かれている…アタイだった。


でも今アタイはここに居て、アタイを抱きかかえているのは鱗魚助で…。


頭が混乱する。


幽体離脱?


理由を考えている間も無く、カキコケラーのハサミが目の前の「鱗魚助」の首を、キコリンコの爪が目の前の「アタイ」の腹をグサッと貫く。


だが、血飛沫は上がらず、代わりに透明な水飛沫がバシャアッと爆ぜる。

アタイと鱗魚助の姿をしていた2人はドロドロと崩れ、水の塊となって海面に溶け落ちる。


「何!?」「レよ??」


キコリンコとカキコケラーの混乱の叫びが重なる。


目の前の標的を失った2人の攻撃は勢いで止まらず、ハサミがズバババッとキコリンコの右腕を切り落とし、爪がグサッとカキコケラーの左膝に刺さる。


「勹″≠″ャ了了了了了ッ!!!!」


キコリンコが金切りを上げ、右肩をガシッと押さえながら砂の上に転げ落ちる。

必死に押さえている左手の隙間からは血がドロドロと溢れて血溜まりを作り、広がる。


「レヽナニレヽ!レヽナニレヽ!ヵ≠っち、ナニすレナτ…!」


キコリンコがカキコケラーの名前を呼んで助けを求める。


しかし呼ばれた彼はすぐ傍にいるものの、ガクガク震えている右膝を押さえながらうずくまっていた。


「ゲホッ、ゲホッ…ッ!」


何度も咳き込み、口からドロリと黒い血を吐く。

恐らくキコリンコの爪には毒か何か塗ってあるのだろう。


「一体、何が起こったんだ?」


少し離れた海面から眺めていたアタイは見上げる。


鱗魚助がアタイを抱え直しながらゼェゼェと息を切らしていた。


「何度練習してもできなかった変わり身の術が、成功して助かったぜ…。」


汗だか海水だか顔中びしょ濡れ、声には僅かな震えが混じっていたが、彼の黒い目はキラリと誇らしげに光っていた。

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