ケルベルス座の上級星と水の星徒達⑩
このままじゃ、アタイがやられる!
何か、何でもいい、アイツらの進路を塞ぐ方法は…!
その時、頭の奥で何か閃く。
アタイの意識に囁く――「この選挙会場と呼ばれる空間は、星徒各々の意志で変えられる」。
「よし、やってやる!」
アタイは両手を海に向かって突き出す。
桜の鈴がチリンチリンと鳴り、全身の毛がブワッと逆立つ。
すると、アタイ達とアイツらとの間に、海の底からズズズッと巨大な影が浮かび上がる。
ゴゴゴッ!
直後、巨大な建物が海底から突き出た。
同時にアタイと鱗魚助も、海底から現れたピンク色の丸い台座と一緒に高く高く昇る。
それは、ピンクの毛で織り上げたような見た目をした、途方もなく高くてデカい塔だ。
高さは100メートルを超え、ぐにゃぐにゃと曲がった柱が絡み合い、まるで生き物の骨のように複雑にうねる。
所々に、猫が隠れるような穴の空いたブロックがポコポコと突き出し、迷路のような通路が縦横に伸びる。
爪とぎ用のロープがジャラジャラと揺れ、巨大な鈴がゴーンゴーンと低く響く。
頂上、アタイの真後ろには、でっかい猫の顔の飾りがニヤリと笑い、黄金の目が陽光にギラリと光る。
塔の周りに、ふわふわのプラットフォームが浮かんでいる。
恐らくキャットタワーだろうが、要塞と呼ぶのが相応しい程に巨大で複雑な形になっている。
「な、なんだこのバカでかい塔!?」
いつの間にかアタイと鱗魚助は塔のてっぺんに立って、海を見下ろすような状態だった。
波のザザ〜ッという音が遠くに響き、まるでこの塔が海そのものを支配してるみたいだ。
アタイ自身、ビックリだ。
こんなもん、頭に浮かんだだけで出てくるとか、選挙会場ってどうなってんだ!?
遥か下でキコリンコとアマビヒコが、塔の根元にバシャッとぶつかり、水飛沫を上げながら後退する。
波に揺れながら見上げ、塔の大きさに目が点になる。
「何!? このデカさ、チョーありえないんですけど!」
アマビヒコが叫び、虹色の髪が水滴を弾く。
キコリンコも、ハイビスカスの髪飾りをガサガサ揺らし、宝石の爪を握り潰す。
「デヵす(‡″ゑωτ″すレナ`⊂″!?」
キコリンコの声が、まるで波に飲み込まれるように震える。
「気味が悪い建物ですねぇ〜。」
割れた海の中を走り続け、追い付いたカキコケラーがヒョロヒョロの体で塔の前に立つ。
銀色のハサミを振り上げ、ズバッとキャットタワーの柱に切りつけようとする。
だが、ガキン!と金属音が響き、ハサミが弾かれる。
「チッ! 布のような見た目をしておきながら金属製ですか、全く切れませんねぇッ!」
カキコケラーが嘆く。
紫色の髪がワサワサと揺れ、赤い目が苛立ちでギラつく。
ハサミを何度もチョキチョキ鳴らすが、塔の毛むくじゃらの表面はビクともしない。
「ハァ…迂回するか、塔を登るか、どちらにしても面倒ですね。」
カキコケラーが、ため息をつきながら塔を見上げる。
キャットボックスの入り口や迷路のような通路が、まるで彼らを挑発するように入り組んでる。
「敵の選挙会場に登るなんてマヂ有り得ないから!迂回しよ〜。」
「、ナωせレヽ!」
アマビヒコとキコリンコも、顔を見合わせて肩をすくめる。
「嬢ちゃん、ナイスだぜ! 行くぞ!」
暫く驚いたまま固まっていた鱗魚助は状況を理解してからニヤリと笑うと、アタイを抱きかかえたまま、小島があった場所に向かって台座の上やキャットボックスの上に飛び移る。
海の中に特化したアイツらと違い、鱗魚助は鳥のように軽々と次から次へと飛び移って行く。
ふわっトンふわっと高い位置から下の段へ飛び移るたび、胃の中がシェイクされキリキリと締め付けられる感覚になる。
気持ち悪いけど、必死に我慢する。
キャットタワーは小島の付近まで伸びているらしく、遠くの丸いキャットボックスの中で、ジョーカーの抹茶色の姿がピョンピョン跳ねてるのが見える。
「嬢ちゃん、あのカエルを落選させる準備は出来てるか?」
目前の所で鱗魚助がアタイに囁いた。
「勿論だよ!」
アタイは鱗魚助に思わず返事をしてしまった事に後悔した。
妃姫様を裏切った、敵である筈の相手に対して少しでも信頼してしまった。
彼の腕の中で、心臓がドクドクと鳴る。
だが、今はジョーカーを落選させるのが先だ。
キャットタワーの鈴が、ジャラジャラと遠くで響き、まるでアタイの決意を煽る。
海の波がザザ〜ッと寄せては返し、キャットタワーのピンクの毛むくじゃらな柱に水飛沫がピシャピシャと当たる。
塔の頂上の猫の顔が、黄金の目でニヤリと笑い、陽光をギラリと反射する。
「うわぁ〜、おれしゃまのへやだぁ〜!」
ジョーカーのふざけた声が、キャットボックスの中から響く。
抹茶色のカエルのパペットが、突然現れたこの塔にもビビるどころか、ピョンピョンと楽しげに走り回っている。
赤い口がパクパクと開き、黒いビーズの目が隙間からの陽光に当たってキラキラ光る。
キャットボックスのふわふわな内壁を、指のない手でペチペチ叩きながら、まるで子供が新しいおもちゃを見つけたみたいに弾んでる。
アタイと鱗魚助がキャットボックスの入り口に辿り着くと、ジョーカーがピタッと動きを止め、こっちを振り向く。
ビーズの目が一瞬ギラッと光り、まるで何か企んでるみたいだ。
「いらっしゃいましぇ〜!」
ジョーカーが、両手をブンブン振って叫ぶ。
抹茶色の体がピョコピョコ揺れ、キャットボックスの床に小さな波紋が広がる。
「おう、邪魔するぜ!」
鱗魚助が、呑気に笑いながらキャットボックスに踏み込む。
なるほど、相手を油断させるんだね。
アタイは感心し、攻撃のチャンスを伺う。
すると、彼の靴下みたいな黒いブーツが、ふわふわの床にズボッと沈んでは弾む。
まるで雲を踏むような感触に黒い目がキラキラと輝く。
「うわっ、ふかふかだぁ! 嬢ちゃんも入りなよ!」
鱗魚助が、ジョーカーと一緒にピョンピョン飛び跳ねる。
キャットボックスの壁が、まるで生き物みたいにフワフワと揺れ、鈴のジャラジャラという音が遠くで響く。
アタイの大きな耳がピクピクと反応し、ジョーカーと鱗魚助の笑い声が頭にガンガン響く。
尻尾がピクピクとイラつきで震える。
「ふざけるな!! 今からアタイがアンタらまとめて殺ってやるよッ!!」
アタイの怒鳴り声が、キャットボックス内に響き渡る。
全身の毛がブワッと逆立ち、桜の鈴がチリンチリンと激しく鳴る。
胸の奥で、妃姫様を傷つけたコイツらへの憎しみが、ドロドロと煮えたぎる。
鱗魚助がピタッと動きを止め、眉をひそめながら首を傾げる。
「嬢ちゃん、何もそこまで怒らなくても良いじゃねぇか。このカエルも悪い奴じゃなさそうだしよぉ?」
彼の黒い目が、アタイをチラリと見る。
まるで小さい子をなだめるような軽い口調に、アタイの怒りが更に燃え上がる。
「しょうだぁ!おれしゃまは、あくのかりしゅま、ジョーカーしゃまだぁ!」
ジョーカーが、鱗魚助の頭の上にピョンと飛び乗り、薄っぺらい胸を張る。
赤い口がパクパクと動き、まるでふざけたピエロみたいに笑ってる。
「アンタら、アタイのご主人様である妃姫様を傷つけた!」
アタイは叫ぶ。
声がキャットボックスの壁に反響し、震える。
まるで塔全体がアタイの怒りを吸い込むみたいだ。
アタイの毛むくじゃらの両手から、ギラリと光る牙のような爪が飛び出す。
攻撃の構えを取ると、大きな耳がピンと立ち、尾がバサッと揺れる。
そうだ、コイツ等はアタイのご主人様を泣かせたんだ!
妃姫様を苦しめる奴は、皆殺しだよ!




