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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑰

「まさかあの時の歌声って…そぅ、そういう事だったのね!?」


身近にしがみつける物が無い妙妙は両腕で顔を塞ぎ、右脚を前に左脚を後ろのアキレス腱を伸ばした姿勢で踏ん張っている。


メラメラと逆巻く炎のように激しく動く彼女の長い髪から見るに、風が彼女を捕らえるかのように囲い、1歩も動けない状態だった。


風の音はますます激しくなり、荒れ狂う波のように耳元で唸りを上げていた。


周囲の提灯は強風に耐え切れずもぎ取られ、細かい瓦礫と一緒に宙を舞い、暗雲が立ち込めている空に向かって飛んで行く。


「今回こそは何とかなりそうね。」


妙妙はそっと呟いた。


彼女の声は風にかき消されそうになるが、その言葉は確かに私の耳にしっかりと届いた。

その声は諦めでも絶望でも無い、希望が宿っていた。


しかし、見上げると、いつの間にか空には巨大な雲が渦巻いている。

その中心には黒々とした穴が開いており、まるで絶望の果てに続くような不気味な光景が広がっていた。


渦巻いた雲から地上に居る妙妙の元へ一筋の灰色の風がクルクルと糸が伸びるように巻き起こったかと思うと、ミシンの下糸を巻くように高速回転しながら段々と大きくなり、あっという間に巨大な竜巻へと変化した。


白く濁った竜巻は猛烈な勢いで回転し、耳をつんざくような轟音を立てながら瓦礫や提灯を吸い取っていく。


地上から巻き上がる土埃と風で視界が灰色に曇り、空はまるで怒り狂ったように黒く渦巻き、竜巻の唸り声が全てを覆っていく。


ついに耐え切れなくなった彼女の足元から一瞬にして重力が消え去って身体がフワリと浮かび、沢山の紅い提灯と共に空へ舞い上がる。


提灯の仄かな赤い光が渦を巻きながら次々と薄暗い空に舞い彼女を取り囲む様は、まるで炎を纏う無数の星々が1羽の不死鳥を包み込んで天に昇るようだった。


妙妙と提灯と瓦礫は竜巻に呑み込まれ、空高く、渦巻く雲に向かって飛んで、どんどん吸い込まれていく。

渦巻く雲は口を開けた巨大な生き物のように動き、彼女と提灯たちを引き寄せる。

その力に逆らう事は出来ず、彼女はただ、光と風の中で舞い続けた。


えっ?

ちょっと待って、何これ?


「妙妙ちゃん!」


私は歌うのを止めて、彼女の名前を叫んだ。


どうして、こんな事になるの?


私はただ、彼女の攻撃を止めるつもりだったのに、こんなおぞましい事になるとは思いもしなかった。

恐怖と興奮が入り混じった感情が、胸の中で渦巻いていく。


「妙妙ちゃん!妙妙ちゃんッ!!」


私は目の前の現実が信じられず、何が起こっているのか理解出来ないまま、ただ彼女の名前を叫ぶ事しか出来なかった。


声がかすれ、喉が痛むほど叫び続けたが、彼女の姿はどんどん小さくなっていく。


風はますます激しさを増し、耳をつんざくような音を立てていた。

その音はまるで全てを飲み込むかのように、周囲の音をかき消してしまった。


「妙妙ちゃんッ!妙妙ちゃんッ!!」


とても怖い、嫌な予感しかしない。

彼女の名前を叫び続けながら幻子に助けを求めるけど、幻子は自分が吹き飛ばされまいと必死に柱にしがみついたままの状態で首を横に振った。


私は絶望と後悔で涙が溢れる。

涙は頬を伝う前に風で散り散りになって飛んで行く。


そんな私に対して彼女は私に向かってウィンクして見せる。

そして、息を大きく吸込み


「私の屍を超えていけぇぇえええッ!!!」


妙妙の叫び声が空中にこだまする。

その声は力強く、希望に満ちていた。


そして、彼女の姿は次第に見えなくなっていった。

雲の中に吸い込まれるその瞬間、彼女の金色の瞳が最後の光を反射し、紅い提灯の光が一瞬だけ輝きを増して消えた。


私は彼女の最期の姿を目に焼き付けながら、絶望と共に立ち尽くしていた。


「妙妙ちゃん…。」


私は居なくなった妙妙ちゃんの跡を見つめた。


竜巻が現れていた場所は、今は冷たい風が吹き抜けるだけの更地となっていた。

派手な姿の女の子も、暗がりを照らす赤い提灯も、豪華な庭も、全て風に飛ばされ、消えてしまった。


さっきまで目の前にいた筈の彼女の存在が消えてしまったのに、私の耳には彼女の叫び声がまだ残っているような気がして、胸が痛んだ。


彼女の叫びが、風の中で響き渡り、私の体と心を震わせる。


私の屍を越えて行け。


「でも、そんな…、無理だよ、妙妙ちゃん。」


思わず否定的な言葉を呟いてしまった。


妙妙ちゃんは最期にとびきりの笑顔を見せ、私に希望を託した。


私自身、他人から期待される事はとても嬉しい。

でも、今回は心の中で何かが壊れたような気がして、胸が締め付けられ、思わず頭を抱え込んだ。


だって、私がシャボン玉を歌ったせいで何故か竜巻が出て来て、妙妙ちゃんはお空の彼方へ消えてしまった。


妙妙ちゃんを消したのは、妙妙ちゃんを屍にしたのは私のせいなのに。


違う!

私は、まーちゃんが歌ってと言ったから歌っただけで、こんな事になるなんて知らなかったんだもの!


それに、だって、私は、妙妙ちゃんを殺すつもりなんてなかったのだから!

それに、訳も分からずクラスメイトを殺した私が、訳も分からず生徒会長になっても、この学校が良くなる筈が無い。



頭の中で自分を正当化しようとする自分がいる。

まーちゃんのせいだと思ってしまう自分が嫌になるけど、誰かのせいにしないと正気を保てそうにない。



でも待って!

妙妙ちゃんはお空に吸い込まれただけで、まだ生きてるかもしれない!?


そう思った瞬間、私は再び空を見上げた。


お願い、妙妙ちゃん!

雲の隙間からでも良いから、姿を見せて!


そう強く願いながら、雲の向こうをジッと見つめる。


すると、妙妙ちゃんが吸い込まれた先に何か、黄色い何かが現れた。


最初はただの朧月かと思ったが、次第に色形がハッキリしてきた。


その正体が何か分かった瞬間、恐怖が全身を駆け巡り、足がすくんで動けなくなった。


目。


渦巻く雲の中から、緑色に輝く黄色い瞳孔の巨大な1つの目が、こちらを見下ろしていた。


その巨大な目は白く長い睫毛と磁器のような白い目蓋があるにも関わらず瞬きひとつすらしない。

雲の隙間から突如として現れたそれはまるで全てを見通しているかのように冷酷で、しかしどこか引き込まれるような魅力を放っていた。

周りの雲が激しく渦を巻き、その中心でその目だけが静止している様子は、まるで時が止まったかのようだった。


そしてその目は、徐々にハッキリと浮かび上がり、周囲の暗闇を裂くように輝き始めた。


強く輝く緑の奥で脈打つ黄金の瞳には何かしらの意志が宿っているのを感じたが、それが何なのか理解する事は出来無い。


私は目の前に現れた得体の知れない存在に対して恐怖と不安が胸の中で膨れ上がり、思わず後ずさりした。


目を逸らそうとしたが、その目の存在感に圧倒され、視線を外す事が出来無い。


冷たい風が更に強く吹く中、ふと耳元で不気味な囁きが聞こえたような気がした。

謎の声が気になるが恐怖に支配され、全身が硬直していた。


その巨大な目は輝きはするももの一瞬たりとも動かず、ただ私を見つめ続けていた。


まるで私の心の中を覗き込んでいるような、冷たい視線に貫かれているような感覚がした。


次第に意識がぼんやりとしてきて、目の前の光景が歪んでいった。

耳鳴りが激しくなり、足元が崩れ落ちるような感覚に襲われた。

全ての感覚が消え去り、ただその不気味な目だけが脳裏に焼き付いていく。


段々と意識が失いつつある中、脳に直接語りかける声がした。


その声は深く、遠くから聞こえて来るようでありながら、同時にすぐ耳元で囁かれているかのようだった。

男か女か動物かすら分からない、言葉にならない不明瞭な音が、私の意識に入り込んでくる。


貴方は、誰?


掠れゆく意識と恐怖と混乱が渦巻く中で、私は誰が何を伝えようとしているのか理解しようと必死に濁った水でもがいていた。


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