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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑯

「貴女、なかなか強いじゃないの!」


妙妙は歓喜に近い声を上げながら連続で蹴りを入れる。

その動きはしなやかで、一瞬の隙もない。


「私は乙女座の優等星だよ、ちょっとした有名人なんだけどぉ、もしかしてテレビとか観ないの?」


幻子は妙妙の蹴りをひとつずつお玉で受け止め、振り払う。

そのお玉は空を切る音を立てながら反撃の機会を窺っている。


「テレビっ子だけど知らないわよ!」


怒鳴り声をあげた妙妙は右手でお玉の攻撃を受け流しながら左手の付け根を突き出して掌底を放った。


「そぅ、残念。」


幻子は掌底を避けるべく素早く身体を低くし、同時にお玉を横に振り、足払いをする。

その動きはまるで旋風のように速く、予測しづらい動きではあった。


しかし、振り払われたお玉が当たる直前で妙妙はヒラリと舞い上がるとクルリと一回転、後方へジャンプしてかわす。

相変わらず彼女のジャンプはトランポリンの上にでも乗っていたのかと思ってしまうぐらい軽々と高く舞い、真っ赤な身体が宙に浮かぶ瞬間、周囲の空気すら彼女の動きを追いかけるようにゆっくり見えた。


「まぁでも、貴女も所詮は幻星力に依存した身体ねッ!」


優雅に爪先から着地した妙妙は幻子に対して挑発するように言い放つ。


「そうね、それにこの身体、目蓋が重くて意識しないと開けられないから困るのよねぇ〜!」


攻撃を避けられ立ち上がった幻子は軽く笑みを浮かべ、呑気に自分の体について喋り出す。


「だから視野も狭くなるのよ、破ァッ!!」


突然、妙妙は叫ぶと同時に両手を前へ突き出した。


ボンッ!!


妙妙が大声を上げた途端、幻子の頭上で爆発が起こった。


高い位置に飾られていた筈の提灯がいつの間にか幾つか落ち、空中で爆発したのだった。


提灯の布地や中にある硝子ランプの破片が周囲に散らばり、火花が空中で踊る。


爆発の規模は小さいけど威力はそこそこあるようで、爆発から守ろうと咄嗟に振り上げた幻子の手からお玉が離れた。

お玉は爆風に乗って提灯の灯りに照らされながら、自らの意思を持って空中で奇妙な軌跡を描きながらクルクルと逃げ出すように飛んで行く。


「あっ、しまっ…」


幻子が驚いた声を漏らす。

その声に僅かな焦りが含まれているのを聞き取った妙妙は、すかさず行動に移る。


「隙ありッ!」


妙妙が飛び込み、空中で得意の回し蹴りをする。


その蹴りは、彼女の全ての力を込めた一撃であり、周囲の空気までも切り裂く音を響かせ、幻子の方へ一直線に向かう。


「きゃあッ!!」


妙妙の蹴りが幻子の首に命中して、幻子は吹き飛ばされた。

低空のまま彼女は甲高い声を上げながら無防備に飛び、そのまま5メートル先の柱に激突すると、右半身がめり込んだ。


柱は砕け、粉々になった破片が四方に散らばると、衝撃波が周囲に広がり、塵が舞い上がる。


「まーちゃんッ!!」


違う、この子は、まーちゃんじゃない!


私は咄嗟に叫んだ事を後悔した。

彼女はまーちゃんの姿をした別人なのだから。


「いったぁ〜い!!」


折れた柱の間から幻子はゆっくりと立ち上がる。


周囲にはまだ立ち込める粉塵が舞い、薄暗い光の中で彼女のシルエットがぼんやりと浮かび上がっていた。


「やっぱり自分の身体じゃないから上手い事いかないものねぇ。」


両手でスカートをパンパンと叩き、溜め息を吐く幻子。

粉塵が薄れてようやく見えた顔は、痛みによって眉をしかめながらも、口元にはどこか余裕の色が見え隠れしていた。


「まっ、私は前座だから仕方が無いけどね!」


そう言うと幻子は痛みを忘れたかのような明るい笑顔を見せる。

彼女の笑顔は、まるでこの状況を楽しんでいるかのようだった。


「さぁ、今度は妃姫先輩の番だよっ♪」


幻子が私に向かって言い出した。

立ち上がった彼女の声には期待と信頼が込められていた。

背後では崩れた瓦礫が不安定に積み重なっているのに似合わない笑顔を私に向ける。


「お手並み拝見といこうじゃないの、特待星様!」


妙妙は再び戦闘態勢をとる。

彼女の目は鋭く、全身から放たれる気迫が場の空気を一変させる。

あれだけ激しい戦いをしても息が上がっておらず、彼女の体力の多さには驚かされる。


それよりも、


「私の番って?無理だよ?!」


私は物凄い速さで首を左右に振って拒絶する。

手のひらは冷や汗で湿り、膝は震えている。


戦う術が無い私なんかが、まーちゃんよりも強い妙妙相手に勝てる気がしない。


「それに私、どんな技が使えるのか分からないんだもの。」


声が震え、言葉がかすれる。


まーちゃんを含め、今まで出会った子達は何かしら格闘技や魔法みたいな事が使えていた。

だけど、私にはそれが無い、仮に持っていたとしても何が出来るのか分からない。


戦闘の経験もない私が、今ここで何かを発動させ、この選挙を乗り越える事が出来るのだろうか。

考えれば考える程、不安と恐怖が胸を締め付ける。


すると幻子は小首を傾げた。


「う〜ん、じゃあ、取り敢えず何か歌って。」


突然のリクエストに、私は耳を疑った。


「えっ、今!?」


戦いの真っ最中に?


荒れ果てた選挙会場、負傷している親友、そして目の前に迫る敵。

こんな状況で歌うなんて、正気の沙汰ではない。


「そうだ、シャボン玉の歌!」


困っている私を他所に、幻子は曲まで選んだ。


「えっ、シャボン玉ぁ?」


私の口から漏れた言葉は、自分でも驚くほど戸惑いの色を帯びていた。

頭の中で浮かぶのは、子供の頃に聞いたあの懐かしいメロディー。

しかし、それが今のこの状況にどう結びつくのか、全く理解出来ない。


何故、こんな緊急事態にそんなリクエストを?

そして、何故、シャボン玉の歌を?


謎のリクエストに戸惑う私。


しかし、幻子の表情は不思議と冷静で、自信に満ち溢れている。

まるでこの混乱の中でこそ、その歌が必要だと言わんばかりだ。


心の中では焦りと混乱が渦巻く。


「ホラ、早くしないと怪我するわよ!」


妙妙が私の方に向かって駆け出した。

彼女は今度こそ私を殴ったり蹴ったりするつもりだろう。


「早くぅ!」


幻子の急かす声に、私は決意を固めた。

理解出来ないままでも、彼女の信頼に応えるしかない。


私は息を深く吸い込んだ。

心を落ち着かせ、目の前の景色が遠のくような感覚の中、懐かしいメロディーを口ずさみ始めた。


「シャぁボンだぁまぁ飛んだぁ〜♪」


私が記憶を頼りにシャボン玉を歌い出したその瞬間、風が巻き起こる。


肌に感じる冷たい空気が急に動き出し、まるで見えない手が私の髪を掴んで引っ張るようだった。


「ワッ!」


とてつもない強風に身体が揺れる。


足元が不安定になり、思わず手を伸ばしてバランスを取ろうとするが、風の力に押し戻されるばかりだ。


周囲の紅い提灯がざわめき、燃え盛る炎のように激しく揺れているのが目に入る。


「歌を続けて!」


幻子が傍にある柱にしがみつきながら大声で指示を出す。


その声は風にかき消されそうになるが、私の耳にははっきりと届いた。

彼女の目は真剣そのもので、まるで私の歌に全てがかかっているかのようだ。


私は全身全霊を込めて、歌い続けた。


「屋根まで飛んだ♪」


風の中で妙妙が立ち止まり、目を見開いた。

彼女の長い髪がほぼ逆さまになっているを見て、私は確信した。

この歌、私の歌には何か特別な力があるのだと。


私は必死に声を振り絞り、歌を続けた。

口から出る音が風に乗って、遠くへ運ばれていく。


「屋根まで飛んで、壊れて消えた♪」


歌のメロディが風と混じり合い、周囲に広がっていくのを感じる。

風がますます強くなる。


顔に当たる風が痛く感じられ、目を開けているのがつらくなってきた。

それでも私は歌い続けた。


風の音が耳をつんざき、まるで嵐の中にいるようだ。

視界がぼやけ、まるで世界が風の中に溶け込んでいくかのようだった。


「シャボン玉消えた、飛ばずに消えた♪」


しかし、私の声はまだしっかりと歌を奏でている。

私の歌が風を操り、風と共鳴しているように感じられた。

この風で何かが変わる、そんな予感がした。


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