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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑮

「それじゃあ貴女も幻子という事はさぁ、この地獄のスパイラルから抜け出せる方法を貴女は知ってるのね?」


私がまだまーちゃんかまーちゃんじゃないかで悩んでいるのに、妙妙は早口で話を進めた。


まーちゃんが消えた後で私に向かって長々と早口で喋っていた時は聞き取れなかったけど、今回は長くないから聞き取れた。


地獄のスパイラルって意味がよく分からないけど、恐らく彼女はこの運命から逃れる方法を探し続けていたのかもしれない。

中庭で私を誘った時みたいに、彼女の目には希望の光が見えるような気がした。


でも、そんな妙妙の希望を打ち砕くかの如く、幻子は首をゆっくり左右に振った。


「知っているけど、教えちゃダメなの、ごめんね♡」


口では謝っているけど、舌をペロッと出してウインクしている様子は第三者である私でも腹が立つ。


それに、こんなの、まーちゃんじゃない!

まーちゃんは、こんな顔しないし、簡単に目を開けたりなんかしない!


そう叫びたくなった。

彼女がそうした仕草をするのがわざとらしく、まるで楽しんでいるかのように見え、私は怒りを抑えるのに必死だった。


でも、不思議な事に妙妙は怒っておらず、何故か私の方をチラ見してから納得したように頷いて、大きな溜め息を吐いた。


「成る程ね、私達ったら貴女達の茶番に付き合わされていたって訳ね。」


「え、どういう事?」


私は戸惑って妙妙を見つめた。


妙妙は理解出来ず困っている私の事を無視して話を続ける。


「まぁ良いわ、どうせ花散る運命(さだめ)ならば抗ってみせるわ…、だって私は鳳凰座の転入星ですもの!」


それを聞いた瞬間、私の心臓が高鳴り始め、不安が胸を締め付けた。

この状況でまた選挙が再開しそうな予感がしたからだった。


でも何で?!

もう選挙する必要が無いような雰囲気だったのに?


そんな私の不安を他所に、幻子はノリノリになって頷いた。


「だったら私も肩慣らしにひと暴れしちゃおうかな♪」


「え、だからどういう事!?」


私は慌てて幻子を見つめた。


幻子は妙妙の言葉に興奮しているように見え、彼女の言葉を受けて自信に満ちた笑顔を浮かべていた。

その笑顔はまーちゃんとは別人なのに、見た目はまーちゃんだからなのか嫌でも安心する。

とても物騒な事を言っているのはさておき。


否でも何で?!

もう選挙なんてしなくて良いよね!?


ようやく幻子が私の様子に気付いてたようだけど、ヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめる。


「私達の為に死んでくれと言われてハイソウデスカっていう訳にはいかないでしょ?」


その言葉に妙妙も頷いた。


「そういう事ッ、私に勝てないようじゃ選挙に当選なんて出来ないですもの!」


私は唖然とした。


最初の時は歪み合って敵対していた2人が不思議な事に仲良さそうにしている。

かつての2人が最初に会った時の険悪な空気は微塵も感じられず、代わりに微笑み合う姿がある。


そして、何故かまた選挙を再開しようとしている。

2人の笑顔には闘志の火が燃え広がっている。


理解が追い付かない。


「という訳で、妃姫先輩も戦ってよね♪」


突然の声に、我に返る。

同時に胸の奥が急に冷たくなるのを感じた。


目の前に立つ幻子がニコニコと笑っていた。


「えっ、私が?!」


驚きのあまり、声が上ずってしまう。


「当然よ、働かざる者、食うべからずって言うじゃない!」


笑顔のまま、さも当然のように言い放つ幻子。


えっ、ちょっと待って、どういう事!?


何が起きているのか、全く理解できないまま、私はまた選挙に巻き込まれてしまい、混乱と不安が更に深まっていく。

頭の中はぐるぐると混乱した思考が渦巻き、心臓の鼓動が更に速まるのを感じた。


え、私も戦うの?


逃げ出したい気持ちと、状況を把握しなければならない焦燥感の間で、私は立ち尽くすしかなかった。


それでも2人は私を置いて話を進め、火花を散らす。


「アンドロメダ座よりも楽しませて頂戴!」


妙妙が幻子に向かってビシッと人差し指を向ける。

ヒビ割れた庭の中、紅い提灯の灯りが煌めく空の下で堂々した姿はまるで巨大な悪に立ち向かうヒーローのようだった。


「えぇ、全力でいらっしゃい!」


幻子は妙妙の挑発を仁王立ちで受け止める。

その背後には紅く輝く蝶々が飛び散って彼女のシルエットを際立たせ、まるで玉座の前に立つ女王のように堂々としていた。


2人の間に火蓋が切って落とされた。


「じゃあ改めまして、私は鳳凰座の転入星、妙妙!」


妙妙は右手の拳を空に突き上げながら名乗る。


「私は乙女座の優等星、蝶想幻子!」


幻子は両手でピースサインしながらウインクする。


これ、もしもジャンケンだったら幻子は負けていた。


「さぁ、妃姫先輩も!」


「えっ!?」


呑気な事を考えていたから急に振られてドキッとする。


「えっ、えぇと、私は…」


あれ?

私って何座なんだろう?


今まで名乗り出る必要が無かったから、自分が何座なのか考えた事なかった。


星座を持つ2人が自信満々に名乗るのを見て、少し焦りを感じる。


「えぇと、私は桜丘妃姫!」


分からなかったから自分の名前を名乗る。


妙妙は呆れたかのように眉を寄せていたけど、幻子は右手でオーケーサインを出してくれたので少しだけホッとした。


その時、提灯の空のその向こうに広がる夜空に浮かぶ一際明るい星がキラリと輝き、まるでこの場に居る皆を祝福するかのように瞬いた。


『星徒界選挙に立候補します!!』


私を含む3人の声が響き渡る。


私達の誓いが届いたのか、空には満天の星が瞬き、見守るかのように輝いている。


何だか不思議な気分。


先程までと違って胸の奥が熱くなって興奮し、同時に少し緊張している自分がいた。


今までまーちゃんが選挙で戦っていたのを応援しているだけだったから、今こうして自ら選挙に参加するとは思ってもみなかった。

もしかしたら私は、彼女の強さに憧れていたのかもしれない。


そうしみじみしている間に、幻子と妙妙が庭園の中央で戦っていた。

ヒビ割れた石畳の上には紅い提灯に照らされて出来た2人の影が鮮やかに浮かび上がっているが、影だけでは何をしているのか分からない程に2つの影は激しく動いていた。


ついさっきまで戦っていたとは思えない程に妙妙は鋭い掌底や勢いのある蹴りを繰り返していた。

それも力で押し切るのではなく、無駄の無い流れるような動きだった。

彼女の目は冷静で鋭く、全身がひとつの武器のように動いている。


対する幻子は…。


お玉?


そう、彼女の右手には私の脚ぐらい大きな金色の、料理をかき混ぜる時に使うお玉が握られていた。

まーちゃんに瓜ふたつの美少女がお玉を振り回して戦うなんて異様な光景だけど、黄金に輝くお玉は武器のひとつと錯覚してしまう程に、的確に妙妙の蹴りを受け流していた。


軽やかに見えて強烈な攻撃を放ち続ける妙妙。

妙妙の攻撃を華麗にかわしつつ、お玉を巧みに操る幻子。


その動きはまるで演舞のように優雅で、尚且つ力強い。

2人の戦いは正に技と力の応酬だった。

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