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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑭

「クックドゥルドゥ〜♪」


突如、口笛みたいな軽快で可愛らしい歌声が響き渡る。


「だっ、誰!?」


それに呼応するように、妙妙は振り下ろそうとした拳を止め、驚きと疑念が入り混じった声を上げた。


一体何処から聞こえるのか、そう疑問に思う前に私は自然と見上げていた。


すると、頭上の提灯と提灯の隙間から紅く光る無数の蝶々がヒュンヒュンと物凄い速さで私と妙妙の間に割って入って来た。


妙妙は不意に目の前に現れた紅い蝶々の群れに信じられないと言わんばかりにまん丸と見開いて驚いた表情を作り、速やかに大きく後ろへ跳び退いて着地した。

その距離はたった1回のジャンプでおよそ10メートル。


そして周りの柱1本分にまで集まって小さな竜巻みたいに飛び回る紅い蝶々の群れに対して、妙妙はいつでも攻撃出来るよう拳を握り締めて構えていた。


蝶の群れを睨むその目は鷹のように鋭く、警戒心と緊張感、そして焦りがこちらにも伝わって来る。


対して私は目の前に輝く紅い蝶々に驚かなかった。

だってこの蝶々が再び戻る事を待ち望んでいたのだから。


でも、何かがおかしい。

先程も見たものでよく知っている筈なのに。


聞き慣れた声を発する紅い蝶々はクルクルと旋回しながら1カ所に集まると次第に個々の輪郭を失っては紅い光を増し、ひとりの少女の輪郭を浮かび上がる。


そして、紅く輝く星の粒子を散らせながら徐々に人の姿や色に変わっていく。

キラキラと星の砂が吹き飛ばされるようにして現れたのは桃色の肌と桜色の唇、ふんわりと閉じられた穏やかな目蓋、紅い天の川がサラサラと描き出したのは黒くて長い艷やかな髪。

紅い光に染まったスカートを揺らめかせながら降り立つその姿はとても神秘的で、まるで星空を舞う天女のようだった。


「まーちゃん!」


私は親友の名前を呼んだ。

名前を呼び終わった時には紅い輝きは全部消え去り、中から現れたのは先程まで消えて失くなってしまった筈の人物だった。


まーちゃん、彼女が今まさに目の前に立っている。


驚きが心を駆け巡り、同時に嬉しさと安堵感が広がる。

夢でも見ているかのような気分だった。


「まーちゃん、良かったぁ…。」


さっきまで大怪我していたとは思えない程に綺麗なまーちゃんを眺めながら呟いた。


すると、まーちゃんは私に向かってニッコリと満円の笑みを浮かべ、口を開いた。


「助けに来ちゃったぁ、妃姫先輩♡」


私は固まった。


確かに声はまーちゃんだけど、まーちゃんとは思えないとても軽々しくて甘ったるい声音だった。

尚且つ聞き慣れない呼ばれ方を唐突にされて、聞き間違えたのかと思ってしまった。


それに、姿形は私の知っているまーちゃんだけど、今見せられている笑顔は私の知っているまーちゃんのとは全然違う。

何と言うか、大和撫子感が全く無い、微笑みではなくて営業スマイルみたいな笑みだった。


「えっと…、先輩って?」


驚きと混乱の中でようやく尋ねた。


「だって私、年下だからね♡」


私の問いに、まーちゃんは自信たっぷりに頷いていた。


「え、そ、そうなんだ?」


納得したという意味で返事をしたものの、頭の中では全然納得いかない、それどころか理解すら出来ていない。


まーちゃんはこの状況で何の冗談を言っているのだろう?


パンケーキをグチャグチャにしちゃったり、女の子の顔を踏ん付けたり、まーちゃんからは今までも何度か驚かされた事はあったけど、それは多分選挙に当選する為だと思えば納得出来た。


だけど、今回は全く違う。


そもそも、コレ、本当にまーちゃんなの?

まるで彼女が別の世界からやってきたかのようだった。


安心出来ると思っていた私は更なる不可解な出来事による混乱の渦に巻き込まれ、自分の心臓の鼓動が速まるのを感じた。


「それよりもぉ、此処は危険ね、ある筈の幻星力(げんせいりょく)が水で溶いた片栗粉みたいに鈍ったような感じがするもの。」


まーちゃんらしき人物がのんびり辺りを見渡しながら呟く。


「げ、ゲンセーリョク?」


私は聞き慣れない言葉に首を傾げた。


よく分からない例えと、よく分からない言葉が出て来たけど、要するにその幻星力が使い難い状況なのだろうか。


もしも、まーちゃんが今まで使っていた蝶々みたいな技や格闘技が幻星力に依存しているものだとしたら、まーちゃんが早く選挙したがっていたのも、急に弱くなってしまったのも納得出来る。


最も、私には幻星力とはどういう感覚のものなのかは分からないから、此処がそんな状態である事も気付かず、ただ豪華で不思議な庭だとしか思わなかった。


「何でぇッ!?」


遠くから切羽詰まった鳥の悲鳴のような甲高い声がこちらに向かって飛んで来た。


まーちゃんの肩越しから声の方へ視線を向けると、黄色い瞳を大きく広げ、真っ赤な口元をわずかに開いて驚いた表情を隠し切れない妙妙が構えも忘れた姿勢で立ち尽くしていた。


「一体何が起こっているのよっ!?」


妙妙の不安と疑問が混じり合った声が震えながら響き渡った。


それは私も同じ気持ちだった。

目の前に居るのは、まーちゃんであって、まーちゃんでは無いのだから。


敵とはいえ、今の混乱している気持ちを共感出来る人が居て良かったとまで思ってしまった。


「う〜ん、取り敢えず選挙だからぁ、自己紹介するね。」


まーちゃんっぽい人が私と妙妙を交互に見やってから語りだした。


「私は蝶想幻子(ちょうそうまぼろし)、乙女座の優等星だよん♪」


「え!?」


彼女が名乗りを上げた直後、私は思わず大きな声を上げてしまった。


「ちょっと待って、さっきアンドロメダ座って言ってたじゃないの!?」


続いて同じ事を思った妙妙が大きな声を張り上げる。


私もコクコクと頷いた。

確かに昨日と今日、まーちゃんは選挙の前にはアンドロメダ座って名乗っていた。

まーちゃんが乙女座と名乗った事なんて1度もない。


「あぁそうね、多分さっきの幻子はアンドロメダ座だけどぉ、私は乙女座だよ?」


さも当然のように答えるまーちゃんモドキ。


どういう事?


さっぱり分からず首を傾げている私に対して、妙妙は何かに気付いたようだった。


「えっ、まさか幻子は1人じゃないって事ぉ!?」


「えぇっ!?」


まるで漫才の相方でもなったみたいに私は飛び上がりそうな勢いで声を上げる。


そうなの?!

まーちゃんが何人も居るの!?


「あら貴方、幻子の身体が借り物だというところまでは知っているのに、複数存在する事は知らないのね?」


驚いた顔の妙妙に対して小馬鹿にしたように笑う第2のまーちゃん。


その様子に私はショックを受けた。

私の知っているまーちゃんは、そんな鼻で笑うような事をしないから。


「まぁ、複数居るのは中身だけで実質1人なんだけどね♪」


またもや明かされる衝撃の事実。

もしかして、まーちゃんは多重人格者だとでも言うのだろうか。

つまり目の前に居るのはモドキでも第2でも無くて、本物のまーちゃんという事になる。


でも、目の前の彼女が嘘を吐いているかもしれない。

もしかしたら、まーちゃんの姿に変身しているだけかもしれない。

それに、もしも彼女の言っている事が事実だとしても、外か中身かの違いだけで私の知っているまーちゃんじゃない事に変わりはない。


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