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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑬

「次は桜丘さん、貴女の番よ!」


疲れを知らない明るい声が響き渡る。

彼女は休む事無く戦うつもりらしい。


よく見ると彼女の紅と金色の目は常に瞳孔が開いた状態で、血に染まった海に浮かぶ戦いに飢えた野獣のように見えた。

少しでも弱みを見せたら襲って来そう。


それでも私は返事をせず、黙って待っていた。

怖いけれど、いつものように、まーちゃんが完全復活して私を助ける為に来てくれると信じているから。


「…………。」


大丈夫。

大きな怪我はしたけどいつものように蝶々になったんだから、また元の姿に戻って私を助けてくれる筈。


「………………。」


え?


あれ?


まーちゃん、戻って来ないの?


慌てて辺りを見渡すけれど、まーちゃんの姿は何処にも無い。

空を見上げても、まーちゃんの印である筈の紅い輝きはいつの間にか消えて無くなっていた。


「ハァ〜ぁ!!」


妙妙の呆れと苛立ちを隠せない大きな溜め息が響き渡る。


「さっきの戦いでクラスの皆が貴女を嫌っていた理由が分かったわ、貴女ってば本当に良いご身分ね!」


それは私に向けられた怒鳴り声だと気付き、反射的にビクッと肩を震わせ、慌てて彼女の方を見やる。


彼女は腰に手を当て、足のつま先を何度も地面にトントンとタッピングしていた。

そして、チッチッチッチッチ…、と鳥のようなさえずり……ではなく、わざとらしい舌打ちが連続して聞こえて来る。


彼女は何か言いたげだった。

それが今から始まりそうだった。


「え?」


私は空返事をした。


もしかしたら今回のまーちゃんは復活して戻って来るまでに時間がかかるのかもしれない。

時間稼ぎの為にも、話を聞くフリだけでもしなくちゃ。


「本当だったら借り物の身体の子なんて一瞬で殺る事も出来たけど、貴女のせいで皆が不幸になってるのに貴女は償う事もしないどころか特待星なんかになって好き勝手に振る舞って許せないのに手出し出来なくてちょっとした嫌がらせしか出来ない皆が私に八つ当たりしに来てムカついていたから貴女に仕返しする為に馬鹿な貴女のお守りをしている大馬鹿で可哀想な貴女の親友を見せしめにジワジワ痛めつけて消し去ってあげたのよ、でも私ってば優しいわよね、結局貴女を助ける事になってしまったんだからね、だって悪夢乙女(ムクオミタア)に取り憑かれた奴は養分吸い取られて馬鹿になる事や特待星である貴女が死んだらこの町が滅んで最初からになる事を転入星である私は知っているのよ、あぁ悪夢乙女ってのは選挙の時に現れる人ならざるものって本に書いてあったわ、貴女に殺された手引綱(てびきつな)君が死ぬ前に変な声をした軍服の悪夢乙女からマボロシという悪夢乙女を探して消せって話を聞き出せたから貴女が普段まーちゃんと呼んでた女の名前が幻子(まぼろし)だと分かった瞬間これで助かったと思ったわ、でもその幻子を倒したのに何も起こらないし、貴女は相変わらずボーッとして呻くだけでちっとも反省しないし最低だわ、トップの2人に貴女の事を教えて行かせたのに結局今回も無駄だったし、もうどうでも良くなったから今回は今までの怨みを晴らす為に私の手で貴女をぶっ殺してまた次の選挙で次の策を考えて試すわ、いつ殺されても良い貴女が少しでも生き延びる事が出来たのだから私に感謝しなさいよ、どうせ私が言っている事なんてこれっぽっちも理解出来ないでしょうけど!!」


何を言っているのか全く分からない。

ただ、物凄い早口で私の悪口を言っているような気がする。


でもそんな事、今はどうでも良い。


今はまーちゃんが戻って来るまでの時間稼ぎなのだから分からなくても大丈夫、真剣に聞く必要は無い。


妙妙は構わず話を続ける。


「ところで貴女ったらどうやってあの成績トップの2人から生還出来たのかしら、玉響(たまゆら)ならともかくあの2人は選挙しなくても戦えるのだから、昨日行方不明だって聞いて正直驚いたわ一体どういう手品を使ったのかしら、あぁでも今の貴女に訊いても無駄ね、だって貴女ったらまともに喋れないしいつも変な事言ったり普通じゃありえない物を食べているんですもの、いくらお腹が空いたって普通使い古しのカイロなんて食べないわよ、さっき中庭で見かけた時は美味しそうに食べていて本当に気分が悪かったわ、以前見掛けた時はそこまで酷くなかったのにやっぱり幻子のせいなのね、今の貴女から見て私達はどんな風に見えているんでしょうね嗚呼でも私の事をお兄ちゃんとかいうのと勘違いしたから結局本当の私を知ろうともせず一方的に差別するあいつ等と変わんないわね、ていうか貴女のお兄さんってあの暴力だけが取り柄の志月だったよね貴女達の家族ってロクな奴がいないわよね私含むこの町の人達を滅茶苦茶にして本当にどう責任取るつもりなのかしら、ってちょっと私が話し掛けてあげているのにさっきから何処見てんのよ、もしかして幻子を探しているのかしら、残念だけど彼女の気配は無いからいないんじゃないの知らないけど、まぁしょうがないわね本当はさっさと消してやりたいけど私は優しいから貴女に私と手を組む最後のチャンスをあげるわよ、さぁどうする?」


私はまだ悪口を吐き続けている妙妙に顔を向きつつも、視線をあちこちに向けてまーちゃんを探し続ける。


でも、まーちゃんの姿は依然として見当たらない。


ねぇ、まーちゃん、何処に行っちゃったの?

いつもみたいに早く戻って来て、私を助けてよ!


心の中で願っても、まーちゃんは現れない。

焦りが広がり、心臓の鼓動が加速する。


「で、私と組むの?やり合うの?」


「えっ?!」


ようやく何を言っているのか聞き取れたけど、それは直ぐに答えられない内容で、言葉に詰まりながら思わず後退る。


只でさえ誰かを叩いた事すら無いのに、先程まで見せ付けられた戦闘を今度は私がやらなくちゃいけないと思うと怖じ気付いてしまう。

誰もが避けて通れない選挙に立ち向かう覚悟が必要とされる場面なのに、私の心は恐怖と拒絶感に包まれる。


「え、えっと、そのぉ…。」


焦りと不安が入り混じった表情を浮かべながら、私は何とか言葉を繋げようと試みているけれども、救いを求める視線は未だにまーちゃんの姿を見つけられずにいた。


私の中には妙妙相手に勝利を手にするという自信が全く感じられず、それに代わる選択肢として妙妙と手を組む事を考える。

でも、その妙妙に対する不安と疑念もまた強く、思い迷ってしまう。


急に妙妙が私に向かって歩み寄り始めた。

一歩一歩は羽根のように軽やかな筈なのに、ゴリゴリと私の心を重く押し潰すようだった。

それは彼女がこれ以上の待ち時間に堪えられないという思いが滲み出ているせいかもしれない。


妙妙は私の目の前で立ち止まると見下ろした。

その表情は笑顔でも無く、怒り顔でも無い、虚無の顔。


それでも彼女の血に染まった金色の瞳には怯え震える私が映し出されていた。


「馬鹿じゃないの、お前みたいな最低女なんか仲間にする訳ないじゃん。」


彼女は冷めきった声でそう告げると、右手に拳を作り、高く振り上げる。


途端、私は焦りと恐怖に襲われた。

またしても謎の記憶が私の意識を覆い尽くしていく。

チカチカと点滅しながら現れるのは大きな身体、ゴツゴツとした手、赤茶色くてボサボサな髪、鋭い目つきで何度も私を殴り、怒鳴り、全てを滅茶苦茶にした兄と思しき男の姿。


嫌だッ、怖いッ、嫌だッ、嫌だ!!


「た、助けて、まーちゃん…ッ!」


恐怖と絶望で縮こまってしまった喉を絞り出して親友の名前を呼んだ。


ジワジワと涙が溢れ、零れ落ちる。

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