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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑩

私が迷っている中、まーちゃんと妙妙ちゃんが静寂を打ち破るかのように駆け寄り合った。


先に手、ではなく足を出したのは妙妙ちゃん。

彼女は一瞬、身体を大地に根ざすような姿勢で静止し、次の瞬間、ふわりと空へと舞い上がる。

淡く赤い炎の提灯を背にして翼のような紅い髪を揺らしながら舞うその姿は、正に燃え盛る火の鳥のようだった。


そして、ピンク色の長い右脚を高く掲げたと思った瞬間、まーちゃんに向かって鋭い角度の飛び蹴りが放たれた。

足先までピンと伸ばしたまま真っ直ぐに急降下するその姿は、まるで鷹が獲物を捕らえるかのような優雅さと力強さを兼ね備えていた。


まーちゃんも、妙妙ちゃんが仕掛けた飛び蹴りに怯む事無く、当たる直前に体を仰け反らせ、その攻撃をかわした。

妙妙ちゃんに負けないぐらい、優雅にしなやかに。


妙妙ちゃんが着地した直後、ブワッと砂埃が舞い上がった。

それと同時に強い熱風が彼女を中心に巻き起こる。


「わぁッ!?」


私は物凄い風圧に耐えられず、その場でしゃがみ込んでしまった。


妙妙ちゃんの選挙会場だからか彼女の蹴りが入った石畳はビクともしてないけど、もし人に当たればタダでは済まなかったのかもしれない。


良かったぁ。

まーちゃんが避けられた事にホッとした。


今度はまーちゃんが自分の両手を握って高く掲げると、低い姿勢になった妙妙ちゃんの頭上目がけて一気に振り下ろす。


でも妙妙ちゃんは想定済みなのか低い姿勢のまま瞬時に後方へと跳ぶように身をかわし、クルリと身体を回転してはそのままの勢いで回し蹴りを繰り出した。


まーちゃんはその攻撃を避けず、代わりに右手を肩まで挙げて構えては掌の付け根を突き出す掌底を放ち、パァンッと音と共に妙妙ちゃんの蹴りを振り払った。


そして互いに拳や蹴りを繰り出してはかわしていく撃ち合いが始まった。


手足での激しい攻防が休む間も無く続き、次第に巻き上がる砂埃はその動きを追いかけて渦を作っていく。


中央で友達が相手と激しくぶつかり合う音が響く中、私は熱い視線で見つめていた。


2人は技の応酬の中で真剣ながらも笑みを浮かべ、互いの強さを認め合いつつも1歩も引かぬ意志で戦っているように見えた。


私の心臓は激しく鼓動した。


独特でありながら幻想的で豪華な庭の中、親友と友達候補の2人が蹴りや拳技を駆使して息もつかせぬ戦いを繰り広げた。

瞬きする間も無く、鋭くも華麗な身のこなしと的確な攻防が繰り広げられ、私はその激しい戦いに息を呑んで見入っていた。


紅と赤、2色の光が不規則に絡まり攻め合う中、傍観者としての私はその激しい戦いに息を飲む。


まーちゃんと妙妙ちゃん、力は互角。

現実と幻想が交わる場所で繰り広げられる戦い。

それはただの戦いではなく、魂と魂がぶつかり合う壮絶な闘いだった。


その瞬間、私はただ観客としてではなく、まーちゃんの戦いに共鳴する仲間として役に立ちたいと心の底から感じるようになっていた。


「まぁぁああちゃぁあんッ、頑張ってェェエエ工!!!」


激しい戦いの中、私は親友を励ますために力強く声を上げた。

その声に応えるように私の両手は胸元まで上がってパチンパチンとテンポの早い手拍子を始めた。


私の声と手拍子は疲れ知らずのように響き渡る。

それは親友のまーちゃんを応援する為でもあるけど、私自身に渦巻く不安に立ち向かう為でもあった。

まーちゃんへの信頼と希望を胸に抱きながら、私は戦場での彼女への応援を更に強めていった。


私の声と拍手が鳴り響く中、きらびやかな戦場では瞬間的な攻防が続く。

親友のまーちゃんが目にも止まらぬような速攻を仕掛け、相手の妙妙ちゃんは巧みな回避と闘志に燃えた拳や蹴りで応戦する。


繰り広げられる技の応酬は、まるで息がピッタリ合ったダンスのような美しさと危険な興奮が同居する空間を作り上げていた。


「まーちゃん、そこだ!頑張って!やり返して!」


少女達のか細い手と手がぶつかり合う音が中庭に響く中、私は2人が行っている心理戦にも巻き込まれた感覚に陥っていた。

相手の動きを読み、その瞬間を逃さぬように自らのテクニックを駆使していく戦いの中で相手の意図を察知し、反撃に転じる駆け引きがまるで精密なチェスのようだった。


焦燥感と共に彼女への深い友情が私の中で燃え上がり、その力が私を奮い立たせる。


「そこダッ!いけッ!やっちゃえぃッ!!」


私はひたすら応援の声を送り続けた。

無力で戦えなくても、親友である私が応援する事でまーちゃんの力になると信じながら。


「実は私、元はフラミンゴ座なのよ!」


唐突に大声で告げる妙妙ちゃん。

と同時に、まーちゃんの右手を両手で掴むと、トンと軽く跳ねて宙で右側へ身体ごと回転を始めた。

まーちゃんは手首を捻られると咄嗟に判断したのか、妙妙ちゃんに合わせて跳んで身体を左回転させた。


グルリグルリと2人が同時に回転して着地すると、まーちゃんが妙妙ちゃんから逃れるように両手を引っ込め、素早くもクルリクルリと軽やかで天まで届きそうなバク転をしながら距離を取る。


あぁ、勿体無いッ!

私だったら離れずにそのまま相手を地面に叩き付けるのにぃッ!!


真剣に戦っていると分かっていても、物凄く悔しくて、つい友人に対して心の中で野次を飛ばしてしまった。


まーちゃんが反撃しなかったせいで無傷な妙妙ちゃんは空かさず自分から離れていくまーちゃんを走って追い掛ける。


「鶴座に選挙で落選したけど、鳳凰座として蘇った!」


再び彼女が叫んでいる内にまーちゃんとの距離が縮まっていくとタンッと左足は後ろへ蹴り出し、右足は前へ突き出して地面を滑るような飛び蹴りを始めた。

それは低空飛行で突き進むツバメのようで、それは筋力があるのに身体がとても軽い妙妙ちゃんだからこそ出来る技だった。


まーちゃんは滑空と共にやって来た蹴りを見て瞬時に左側転に切り替えてかわして着地し、同時に着地した妙妙ちゃんに向かって右手拳で殴りかかる。


そしてまた殴っては避けて、蹴っては避けてを繰り返し始めた。


まーちゃんと妙妙ちゃん、一体どっちが勝つのだろう?


でも、そんな事よりも…


「どうして生き返ったって分かるの?!」


まーちゃんの代わりに私が大声で尋ねた。


フラミンゴ座が鳳凰座になる意味がよく分からないけど、蘇ったという言葉が気になって仕方が無かった。

彼女もまーちゃんと同じく、何度も生き返るのだろうか?


私の声がちゃんと届いたのか、妙妙ちゃんは巧みな身のこなしでまーちゃんの攻撃をスルリスルリと避けながら私に視線を向け、自慢げに口角を上げた。


「何故なら私は転入生だから…よッ!」


彼女は声高らかに答えた後、軽々と跳ねると上体を右に捻らせ、そのまま柔軟に左脚を曲げ、再び飛び蹴りを仕掛けていく。

その力強い蹴りが空気を裂いていく。


まーちゃんは相手の猛烈な蹴りに立ち向かおうと同じく右手を突き出す掌底を放った。

が、相手の蹴りの方が勝ったのか、まーちゃんの右手が弾かれた。


パリィィンッ!!


弾かれた瞬間、ガラスが砕け散るような音と共に微細な粉が舞い上がり、やがて形を変えて紅く光る蝶々が一斉に舞い上がった。

その煌めく美しさに紛れてまーちゃんの右手は無慈悲にも砕け散り、紅い花びらのような破片が紅く光る蝶々となって紅い提灯の空に舞い散っていく。


まーちゃんの腕までもが光となって砕けゆくその光景は非現実的で時間が止まるかのように感じられる。


それに、この前みたいに流れる血では無くいつもの紅い蝶々なのに、とても恐ろしく感じる。


何故なら、いつも穏やかな顔をしている筈のまーちゃんの眉と口が驚きと苦痛に歪んだ形に変わったから。


一瞬だけど大きく開かれた紅く深い双眼が私の目に焼き付いた。

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