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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑨

「酷い人ね。こうなった以上どちらかが生き残るまで戦わなくちゃいけない事、貴方は知っているんでしょ?」


聞き慣れた声を発する紅い蝶々はクルクルと旋回しながら1カ所に集まると次第に個々の輪郭を失っては紅い光を増し、ひとりの少女の輪郭を浮かび上がる。

そして、紅く輝く星の粒子を散らせながら徐々に人の姿や色に変わっていく。


キラキラと星の砂が吹き飛ばされるようにして現れたのは桃色の肌と桜色の唇、ふんわりと閉じられた穏やかな目蓋、紅い天の川がサラサラと描き出したのは黒くて長い艷やかな髪。

紅い光に染まったスカートを揺らめかせながら降り立つその姿はとても神秘的で、まるで夕空を舞う天女のようだった。


「まーちゃん!」


私は親友の名前を呼んだ。


名前を呼び終わった時には紅い輝きは全部消え去り、いつものまーちゃんに戻っていた。


まーちゃんは両目を閉じたまま私に向かって微笑んだ後、ゆっくりとした足取りで近付いては左手で私の右手をそっと握ってくれた。

冷たかった私の右手が温かくなるのを感じると少し安心した。


そして、まーちゃんは回れ右をして遠く離れた場所に立っている妙妙ちゃんの方へ顔を向ける。


「あらっ、貴女はもしかして…!」


妙妙ちゃんは警戒の姿勢を崩さないのに、とても嬉しそうな表情と明るい抑揚で話し掛ける。


「私はヒキちゃんの親友よ。」


まーちゃんが淡々とした口調でそう答えると、妙妙ちゃんは構えを解いてからキラッキラな両目を大きく開いて口角を上げた。


「ふぅん、貴女が…、やっぱり特待星って良いわね!」


妙妙ちゃんの曇り無い目と声には、私とまーちゃんの友情に対して心から羨ましがっているように見えた。


でも、まーちゃんの横顔が明らかに険しくなった。

それはさっきまで居た中庭で私に見せた不快そうな表情に似ている。


私はそんな顔のまーちゃんを見るのが辛くなり、視線を妙妙ちゃんの方に移した。


「貴方、今は女の子でも、選挙が終われば男の子に戻るなんて余計に質が悪いわ。」


まーちゃんの声には嫌悪と軽蔑が交じり合い、まるでトゲトゲとした氷のように冷たかった。


「何よりも、ヒキちゃんを騙して泣かせるなんて、この私が許さない、生かしておけないわ。」


妙妙ちゃんはその言葉に込められたまーちゃんの敵意を感じ取ったのか、微笑みを浮かべながらも段々と眉を下げていった。


「成る程ね、君達は何か勘違いしてるみたいだし、とんでもなく厄介な先客が居たのは残念だわ。」


まるで桃のように柔らかそうな頬を膨らませながらションボリと肩をすくませる妙妙ちゃん。

気のせいかもしれないけど、頭のてっぺんにある大きな赤い羽根が元気を失くした花のように垂れ下がっていた。


「やっぱり優等星達の言う通り、桜丘さんを1日でも早く落選させた方が良さそうね。」


妙妙ちゃんはそう呟いた後、先程まーちゃんに警戒していた時と同じ構えを取ると、前に突き出している右手の拳を開いて私達に向かってクイクイッと手招きを始めた。


それは戦いに挑む意志を示す為の手招きだった。

私か妙妙、どちらが生徒会長になるのか決める為の戦いを。


「さぁ、どちらからでもかかって来なさい!」


妙妙のハキハキと明るくも挑発的な声は、場の空気を緊張させた。


私はその言葉に胸がざわつくのを感じた。

だって、また戦う事になるのだから。


「まーちゃん、今回は私が…」


つい言いかけたが、言葉は喉元で詰まって最後まで言えなかった。


まーちゃんは親友であり、心から大切な存在。

そんな彼女を前回と前々回の選挙で失いかけた。


そんなの絶対に嫌!

まーちゃんを失いたくない、嫌だ!


でも、私が戦いに出るのも嫌だ、怖い!


出来るならば、この戦いを避けたい。

他に良い方法はないのだろうか、戦わなくて済む方法が。


頑張って考えても良い案が思い浮かばない。

それどころか、頭の中がポッカリと穴が空いているのかっていうぐらい、何も考える事が出来ない。


どうしよう、どうしたら良いの!?


焦れば焦る程、何も考えられなくなる。

そんな自分が情けなくて目頭が熱くなる。


「ヒキちゃん、無理はしなくて良いのよ。」


ふと、まーちゃんの優しい声が、そっと私の涙を拭ってくれる。

その言葉は私の心情を理解してくれているようだった。


戦わなくても良いと言われて、ホッと胸の荷が降りる。

自分が戦わずに済んで、安堵の溜め息が溢れそうになる。


そうだよ、今までだって何度も危ない目に遭っても無事に、平気な顔して戻って来たんだもの、今回も大丈夫。


「うん、気を付けて、まーちゃん。」


私は小さく頷き、まーちゃんの背中を送り出す。

彼女は穏やかながらも決意に満ちた表情で戦場に向かう。


遙か遠くから風がそよそよと吹き、炎のような提灯達が静かに揺れる。

ゆらゆらと照らされながら、まーちゃんの姿が次第に小さくなっていく。


お願い、無事に帰って来て!


私は心の中で親友に祈りを捧げた。


「やっぱり幻子ちゃんが戦うのね。」


真剣な顔付きで歩み寄るまーちゃんに対して、妙妙はただただ嬉しそうだった。


一方は目に宿る鋭い光で満たされ、もう一方は冷徹な眼差しで相手を見据えていた。

戦いの瞬間が迫り来る中、異なる表情をした2人の闘志が空気を強く圧迫していた。


少し遠くに立ってただ見ている私も、2人の間に漂うとてつもない緊張感をビリビリと感じて鳥肌が立った。


思えば、今まで相手から一方的に攻撃を仕掛けられてばかりで、こうやってお互い正々堂々とした勝負を始めるのは初めてかもしれない。


いつもだったら恐怖でパニックになって何も考えられなかったけど、今回は少し余裕が出来たお陰で相手の様子をじっくりと見る事も出来る。


やっぱり何度も見ても彼女は男の子だった宮生さんと同じ人物だとは信じられないぐらい見た目がかけ離れている。

だから皆から虐められ、彼女自身もかけ離れた自分の姿に悩み、苦しんでいる。


妙妙ちゃんは他の生徒達と違って、話し合えば分かり合えるかもしれない。

彼女と協力して、生徒会長になって、虐めの無い世界に出来たのかもしれない。


でも、まーちゃんが敵だと認識しているのなら、きっと彼女は私を騙しているのかもしれない。


でも、本当に?

本当にまーちゃんを信じても大丈夫なの?


中庭でやり取りした時のまーちゃんが頭の中に浮かぶ。

私が記憶に無い事を隠したまーちゃん。

ピンチな時に遭っても見せなかった焦りや後悔の顔を、何気無い会話で見せ、何故なのかも教えてくれない。


それに、私と協力しようと話し掛けた妙妙ちゃんを一方的に断ったのは私ではなく、まーちゃんだった。


まーちゃんも私を騙している?

でも、何の為に?

いつも命懸けで私を助けているのに?


わからない。


私は、どっちの味方をすれば良いんだろう?


「という訳で私、鳳凰座の劣等星である妙妙ちゃんはセイトカイ選挙に立候補します。」


可憐ながらも力強く堂々と宣言する妙妙。


「私はアンドロメダ座の優等星、蝶想幻子(ちょうそうまぼろし)、私もセイトカイ選挙に立候補します。」


重々しく宣言するまーちゃん。


煌びやかな提灯の光が深淵なる闇に広がる中、彼女達の意気込みを一層引き立てていた。


戦いが始まった。


私は、どっちを応援すれば良いのだろう?

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