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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑧

そうか、選挙が始まっちゃったんだ。


おぼろげながらも赤い景色を前に胸の中に秘めた感情はまるで洪水のように私に襲って来て、思わず目から溢れてしまった。


せっかく晴れてた視界がどんどん曇ってきたから右腕を上げて制服の袖で涙をそっと拭きながら、何度も深呼吸を繰り返す。


溢れて流れる涙がようやく止まり、恐る恐る顔を上げた。


そして、見た事無い光景に目を見開く。


真っ赤な光の正体は、空を覆い尽くすぐらいに沢山浮かんだ赤い提灯だった。

私の頭よりも大きな丸々としたタマネギみたいな形をした提灯の表面には、葉っぱのような魚の鱗のような不思議な模様をした鮮やかな金で飾られ、下から根っこを表しているみたいに長い金色の飾り房(タッセル)が垂れている。


その提灯の中から炎のように光が発せられているお陰で、空は夜みたいに真っ黒なのに、数多くの赤い光がそよ風に揺れて幻想的な光景を描き出し、とても明るい。


赤い光に照らされているこの場所は、学校の中庭と違って見渡せる程の小さな広場だけど、焼却炉しかない寂しい中庭とは正反対できらびやかだった。


周りをぐるっと囲っているのは等間隔に建てられた沢山の細長い紅い柱。

その柱も外の鳥居と違って所々に不思議な模様を描いた金箔が施されていた。

でも何故か、どの柱も屋根を吹き飛ばされた後かのように折れていたり先が欠けたりしている。


それでも、このとても独特な風景はまるで絵本で見た古い宮殿のような威厳を醸し出していた。


提灯の赤い光が柱に反射して金箔がキラキラと輝いて、その美しさと壮大さに圧倒されそう。

豪華絢爛とは正にこの事なのかもしれない。


細かな白い石畳が敷かれた広場の中央には、周りを囲う柱や提灯にも負けないぐらいの真っ赤な女の子が仁王立ちしてこちらを真っ直ぐ見ていた。


「私は鳳凰座の劣等星、妙妙(ミャオミャオ)!」


小鳥のような高らかな声が響き渡る。


妙妙と名乗った女の子はビックリするぐらい肌がピンク色で、ちょっと幼い顔の割に真っ赤な口紅に明るい色のマスカラや濃いアイシャドウメイクで大人っぽく華やかにしている。


パッチリな睫毛に囲まれているのは充血よりも鮮やかな紅い目に金色の瞳、ヒトとは異なる不気味さを感じさせない煌めきを放っていた。


髪は鮮やかな紅色で、毛質な鳥の羽のよう…では無く、羽毛を集めて編んだような不思議な髪はふわふわと軽やかに舞い、頭頂部には大きな1枚の羽根が刺さっているかのようだった。

そして、頭の左右の高い位置には白い布と紅いリボンの大きなお団子が付いてて、そこから足元まで続く長いツインテール状になった翼とも言える紅い羽根の束は、風に撫でられゆっくりと左右になびいていた。


服装も変わっていて、ふんわりと膝上まである長袖の白いフリルワンピースはとても可愛らしく、その上からエプロンみたいな形の紅い布を羽織った事によって優美さも引き立てている。

同じく紅い布のフラットシューズはシンプルながらも、細長い脚を持つ彼女の足元を可愛らしく飾っていた。


彼女の姿はとても異質だけど、この独特な服や景色と見事に調和していた。


でも、この女の子は誰なのだろう?

つい先程まで校庭に居て、そこで恐ろしい兄の前に会った人は確か…


「もしかして、宮王さん?」


驚きと戸惑いで私の声が震えていた。


自分で言っておきながら信じられなかった。

だって、目の前にいるのは私が知っている男の子ではなかったから。

髪は長く、服装はよく分からないけど女性らしい。

それだけではなく、顔も丸くて身体もほっそりと丸みを帯びていて、先程まで木彫りの熊みたいな姿の男性だったとは思えない。


「だから言ったでしょ、私は女だって。」


宮王さんだったと思われる妙妙という女の子が小鳥のさえずりにも似た高く可憐な声で私に呼び掛けて微笑んだ。


その微笑みは野獣のギラギラとした気味の悪さは感じられず、暗闇を知らない太陽のようなキラキラと輝く笑顔だった。


「別人みたい。」


私は彼女の変化に驚きを隠せずつい口に出してしまう。

自分でもその感想がどれほど露骨で失礼なものだったか分かってはいたけど、秘めた感情を抑えられなかった。


それに対して彼女は怒るどころか、それなら良かったとでも言わんばかりに微笑みを深めて元気良く頷いた。


「さぁ、これで大丈夫でしょう?」


宮王さん、…妙妙は右目を閉じてウインクしながら私に訊ねる。


彼女のウインクに撃ち抜かれたその瞬間、彼女が私に気を遣ってくれている事に気が付いた。

そして、先程までの恐怖が和らいでいくのを感じると共に嬉しい気持ちが胸の奥からじわじわと温かく広がっていく。


ふと、焼却炉で出会った彼だった彼女を思い出す。

あの時は彼が半袖だった事や所々女々しい仕草に疑問と気味悪さを感じていたが、今こうして落ち着いて見れば肯定的に物事を捉える事が出来る。


この子も学校でいじめられているだろうに、私に気を遣ってくれるなんて優しい子だなぁ。

まだ選挙についてよく分からないけど、妙妙ちゃんと一緒だったら、この学校をより良くする事が出来るかもしれない。


「う、うん…。」


私はまだ宮生さんの変わりようについていけていないが、少しずつ受け入れようと妙妙ちゃんに歩み寄る。


まーちゃんと違って肝心な時に居なくなったりはしない彼女となら、何とかなるのかもしれない。


手を伸ばせば届きそうな距離まで近付いたその時、頭上の提灯と提灯の隙間から紅く光る無数の蝶々がヒュンヒュンと物凄い速さで私と妙妙ちゃんの間に割って入って来た。


妙妙ちゃんは不意に目の前に現れた紅い蝶々の群れに驚いたのか一瞬両目を細めた後、軽やかに大きく後ろへ跳び退いて静かに着地した。

その距離はたった1回のジャンプでおよそ10メートル。


そして周りの柱1本分にまで集まって小さな竜巻みたいに飛び回る紅い蝶々の群れに対して、妙妙ちゃんは体重を均等に分けて地に足を着けるように細長い足を肩幅まで開き、右手は胸の前で掌を突き出し、もう一方は脇の位置で拳を握り締めて構えていた。

蝶の群れを睨むその目は鷹のように鋭く、警戒心と緊張感がこちらにも伝わって来る。


対して私は目の前に輝く紅い蝶々に驚かなかった。

だってこの蝶々の正体を知っていたのだから。

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