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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
鳳凰座の転入星

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鳳凰座の転入星⑥

再びまーちゃんとゴミ箱を抱えて横向きに歩き続き、ようやくゴミ捨て場に到着した。


保健室から見えた通り、コの字の灰色コンクリートの壁には他の生徒達が捨てたゴミもあり、いくつかのゴミ袋やガラクタや食べ残しが分別されず無造作に積まれていた。


その右隣には大きな焼却炉が3つ仲良く並んでいた。

その姿はまるで巨大なレンガで築かれた円塔のようなひときわ特異な形だった。

所々黒ずんでいるけど鮮やかな赤褐色のレンガが重ねられて頑丈そうで、金属で出来た大きな扉が付いていた。

頂上には鋭く尖った円錐形の黒い金属の煙突がそびえ、3本の煙突から真っ黒な煙がモクモクと立ち上っている。


沢山あるゴミは、この薪ストーブみたいな3つの焼却炉でまとめて全部燃やしちゃうから、分別する必要は無い、凄く便利!


私とまーちゃんはゴミ捨て場に足を踏み入れる。

左側から色んな物が混ざった生臭い空気と、前から色んな物を燃やしている焦げた臭いが押し寄せて来て、鼻がもげそう。


あまりの悪臭に自分でも分かるぐらいグシャグシャに顔が引き攣っているのに対して、まーちゃんは相変わらず涼しそうな顔をしていた。


「「それじゃ、せぇのっ!」」


私とまーちゃんは、ゴミの山の真ん中からゴミ箱をひっくり返した。


奥側へ傾けたゴミの中からプラスチック容器、紙くず、食べ残し等ががバラバラと勢い良く飛び出て、あっという間にゴミの山の一部となった。


何も出て来なくなって軽くなったゴミ箱を逆さのまま上下に振って中身がなくった事を確かめると、ゆっくりと向きを戻して一旦その場に置く事にした。


「やったぁ!」


嬉しさが込み上げてきて、私はまーちゃんに向かって右手を挙げてた。

まーちゃんは口角を上げて微笑むと右手を差し出し、その手でハイタッチを交わした。


パチンッと鳴ったその瞬間、何だかとても幸せな気持ちが広がっていった。

手の平同士が触れ合った瞬間、達成感や友情が手を通じて伝わったような気がしたから。


そう温かい気持ちになっていたけど、突然、ピューッと冷たい風が吹いてきて現実に戻された。


「それにしても、寒ぅ〜い!」


三つ編みが揺れるぐらい強く凍える風は肌を刺すように感じられ、吐く息は白く立ちこめていく。

全身が寒さに対抗するかのように皮膚はブワッと鳥肌が立ち、筋肉はブルブルと震え始め、背中はぐっと身をすくめる。


同時に、お腹からグゥッと低く鳴る音が聞こえてきた。


「寒いし、お腹も空いてカナピーマン。」


思わず弱音を吐く。


何もかもが寒さに包まれている中で、私の胃だけが熱望と共に活動しているようだった。

でも、いつまで保つか分からない。


「ヒキちゃん、そんな寒い日はコレが良いわ。」


まーちゃんは微笑みながらいつの間に隠し持っていたのか背中から茶色く小さな紙袋を差し出してくれた。


最初から分かっていたのかな…?


ちょっとビックリして戸惑ったけど、両手を受け皿にしてその紙袋を受け取った。

手の平に少しザラリとした紙袋越しから伝わるずっしり感、中に入っている何か特別なものを予感させる。


「わぁ、あったかぁ〜い!!」


袋の中から広がる暖かさは、まるで小さな太陽のよう。

心地良い温もりが、私の手を包み込む。


紙袋を胸元に寄せ、その温もりを感じながら右手を使って袋を開ける。


少しずつ袋の口を開けた瞬間、温かい蒸気と共にお肉の脂と玉ねぎと食パンの白い所に近い香ばしくも甘い香りが鼻をくすぐる。


中を覗くと、白に近い淡いクリーム色の丸い物体が1個。

それはまるで白い花の蕾のようだった。

ふっくらとした形状で盛り上がっているけど、頭頂部は少し窪んでいて、その頭頂部を中心に渦巻き状に溝が出来ていた。

蒸し上げられた白い皮は、触らなくても見ているだけで柔らかさが伝わってくる。


「わぁ、肉まんだぁ!」


私は右手を紙袋の中に突っ込み、ふんわりと蒸し上げられた肉まんを取り出す。


皮の表面には蒸される事で出来る蒸気がほんのりと立ちこめており、触れる指先には温かさと湿り気を感じる


少し太陽にかざすと、透き通るような黄金色の肉汁が皮を通して微かに透けて見える。


肉まんの温かく肉の旨味が凝縮された甘辛い香りが鼻をくすぐる。

胃袋は少し震えるように、食への欲望を示している。

ヨダレが溢れ出て来そう。


まーちゃんに確認を取る時間も我慢出来ず、ガブリと大きく噛みしめる。

前歯が深く深くのめり込んだ途端、ボフッと熱々な蒸気と小麦とイースト菌の芳しい香りが口の中で広がる。


もちもち、ふかふか、ふんわりとした程良い弾力のある生地からは、パン生地独特の優しい甘みを感じる。


と思っていたら、そこから溢れ出るジューシーな肉汁!!


熱々で肉の脂が濃厚な汁を零さないよう、慌ててもう1口、2口へと食べ進める。


ふかふかな皮の中には、熱々の具材がぎっしりと詰められていた。


具は粗挽きの豚ミンチ、大きめの角切りタケノコ、細かく刻まれた玉葱やキャベツ等といった野菜が絶妙なバランスで混ざっている。


更に鶏ガラや酸味のある独特な調味料使われていて、その絶妙な味わいが肉と野菜の味を引き締め、より一層の美味しさを引き立てていた。


意外にもひとつひとつの食材にしっかりと噛み応えがあり、食べる度に心地良い充実感を生み出していた。


濃厚で温かくて優しい肉まんの味わいに、寒さも忘れて食べる事に夢中になった。


肉汁と野菜の旨味がたっぷりのスープは、ほんのり甘くふかふかの生地に徐々に吸い込まれていく。

私はこの美味しい汁を吸って少しグテっとした皮の部分が1番好き!


最後は肉汁で少し黄金色にテカっていた皮の端を口の中に放り込む。


「美味しかったぁ〜!」


声に出して言う事で、その満足感をより一層実感した。

自分でも分かるぐらいの満ち足りた微笑みが顔に浮かぶ。


その美味しさに心が満たされると同時に、何処か遠い昔の思い出が甦るような、懐かしい気持ちになっていた。


「それは良かった。」


ふふっ、と声に出してまーちゃんは微笑んでいた。

彼女の喜びと共感が宿っているように見える笑顔が、私の満足感を更に引き立てた。


「それにしても、何で皆は弱い者虐めをするんだろう?」


ふと私は呟いてしまった。

肉まんで心が満たされたお陰でちょっと気が緩んだのか、心の底に隠していた気持ちを、親友であるまーちゃんの目の前で言ってしまった。


そう思った直後、まーちゃんは眉を下げて心配そうに私の顔を覗き込む。

その表情は、一体何があったのかと問いただしているかのように。


しまった!

せっかく、まーちゃんが私を元気づけようと肉まんをくれたのに。

どうして直ぐに心配かけるような事を言っちゃうのだろう。


「こ、こんなにも美味しい食べ物が沢山あるのになぁ〜…、なんてねッ!」


私はなるべく心配をかけないように少し笑いながら無理矢理にでも言葉を締め括った。


すると、まーちゃんは私の言葉に小さく首を縦に振って、再び穏やかな笑みを浮かべた。


「私がついているから大丈夫よ、ヒキちゃん。」


まーちゃんの優しい声が、心の奥深くに響いた。

その言葉には安心感と信頼が込められているようで、私はホッとした。

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