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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
双子座の優等星

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双子座の優等星⑫

「*^^^* *** ^*** ** ^**^*  ^^*^^ ***^ ^*^** ** ***^ ^ **^** ** **^  ^^** ***^ ** ^* *^ *^*^^ *^*^*!」


彼は刀を両手で握り、連続した鈴の音で叫びながら大きく右肩へ振り上げると、左下へ思い切り斜めに振りかざした。


シャンデリアの灯りで蒼く煌めく鋼の刃は弧を描きながら、何も無い空気を斬る。


すると彼のマントと長い三つ編みが舞い上がり、一陣の風が吹き抜けたかと思うと、激しい衝撃波が刀から放たれた。


飛び出して来たその衝撃波は複数の風と交差し纏わせて更に大きくなり、切り裂く轟音と共に空気を乱していく。

周囲の空間を歪め、硬い床を剥がしては砕き進み、触れた物全てを吹き飛ばすような力を誇示しながらこちらに向かって走る。


咄嗟に私は飛び込むように右手側に身をかわす。

いつ攻撃が来てもある程度防げるよう身構えていたつもりだったが、驚く程の速さと破壊力のある風が襲って来るとは予想外だった。


「あァッ!!」


間一髪、直撃は避けられたが余波の勢いに身体が吹き飛ばされそうになり、バランスを崩して受け身が取れないまま右側面から床に激突して激しく右側へ転がった。


右肩から全身にかけて、鈍い痛みが走り、呻き声が漏れ出るが、寝てる暇は無い。

直ぐさま上体を右へ捻りながら起き上がる。


全身の痛みと、胃液が逆流し込み上げる吐き気と気持ち悪い酸味に堪えながら、必死に立った姿勢で彼の方へ視線を移す。


刀が当たった衝撃で彼の足元の床から真っ直ぐに大きく長い亀裂が入り、その裂け目の中から黒い渦巻きと砂粒の光が生じ、まるでブラックホールがそこに存在するかのような光景が広がっていた。


彼は次元も切り裂く能力もあるのだろうか!?


私のこめかみが激しく痙攣する。

アレに巻き込まれてはならない、本能がそう叫ぶ。


攻撃を避けられた彼は怒り狂った両目を見開いたまま、2発目の斬撃波を放とうと先程と同じように刀を高く振り上げる。


1歩後退る私の足は鉛のように重い。

たった1度の攻撃を回避しただけだが、裁判で精神と魔力を多く使った私にはもう1度攻撃を避けきれる力が残されていない。


「止めなさい!!」


心の中で緊張の糸が張り詰められる中、私は喉から静止を求める声を出し、無空間から三角旗を取り出しては両手で掴むと、柄を横にした状態で前に突き出すように構えて防御に徹する。


この旗で守りに徹する事が、如何に無謀な事だと分かっていても。


「貴方は誰かと勘違いをしています!目を醒ましなさい!!」


今度は腹の底から声を張り上げる。

確証は無いが、彼は誰かに、少女に幻覚をかけられている。


必死になって声をかければ正気に戻るのではないか。

そんな淡い期待を胸に言葉を続ける。


「私は天秤座の優等星ッ!!ジャンメヌエットぉっッ!!!」


普段ならば出さない程の大きく、金切り声で名乗る。

誰かから情けないと思われても構わない。

必死に訴えるように、全身の力を込めて叫んだ。


しかし、彼は刀から手を離さない。


もはや、ここまでか…。


私はこの短時間で幾つもの自分の死を体感した事で今の自分の存在を強く信じ、絶望に立ち向かう決意を胸に秘めていた。

それは彼のせいでもあり、彼のおかげでもある。


目的は不明だが、少なくとも彼は私を生かす為に、死のループから脱却させる為に私の前に現れたのだ。


しかし、私の声は、今の彼に届かない。

届かなくなってしまった。

遅過ぎたのだ。


もしも、もっと早く現実であると気付き、彼と心を通わせていれば、このような結末にならなかったのだろう。


再び恐怖と絶望が戻り、深い後悔に苛まれ、脈打つ鼓動が耳に響き、全身が凍りついたような感覚が広がる。


そうか、では、また来世で…。

次こそは…。


私は旗を握る手の力を強める。


しかし、彼が刀を振り上げてから空間を裂く風が吹いて来ない。

その代わりに、カタカタと乾いた音が小さく響く。


彼は刀を振り下ろそうと構えた姿勢のまま固まり、手首を小刻みに震わせながら必死に刀を押さえつけようとしていた。

手首だけではなく全身の筋肉が緊張し震え、眉間には皺が寄り、大きく見開いた双眼は左右に泳がせ、周りと額の目蓋には青筋が浮かび上がる。


彼の双眼は闇に飲み込まれ、何かに支配されたかのように光を失っているままだが、焦りと不安で揺れ動き、魂には迷いと混乱と自責の念が見て取れた。


そして先程まで封じられていた額の縦線が左右に開かれると、中から鮮やかな第三の目が再び現れ、鮮やかな金色に輝く。


心機一転(しんきいってん)信念堅固(しんねんけんご)不撓不屈(ふとうふくつ)…ッ!」


自ら発する光を浴びた口が小さく開くと、低く男性らしい苦悶の吐息と念仏のような言葉が反響しながら漏れ出る。


彼は私に向かって刀を振らぬよう、内なる戦いに身を投じていた。


私は彼から再び生きるチャンスを与えられた気がした。


逃げるならば今しかない!


彼の様子を見るに止めるのは不可能だと判断した私は、次の攻撃が繰り出される前に急いで階段を駆け上がる。

木製の階は私の足音に合わせてが激しく軋みながら揺れる。


身体中の痛みにより息が切れながらも階段を一歩一歩と登り切ると、黒革のソファと裁判長席に向かって走る。


が、私の目の前を疾風が横切る。


ベキベキッズシャアッッ!!


疾風と衝撃波が床を真っ二つに割り裂き、太く乾いた木が割れる轟音と共に漆塗りの木製の壇の床は膨張するように盛り上がると破裂した。


足元の壇までも吹き飛ばされ、私の身体は重力から解放されたかのように浮き上がる。

突然の浮遊に驚きと恐怖が胸を押し潰すような感覚に襲われる。


舞い散る木片や破壊された壇の破片が、私の周りを旋回しながら逃げ惑っているかのように見えた。


ふと、席が粉々に砕け散って舞い上がり、裁判官席の上に置いてあった衝撃板が私の目に飛び込んで来た。

嵐の中、木で出来た丸い板が空中で回転する様子は、まるで時間が止まったかのように、その瞬間が永遠に延びるかのように感じる。


私は空中に舞い上がる衝撃板を掴もうと右手を伸ばした。

指先が衝撃板の側面に触れた瞬間、吸い寄せられるかのように私の手の平に滑り込んだ。


衝撃板をしっかりと掴んだまま、左手で懐からガベルを取り出す。

必死の思いを込めて振り上げ、叩きつける。


カンッ、カンッ、カァンッッ!!


ガベルが衝撃板に触れる瞬間、その高らかな音が崩れゆく法廷中に響き渡る。


「これにて閉廷致します!」


私の宣言はまるで今までかけられていた魔法が解けていくように、一瞬にして全ての景色が無の白い空間へと変貌していく。


命のやり取りが交錯する法廷が消え、私自身も徐々に溶けて純粋な無の領域へと包まれていく。


抜本塞源(ばっぽんそくげん)、セバリゴノドミノぉっッ!!』


不意に男性の伝言が悲痛な叫び声となって私の耳に入って来た。


直後、景色だけでは無く音や香り、空気に触れる感覚、何もかもが静寂と清浄の無の白へと溶け込んでいくのだった。



◇◇

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