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セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
双子座の優等星

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双子座の優等星⑧

そう、彼の能力は恐らく、死や悪夢を創り上げ、映像化させる事。

ただ見せるだけなので一見すると通常の選挙には役に立たない能力だが、まるで本物みたいに創り上げられた映像は物的証拠として使える。

物的証拠があれば勝訴確定となる私の能力と、物的証拠を創り出せる彼の能力はもはや無敵と言って良い程、相性が良い。


が、しかし、精神的なダメージが大き過ぎる。

今私は自身が体験した事が無い悪夢の映像に驚きの声を上げずに見続けていたが、内心ではずっと恐怖の渦に巻き込まれていた。


自分と同じ見た目の人物が無惨な姿になって殺されているだけでも気分が悪くなるのに、その映像はまるで過去実際に受けてきたかのように生々しく、観ているだけでも確かな恐怖と絶望を感じている。

映像と連動して身体中を斬り付けられたかのような痛みを感じていた。

それはまるで時間が逆戻りし、過去の自分の、失われた記憶、失いたい記憶が甦るかのようだった。


いつからなのか、私の手に力が入って指先が微かに震えていた。

今回でもう3度目なのに、まだ恐怖に怯えているのか。

これが作られた映像だと分かっているのに。

私は両手を強く握り締めて制御し、必死に耐えて、冷静な態度を維持し続ける。

例え完全勝訴出来る裁判でも、今ここで心が折れて態度を乱してしまえば法廷から退場させられ、今観ていた架空の映像が現実のものとなってしまう。


悪夢の世界に映っていた、四肢を失い胴を開かれて涙と血で塗れている憐れな姿で命乞いをするジャンメヌエットが脳から離れない。


いいえ!

私は、私はあのセピア色の自分とは違う!!


心の奥底で闘志が燃え盛り、絶望や痛みの感情を押し殺す為に、握り締めている手の力を更に強めた。


私は、この町の正体を調べなければならない。

その為にも、選挙に残り続けなければならない。

私は揺るがぬ決意で負の感情を抑え込んだ。


「何よコレぇ、嘘でしょ!?」


「こんなの作り物でしょう!?」


案の定、双子は驚きと怒りの声を上げ、映像の中の光景を認めないと言わんばかりに騒ぎ出す。


すると、天井に顔を向けて映像を流していた青年は、姉妹の方にゆっくりと身体を転じた。


それと同時に額にある黄金に輝く第三の目から放たれるセピア色の光線が懐中電灯の光を当てるように双子の顔を照らした。

あまりの眩しさに双子は目を細めて、光から逃れるよう身を小さく縮めるような仕草を見せる。


そんな2人の様子に気にもせず、彼は右手の人差し指をゆっくりと上げると、双子の方に向けてビシッと振り下ろした。


「*^ ^*^** ** ^^*^^ ^^* !」


彼のコロコロしたオモチャのような声は法廷に響き渡る。


相変わらずよく分からない言葉だが、きっと「異議あり!」と言っているのだろう、言ってみたかったのだろう。

残念ながらそれは証人が弁護士や検事に言われる事であって、証人が言う台詞ではない。

そうだとは知らないのか、彼は口の両端を上げて誇らしげだった。


先程の映像の件が無ければ、少年みたいな心を持つ彼にツッコミのひとつやふたつ入れていただろう。

しかし、今の私は精神的な疲労が積み重なり、そんな余裕は無い。


「あ、ぁああァ…ッ!!」


「な、何なの、コレぇッ?!」


双子の苦痛と恐怖に呻く声が聞こえ、視線を移す。

彼女達は立ったまま顔を伏せ、両手で頭を抱えて全身を小刻みに震えていた。


もしかして、彼の額の目から放たれている光を浴びてしまったせいだろうか?

2人にも私が見せられた悪夢と似たような映像を見せたのだろうか?


次第に双子は共に両肩を上下させながら息を荒くし、両手で俯いたままの顔を覆うようにしては震えていた。

涙が手を伝い手首に着けてる金色のアンクレットの溝に溜まると溢れてポタポタと床に落ちていく。


彼女達はそれぞれ見せられる悪夢に押し潰されそうになりながらも、無理やり抑えようと必死に努力していた。

しかし、その痛みや苦しみは1人では耐えられず、彼女達はしがみつくように抱き合った。

双子の顔は哀しみに歪み、額には冷や汗が浮かび上がり、目からは大粒の涙が溢れ、頬を伝って流れ落ちていく。


一体どのような映像を見せられたのかは知らないが、抱き合っている双子からは恐怖と絶望が渦巻いているのが見て取れた。

彼女達は必死にしがみついて支え合いながら恐ろしい映像から逃れようとしていたが、その努力は限りなく無謀で虚しく思えた。


「お願い!これ以上はッ!!」


「何でもするから…ッ、お願い!」


とうとう彼女達はこちらに身体を向けて、嗚咽を漏らしながら震え声で命乞いを始める。

それぞれの胸の前で両手を合わせて指先を組んでいるその姿勢は、祈りにも似た懇願だった。


私は冷ややかな目で、苦しむ双子を見下ろした。

彼女達は己の快楽の為に必要以上に選挙を仕掛け、多くの星徒達を犠牲にしてきたくせに、いざ逆の立場となった映像を見せつけられるとあっさり心が折れて無様に命乞いするなんて実に滑稽だ。

やはり生かしておけない人物である。


ふと、ある事が心配になり、視線をずらした。

流石に彼の追い打ちはやり過ぎかと思ってしまったが、良かった、強制退場されていない。


とはいえ、早く決着を着けましょう。

迷う必要はありません。


「被告人、貴女方は無罪を主張しましたが、この裁判で明らかになった事実は、悪質で残虐な殺人罪に関与していることを示しています。」


机の上に広げられた羊毛紙に書かれた文章を淡々と読み上げる。

ここまでになると先程まであった手の震えは治まっていた。


「私は証拠の審理の結果、以下の判決を下します。」


判決を言い渡す前から被告人である双子の表情は絶望に変わっていたが、私は敢えて判決を言い渡す為にソファの手すりに手を掛け立ち上がる。


「判決、被告人を……絞首刑に処す!」


私の声は鋭く響き、法廷全体がその一言に包まれた。


その直後、双子はそれぞれの手首と足首に黒い鉄の枷が現れてはガチャリと鈍い音を立てながら拘束させる。

突然現れた重い枷により彼女達の細い上半身は前のめりに倒れかかるが、今度は天井からループ状の結び目がある麻縄(ハングマンズノット)が2本垂れ下がって来て、それぞれの首輪より上の位置にループ状の輪がかかり上半身を引っ張り上げる。


手足の自由を奪われ首を引っ張り上げられた双子は爪先立ちになりながらも肩を激しく上下させたり脚を前後に振ったりして必死に抵抗するが、冷たく重い鉄の枷はビクともせず、麻縄の輪は徐々に小さくなり無情にも彼女達の喉に食い込んでいく。


「ゔ、ゴホッ!」


「ゲホッ、ゲホッ!」


思わず嘔吐するように咳き込む双子。

大きく見開いた赤と青の目が私に向けられる。


「ヤダやだヤダぁァ!!こんな形で死にたくないよぉッ!!」


「こんなッ、こんな事してタダで済むと思ってるの!?」


先程まで映像に対して恐怖に絶望していた双子が、理性を失った金切り声を上げて反抗する。

身体は激しく震え、涙と汗が混じった顔を歪めていた。

彼女達の叫び声は法廷中に響き渡り、その声には恐怖と更なる絶望が滲み出ていた。


そんな双子の様子を高い所から眺めていた私は、なるべく声を聞かないように静かに深呼吸をし、落ち着くよう努めた。


心を無にして、冷静に、裁きを下さなければならない。


こいつ等に慈悲は無い。


私はガベルを振り下ろした。


「死刑、執行!」


カンッ!!


ガベルが机に打ち付けられる音が法廷内に響き渡った。


それを合図に双子の爪先が乗っている証言台が消え、足元は深淵の奈落へと変化した。


体重を支える足場が失くなった事により身体が宙ぶらりん状態になった途端、麻縄に加圧がかかると双子の首を締め付ける輪が更に小さくなり、ミシミシと音が響く。


「グェ…ッ!」


「ヴッ…!」


本格的に首を締め付けられた双子は苦悶の表情を浮かべた。


首にかかる圧力によって気道が圧迫され、より呼吸が困難になっていく。

彼女達は必死にもがき、鉄枷で固定された手足をバタつかせながら窒息の危機から逃れようとする。


縄が更に首を締め上げるに連れて、苦悶と絶望が顔に刻まれた。

健康的だった筈の顔は真っ青に変わり、狂喜に光っていた筈の目は充血し、誘惑的だった筈の唇からは舌を突き出し唾液を垂れ流すようになった。


それでも、この絶望的な状況の中で、ウリアとサリアは最後の力を振り絞り、死に抗おうとした。

一体何処にそんな力があるのか、普通の人ならば押す事も不可能な程の重い手枷を尋常では無い腕力で持ち上げ、首を締め付ける縄を解こうと手を伸ばす。

しかし、手足を拘束している枷は抵抗出来ないよう更に重みを増して彼女達の手を縄から離させ、麻縄は息の根を止めようと更に首を締め上げ、2人の苦悶はますます深まっていった。


絞められる苦痛が体全体に広がったのか身体が痙攣し始めたところで彼女達は最後の力を振り絞ってもう1度同じように抵抗したが、無慈悲な重力の力には逆らえなかった。


抵抗は時間と共に弱まっていった。

息苦しさが身体を襲い、もがく力も徐々に鈍くなっていく。


「サッ…リぁ…ッ!」


「ウ…ッリ…ァッ!」


双子は息が詰って青白くなった顔で互いを見つめ合い、途切れそうな程の掠れた声で互いの名を呼び合う。

それは死という運命から避けられない現実を受け入れなければならないのだと、互いに最期の別れと見送りを告げ合っているのだろう。


名前を呼び合ってから間もなく、双子は糸が切れた人形のように全身の力が抜け、そのまま動かなくなった。

涙で濡れた瞳にはお互いの姿が映っているが、徐々に生命の光が失われていくと共に濁っていく。

ウリアは右に、サリアは左に首を傾けたまま振り子のように揺られていたものの、彼女達は向かい合って見つめ合ったまま命の最後の瞬間を迎えたのだった。


彼女達が動かなくなって暫くすると、天井から長く伸びた縄の振り子も完全に静止し、法廷に再び静寂が戻った。

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