表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セラバモ 〜セバリゴノ・ドミノ〜  作者: ロソセ
双子座の優等星
18/66

双子座の優等星⑤

「ちょっとぉ、何よ此処ぉ!?」


「此処が、星徒界長の選挙会場…?」


一方、ウリアとサリアはここから見下ろせる位置にある証言台に移動させている。

私から見て右手側に青のサリア、左手側に赤のウリアが、私と向かい合った状態で立っている。

強制的に証言台に立たされた双子は右へ左へ全く同じ動きで辺りをぐるりと見渡した後、証言台から降りようとしたが見えない力で体を引っ張られて出られない事と、それぞれ自前の武器が失くなっている事に気付いて、困惑しつつも直ぐに状況を理解した。


「うわっ、強制裁判なんて汚ぁい!」


「大丈夫よウリア、この裁判は私達が勝ってみせる。」


不満な声を上げるウリアと勇気付けるサリア。

異なる事を言っても2人は全く同じ怒りと悔しい表情を浮かべ、2倍近く高い位置に座っている私の方へと顔を上げて睨み付ける。


悔しがるのも無理は無い。

私の選挙会場では法こそ全て。

判決が下るまでは私も原告人も被告人も武力や魔法攻撃が一切封じられる。

武器を使って星徒を斬り付ける事に生き甲斐を感じる彼女達にとってこの制約は非常に歯痒く屈辱的だろう。


正々堂々ではないと恨まれようが構わない。

私は私のやり方で選挙を行う、ただそれだけだ。

そうでもしないと生き残れないのだから。


私は右手で懐からガベルを取り出す。

その木槌(ガベル)には金の装飾に高潔な風格を感じさせる彫刻が施されていた。

そのガベルを机の隅に設置してある打撃板(サウンドブロック)に向かって、手首の力を利かせて打ち付けた。


カン、カンッ!


軽く振った筈の木槌と木の板が一瞬にして交差し、堅い衝撃音が法廷全体に響き渡った。

その音は機械的な音では無く、まるで正義の響きを伝えるように胸にも響くものであり、私の言葉に出来ない想いを告げるようだった。


「これより星徒界裁判を開廷致します。」


簡素ながらも厳かな法廷、選挙という生命のやり取りの中、私はどんな時でも厳粛かつ公正に事実と向き合い毅然とした態度を貫く決意を込めて堂々と宣言した。


「被告人、私は貴女達を殺人罪で起訴しており、その罪状を認めるかどうか尋ねます、告訴状には詳細が記載されています。」


私は光沢を放つ机の上に置かれてある、黄色味かかった羊毛紙で出来た告訴状を手に取ると、黒い筆墨で書いたような行書体の文字が浮かび上がったので、そのまま書かれた通りに読み上げる。


「被告人ウリアガトフとサリアガトフは、本日起訴されている殺人罪の容疑について、被害者ジャンメヌエット・ゲエシナメゴミを凶器で殺害したとされています。」


告訴状の内容が明らかにされると2人は理解出来ていないのか両目を見開き口をポカンとさせて固まり、法廷内に沈黙が流れたが、彼女達は直ぐに口元を尖らせ不満そうな表情を浮かべながら抗議を始めた。


「はぁ?ちょっと訳分かんないんですけど!?」


「殺害されたジャンメヌエットって、貴女の事ですよね?」


彼女達の声は更に高まり、困惑と苛立ちが混じった言葉が法廷に響き渡った。


「その通りです。原告者及び被害者であるジャンメヌエットとは、この私の事です。」


その反応は想定内だったので、淡々とサリアの質問に答えた。


「殺してもないし、生きてるじゃないの!」


「いくら法律を知らない私達でも、滅茶苦茶な事で訴えられている事ぐらい分かるわ!」


双子の声が先程よりも荒れ狂った。


彼女達が混乱するのは理解出来るが、もしあの時、私が直ぐに強制裁判を発動しなければ、私は彼女達に殺され今頃生きていないだろう。


私にはやらなければならない事が山程ある。

この裁判に勝訴し、幻想町の謎とまだ見ぬ未来を解明し、星徒達を守り救うために闘わなければならないのだ。

本来守るべき星徒達と選挙、つまり殺し合いはしたくなかったが、彼女達が望むならば仕方が無く、受けてしまった私が殺らなければならない。


私にはまだ選挙に落選するわけにはいかない。

心を無にして、冷静さを保ちながら、私は裁判官として刻一刻と進む法廷という舞台で自らの立場を守り抜なければならない。


そう、心を無にして、冷静さを保ちながら…。


「偉そうな所で座ってないでさっさと降りて来なさいよアバズレ!」


「正々堂々と戦いなさい、卑怯者!」


彼女達の怒りが更にヒートアップし、苦言が悪態に変わっていく。

法廷の中で感情的な言葉をぶつけられるのも想定内であり、裁判官である私は心を静め、物言いに影響されずに審理を進めなければならない。


そう、心を静め、物言いに影響されずに…。


「そんなのだから彼氏も友達も出来ないのよぉッ、カッパ!!」


「中身までヘルメットなクソババアねッ!!」


ガンッ、ガンッ、ガンッッ!!


法廷内に乱暴に響くガベルの音。

私の怒りの感情が抑え切れず、肩から大きく振り上げ強くガベルを打ち付けていた。


「静粛に!」


気にしていた事についての悪口を言われ続け危うく外に出そうな湧き上がる怒りの感情と言葉を押し殺す意味も込め、声を張り上げた。

それは、法廷の秩序を保つための合図でもある。


これを合図に双子の艷やかな唇をチャックで閉じるように強制的に閉じさせ、ピタッと黙らせた。

選挙会場である法廷が不適切な言動だと判断した為、能力が発動したのだ。


2人は驚きの表情で指を突っ込もうとしたり互いの口を両手で抉じ開けたりして口を開けようと努力していたが、びくともしなかった。

双子は諦め、への字になって発言出来ない代わりに私に殺意の目を向け、乱暴に拳を何度も振り上げ抗議の意を示す。


フンッ、良い気味だわ!


今まで彼女達の声に嫌気が差して我慢し続けていた分、ようやく静かになった事に私は厳格な表情を維持したまま、内心は清々しく悦んでいた。


だが、いつまでも黙らせて余韻に浸っていると裁判が進まない。

私はこの法廷のルール通りに手順を踏まなければならない。


「被告人、貴女達の主張は認識しました。しかし、この法廷では公平な審理が行われます。証拠や証言をもとに真実を明らかにする為、審理を進めていく事になります。」


私は厳粛な口調で裁判を続ける。


「被告人は被害者を殺害していないという証拠や証言はありますか?」


カンッ!


今度は手首すら動かさず握っている指を使ってガベルを軽く叩き、封印された双子の口を解除した。

パッと唇が開いて彼女達は同じタイミングで驚き、それから同じタイミングで安堵の溜め息を吐いた。


一生黙って欲しかったが、被告人にも証言を発言させる権利があるというルールなので仕方が無い。


「そんなの無いに決まってるじゃないの、アンタなんかと選挙したのは今回が初めてなんだからぁっ!」


「仮に他の星徒を被害者として訴えたとしても、今まで2対1で選挙しているのだから証人も居ないわ。」


2人は喋れるようになるやいなや早口で自分達にとって不利な供述をした後、サリアがそのまま反論する。


「だったら私達が貴女を殺したという証拠はありますか?」


「そうよ、有り得ない事だもの、証拠なんて無いんでしょ!?」


サリアの問い返しにウリアも激昂し頷きながら一緒になって追い打ちをかける。


「証拠はありません。」


彼女の問い返しに私は静かに答えた。


それを聞いてサリアとウリアは憤慨している様子だった。

ホラ見ろ、と言わんばかりに。


しかし、私は続けた。


「ですが、証人は居ます。」


一瞬、2人の目が見開かれた。

その後、ウリアは思わず不敵な笑みを浮かべ、サリアは眉を寄せて不信の表情を浮かべた。


「どうせ、その証人というのもジャンメヌエットなんでしょ?」


「裁判官、原告、被害者だけならまだしも、証人まで自分って何よ、滅茶苦茶だわ!」


2人は馬鹿馬鹿しいと吐き捨て、反論する。


「いいえ、証人は私ではありません。」


私の言葉に、サリアとウリアの表情が凍りついた。

いくら脳筋な彼女達でも気付いたのだろうか、瞳には驚きと戸惑いが交錯し、緊張感が漂った。

私以外の証人、つまり、第三者が現れるという事に。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] クールそうに見えてかなり性格が悪い(褒めてる)星徒会長好きです。 生意気なウリアとサリアが押されてきて焦り始めてるのもかわいいですね。 予測できない展開で続きが楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ