絞首台の主6
おぞましき怪物、窮奇。
太古の蕃神の祖、肉の巨人ヤルダバオートの末裔、窮奇はオーディンに組みつきました。
彼の血を吸い付くし命を、魂をも奪うために。
彼の5つの頭についた、10の黒々とした目玉が一斉に神々の主を凝視しました。
オーディンは負けじと怪物に挑みかかりました。
水飛沫を上げながら神と怪物は格闘を始めたのです。
「お前を殺してやるぞ、化け物め!」
オーディンは叫びました。
「お前達の下らない祖先と同じようにな! 騙して汚して傷つけてやるぞ!」
彼は尚も叫びます。
「盲目で白痴の嫌らしい汚らしい男妾の末裔め! 殺してやるぞ! その親と同じように、その祖父と同じように!」
祖先を侮辱された窮奇は怒り狂いました。
そしてその怒りに任せて化け物は、オーディンの左目にその鉤爪をめり込ませ宇宙の果てまで引き伸ばしたのです。
その瞬間、神々の祖は宇宙の全ての秘密を垣間見ました。
ほんの一瞬だけ、その瞬間に彼は多くの魔法の知恵をその記憶に焼き付けたのです。
オーディンは震える手で一本のハサミを取り出しました。
そして伸びた自身の左目の神経を切りました。
怪物は神の左目を握ったまま、宇宙の果ての更に果てへと飛ばされていきました。
ミーミルの部屋の隅で、オーディンは左の眼窩を血で満たしていました。
彼は起き上がると新たな知恵、確信を得たということに驚嘆し喜びを得ました。
彼は笑いが収まらず、血と涙を撒きながら踊り続けました。
その日はオーディンが心からの喜びを得た、初めての日だったのです。




