神々の罪
時が黄金の腕輪のように循環していた時代の、ある朝のことです。
アッラート、アル・ウッザー、そしてマナートの3人の姉妹は森の中の道を歩いていました。
運命の未子であるマナートは彼女の姉たちにこう言いました。
「私の瞳は未来を見通し、運命を定めることが出来る。しかし私は今日自らを運命の荒波に任せたい。不確かな領域に身を投じたい。」
長女であるアッラートは答えました。
「誰もあなたの考えを止めることは出来ない。行きなさい。瞳を閉じて。何も怖いことはない。あなたは強い。」
次女であるアル・ウッザーは言いました。
「アース神には用心しなさい。血と鉄と肉が好きなアース神。黄金と酒と女には目がないアース神には。あなたの好奇心があなたを殺すことのないように。」
そしてマナートは一人森を抜け開けた場所にやってきました。
彼女の顔は白く、黒い服に包まれたその姿は満月のようでした。
その美しさは松明が蛾を呼ぶように脅威を呼び寄せました。
たちまち力強い狩人が彼女を捉え、アース神たちのもとへと連れ去ったのです。
勇猛なアース神は女神を縛りつけ、代わるがわるやってくると彼女に乱暴を働きました。
加わらなかったのは旅に出ていたオーディンとトール、そしてすぐそばで足をぶらつかせ退屈そうにしていたローズルの3人だけでした。
アース神たちは嘘つきのローズルに言いました。
「お前もこちらに来て、我々の新しい楽しみに加わらないか。一人だけで座っていないで。」
「嫌ですよ。だって私の持ってるものは、皆さんのよりだいぶみすぼらしいですから。」
神々は爆発したように笑い、手を叩きました。
そして女神の身体をトネリコの木に吊るしました。
ちょうどその時、オーディンは外の世界から新しい知識を携えて帰ってきたのです。
彼はローズルに尋ねました。
「一体これはどういうことか説明してくれるかね? 運命を司るマナート神が、まるで罪人のようにひどい扱いを受けている。」
「はい、旦那。彼女が私達の領地に勝手に入ってきたのでね。頂いたんですよ。畑に入って来た隣んちのヤギやら羊やらをかすめ取るようにね。それはもう僕たちのものでしたから。でも僕自身は何にも加わっていません。僕の心だけは白いまんまです。」
「それでお前は何をしていたというのだい? ただ見ていることの他に?」
ローズルはそう言われると、気味の悪い黄色い眼を細めニヤニヤ笑いを始めました。
オーディンは自分の両方の手を合わせると考え込みました。
「彼女の姉たち、アッラートとアル・ウッザーに知られる前になんとかしなければならん。」
オーディンはそのシワだらけの手で、まだ息のあるマナート女神の身体を掴み取ると世界の最果てへ。
ニヴルヘイムの凍える領域へと投げ込みました。
「これでいいだろう。そして全てを忘れ、なかったことにしよう。」
オーディンはスッキリした気持ちで、まるで刈入れが終わった農民のように軽快に歩き始めました。
自らの城に続く道にぼんやりとした姿で二人が立っていました。
「ごきげんよう」
神々の王は声をかけました。
「私達の妹の行方が分かりません。」
と背の高い女は言いました。
オーディンははっと歩みを止めました。
「黒い服を来た白い顔の娘。どこにいるかご存知ではないですか?」
と緑の服を来た女は尋ねました。
「知りません。彼女の話を聞いたこともありません。」
オーディンは答えました。
「私は過去を司るアッラート、彼女が見つかりさえすれば元通りにしてあげます。彼女の行方をご存知でないですか?」
「知りません。彼女の話を聞いたこともありません。」
オーディンは答えました。
「私は現在を司るアル・ウッザー。今彼女は寒くて暗い場所で、死にそうになって凍えているのが分かります。彼女のことをご存知でないですか?」
「知りません。彼女のことを聞いたこともありません。」
オーディンは答えました。
偉大な女神アッラートは言いました。
「彼女はいなくなった。価値ある瞳、黒い運命。命は損なわれた。未来は不確かで見通しのつかないものとなった。運命は荒涼として、狼の吠える荒れ地となった。」
その日からオーディンはひたすら考えています。
果てしなく遠い未来のために恐ろしい計画を立てているのです。




