寄り道話・オーディンとバルドゥル
ちょっと本筋から脱線しますがオーディンとその息子、バルドゥルの話。
「陽の光というものは暖かで心地よく、しかし眼を射抜いて潰してしまうほどに強烈だ。」
「しかし木の葉一枚にも遮られてしまう。」
「怒り」その人は言いました。
「しかして暖かな心、思いやりや信頼、安心の気持ちはどうだろうか?」
「それらはどんなに固く凍りついた人の表情をも溶かしうるものだ。」
「そして立ち上るかまどの煙のように害はなく、しかもどんな壁にも邪魔されることはないものだ。そう、この世にある限りは!」
「怒り」すなわちつまづくものは叫びました。
「私の宝物、私の影よ! 私の手、私の脚、私の眼、お前の生まれた日は呪われてしまえ!」
つまづくもの、すなわち傲るものはそう叫びました。
「私はどれほど息子、バルドゥルに、愛情を注いだことか!いなくなって欲しくないと願ったことか!」
「安心とは素晴らしいものだ。それは昇る朝日の金色の輝き。沈む夕日の血色の輝き。」
「健やかさには病が、平和には棍棒と、弓矢の災いがあるものだ!」
傲るもの、すなわち叫ぶものは言いました。
「眼の前の光り輝く若人が、目を離せばいなくなるのではないかと私はどれほどの長い間、恐れおののいたことか。」
「その間私は眠ることはおろか、座ることも立つこともできず、苛立つ私の激情が、私自身を旅へと駆り立てた!」
激情の主、オーディンは叫びました。
「旅人が起こす焚き火を見ては、それがバルドゥルを焼き殺すのではと不安になった。」
「岩礁に砕け散る波間を見ては、それがバルドゥルをかっさらい溺れさすのではないかと恐れた。」
「私は神々にも人々にも獣達にも木にも草にも、一人ひとりの住処を訪れ、時間をかけて説得したのだ。バルドゥルを傷つけないでくれと。火にも水にも、石にも土にも、鍛冶屋と小人たちが知る7つの金属にも…医者になりたいと願うすべての者達が知る、ありとあらゆる毒物にも…」
「全てが終わったとき、一本の木が残された。それはトネリコの木に植わった一本のヤドリギだった。」
「それだけは、ヤドリギだけは見逃してしまった。それはまだ若く、ただの枝に見えたから。」
「バルドゥルに向き合うとすでに彼は若くなく、水でも火でも、どんな武器でも毒でも、彼を傷つけることはなかった。」
「それでも私は不安だった。カシの棍棒で彼を殴ると、彼は平気だった。」
「全然感じませんでしたよ。そう言った。」
「バルドゥルを害すると考えられたありとあらゆるものを投げたが、彼に傷一つつけることはなかった。その度ごとに私の心は安心の輝き、金色の光で満たされていったのだ。」
「最後にヤドリギの枝を投げると、彼は死んだ。何の値打ちもないもののように、地面に横たわって。」
高きもの、オーディンは叫びました。
「お前の生まれた日は呪われよ! そして私の激情は、永久に私を突き動かすがいい!」
「怒り」の主、オーディンは叫びました。