獣神トール9
獣神トールは獣共の群れにミョルニルを放り込みました。
あらん限りの神力を込めてです。
命中した巨人の悪党の頭は花が咲いたように開きました。
まるでキイチゴの実を押し潰したみたいです。
愚か者共はどよめきましたが自らを囃し立てないことには立っていられないほどだったので、再び凄まじい叫びをあげたかと思うと神がいる方へ突撃を仕掛けたのです。
神のハンマー、ミョルニルはひとりでにトール自身の手へと戻ってきます…彼がそれを振り回すと悪党どもの群れは小魚のようにキリキリ舞いしました。
トール神はそのうちの一人を長い腕で引っ掴んだかと思うと自分のすぐ横に立てました。
そしてまっすぐにげんこつを振り下ろしました。
悪党は腕も、足も、頭も見分けがつかないほどに潰されてパン生地みたいになりました。
「お前ら! 馬鹿みたいにやられてんじゃねぇ! 葉っぱを持ってこい! 親分のあの袋からだ!」
額に傷跡のある巨人がそう叫びました。
やがて若い巨人が、それは大きな葉っぱを持ってきました。
それを抱えるものの背丈より高かったのです。
彼がそれで仰ぐと、風でトール神は飛ばされて行きました。
見守っていたロスクヴァは短い悲鳴をあげました。
そして彼は背の高い樫の樹の枝にぶつかって止まりました。
樫は偉大なトールの重みに苦しみ、その熊のような巨体を跳ね返しました。
元いた場所へ跳ね飛ばされて戻ったのです。
「よう。」
トールは若い巨人に声をかけました。
悠然と近づくと彼をつまみ上げました。
甲高い悲鳴が響きました。
トールは真っ二つに引き裂いたその切れ端を脇に放り捨てました。
トールは雨の降りしきる森の中で、冷静にそして執拗に巨人達を殺戮しました。
激しい雷が連続して鳴り響きました。
いつしか暗い森に静寂が訪れました。
「もう安心だね!」
シアルヴィが言いました。
「息子よ。トール神に祈りと感謝を捧げなさい。」
と彼の父は言いました。
「人間、よく聞け。戦いというのはな、安心した瞬間が一番危険だ。」
とトールは深淵の暗がりを見て声をかけました。
「何でしょう!」
とロスクヴァは叫びました。
森の奥深くからそれは姿をあらわしました。
恐ろしい災厄、森の魔物が騒ぎを聞きつけてやってきたのです。
その青白い皮膚は石膏のように乾いてひび割れていました。
勇敢な神は進み出て魔物の頭にハンマーを振り下ろしました。
その頭は粉々に砕け、また元通りになりました。
砕けた跡から生えてきたのです。おまけにそれは2つに増えていました。
「クソったれ!」
とトールは罵りました。
「こういうのはもうたくさんだ!」
そしてキィキィいう声が聞こえてきました。
ひび割れた魔物の身体から、それは這い出して来ました。
それらは全て黄色い目を光らせたドブネズミ、ゴキブリ、虻や蝿の群れです。
神と3人の親子に襲いかかりました。
暗がりで生きる者共の黒い涙のうねりです。
「見てろ。」
シアルヴィは光るナイフを構え、脇に差した刀に手をやり前に出ました。
「俺には神の力がついた。俺は死んでも負けない。」
と言いました。




