獣神トール8
深淵の子は苦しみもがいていました。
不快な巨人の悪党が残していった魔法のマントは雷神の周りを取り囲み、身動きを取れなくしたのです。
勇敢なるトールはそうやってマントを1000回も突き、蹴り飛ばしました。
そしてとうとう神々のうちで最も強い神も、ヘトヘトにくたびれてしまったのです。
ふと灰色の幕の向こうから声がしました。
「巨人殺しさん! 今助けてあげる!」
「ロスクヴァか。お前の周りを良く注意して見ろ。危険がないかどうかをだ。」
とトールは闇の向こうへと返事をしました。
ロスクヴァは自分の髪から地味な飾りを引き抜くと灰色のマントへ突き刺しました。
獣神トールは地響きの様な唸り声を上げてそれを引き千切ったのです。
「俺は約束するぞ。」
とトールはロスクヴァに語りました。
「あの野郎どもを、まず一人目はこのミョルニルを投げつけて殺す。」
「二人目はこの拳で直接打ち殺してやる。パン生地みたいに薄っぺらくしてやるぞ。」
「3人目は両足をつまみ上げて、真っ二つに引き裂いてやる。俺はここに誓うぞ。」
「おや、俺の子分共は物事を聞き分けるおつむを持っていなかったらしいな。」
と背後の暗がりから声がしました。
あの兜を被った不愉快な巨人の頭目がいました。
「もう一度こわい魔法にかけてやろうかな、強くて立派なトール神よ。」
獣神トールは恐ろしい唸り声を上げて神のハンマーを投げつけました。
しかしそのハンマーは巨人の被り物に吸い寄せられるようにくっつき、彼を殺すことはなかったのです。
「神々も巨人共もくたばれ!」
とトールは悪態をつきました。
「今宵俺は凄まじいお宝を手に入れた。」
と巨人の頭目は兜にミョルニルをくっつけたままで言いました。
「これさえあれば俺達は怖いもん無しさ。アースガルドに神々が住めるのも今日までかもしれんぞ。」
青白い顎に不気味に笑みを浮かべながらこう言いました。
その時突然叫び声があがりました。
シアルヴィが素晴らしい速さで茂みから飛び出し、後ろから巨人に組み付いたのです。
巨人はバランスを失って倒れました。
奇妙な兜はゾッとする巨人の頭から外れて地面に落ちました。
ロスクヴァは兄と再開できたこと、それ以上にもう一つのことで歓声をあげました。
「父さん!」
魔法が解けて本来の姿があらわになっていました。
兄妹二人の父親がそこに倒れていました。
3人は手を取り合い再開を喜びました。
「金も名誉も手に入るよって、あの兜を押し付けられたんだよ。怪しげな占い師にね。それが今まで私を操っていた。すまなかった。」
と父は語りました。
「親父さん。」
とトールは声をかけました。
「家族同士で幸せを分かち合うのはいいもんだ。だが今は目を凝らして奥の方を見ちゃくれんか。」
数々の不格好な巨人たちの群れがじっと四人を睨んでいました。
しかし獣神が静かに地面に落ちた自分のハンマーを手に取るのを見ると一斉に駆け出したのです。
手に思い思いの武器を握りながら。
深淵にすら響き渡るときの声を上げて、トールは巨人共の軍団に立ち向かっていきました。




