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始まりの神話  作者: ロッドファーヴニル
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獣神トール6

トールが奇妙な格闘を繰り広げている頃、ロスクヴァは大きな恐怖と闘っていました。

巨人達が変装した野党共は彼女を連れ去りました。

兄、シアルヴィはいなくなっていました。

きっと一人では立ち向かいようがないので人を呼びに行ったのだと、彼女はそう思いました。


霧のような小雨が垂れ込む中、巨人共は木々の開けた広場に辿り着き、ロスクヴァを松の木にまるで棒切れのように立て掛けました。

寒さと恐怖とで固まっていたのです。


先程の一番大柄な巨人がその腐った木の実の断面の様な口を開きました。

「野郎ども、いいか。これから俺様はあの小僧を探してとっ捕まえに行くからな。獲物を追いかける狼みたいに、この鼻でな。」

雑草のような無精髭に覆われた鼻を指して言いました。

「お前らはその小娘とお話でもしてりゃいいさ。そう、色々とな。」

たちまち下品な笑い声が辺りに響き渡りました。


兜を被ったその巨人が行ってしまうと、他の巨人は好奇心を剥き出しにしてロスクヴァに迫りました。

「小娘、何か言ってみろ」

と額に傷跡のある巨人が言いました。

そう言ってロスクヴァの脇腹を突きました。

彼女はただ縮こまって身震いするばかりでした。

「耳聞こえないのか? そうなのか?」

と脇にいた痩せた巨人が言いました。

ロスクヴァはそちらを向きもせずただ曖昧に辺りを見回します。

「参ったな。こりゃどうも。」

と傷跡の巨人は額の傷跡に手を伸ばします。

「ほんとに聞こえないらしいぞ。」

「本当か?」

と痩せた巨人が言いました。

他の巨人が背後から忍び寄り、彼女の耳元でワッと大きな声で怒鳴りました。

彼女は平然としてただ不安そうにもじもじとしました。


「真っ白な歯の生え揃った仔羊みてぇな大事な子供にだったら、いくらでも身代金くらい払うだろうよ。」

と傷跡の巨人は言います。

「だがこいつは駄目だ。【編集済】の子じゃあかえって厄介払い出来たと喜ぶだけだろうぜ。」

「【編集済】だろうが奴隷として売っぱらえるだろう。」

と痩せた巨人。

「かえって知恵がつかねえだけ有難がられるかもしれねぇぜ。」

「せいぜいが銀貨20枚ってところだろう。こんな小娘一人じゃな。」

と傷跡の巨人は言いました。

「俺たちのちょっぴりだけ豪勢な飯一回分てのが関の山だ。」


ロスクヴァは巨人達の会話を全て、耳の聞こえないふりをして聞いていました。

視線を落としたり無関係な所に目をやったりしてやり過ごしました。

そのうち巨人達は誰が手柄を立てたか、誰が今日のことでより多く、分け前を受け取る権利があるかで口論を始めました。

一番若い巨人が傷跡の巨人に掴みかかって言いました。

「知ってるぞ。お前はいつも偉そうなことばかり言って、戦わずに隅っこでじっとしてばかりだったな!」

傷跡の巨人も反論します。

「口のききかたも分からねえなら、いいぜ。すぐそこにある親分の荷物を取ってきやがれ。姿を隠せる衣で身を包んで消え失せるんだな。俺に斧で肘から先をぶった斬られる前によ!」

巨人達は互いに指を差し合い、それぞれの欠点を指摘し合い、がなり立てました。

夢中になって他のことには目もくれない様子でした。


ロスクヴァは生まれ変わったかのように一瞬で、近くに投げ出された荷物袋に駆け寄りました。

そして中身を手当り次第に引っ張り出すと一枚の薄い衣を見つけました。

赤と見れば青く、青と見れば赤く、見れば見るほど不思議な衣でした。

彼女はそれを羽織りました。


「娘がいねぇ!」

痩せた巨人が叫びました。

愚か者共はようやく自分達が新しい仕事を急いでこなさなければならない事に気付きました。

ロスクヴァは長い裾が垂れるので手で持って、枯れ葉の絨毯に跡をつけないよう慎重に出来るだけ、来た道を思い出して引き返しました。

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