獣神トール4
巨人殺し(アンチサーズ)こと雷神トール、シアルヴィとロスクヴァ、メェメェ鳴く仔ヤギの一行は意気揚々と魔物の住む森へと続く小道を歩いていきます。
「お前ら、どうして俺についてくるのだ。」
とトールは兄妹二人に尋ねました。
「だってあなたは私達を守ってくれるでしょ?」
とロスクヴァは答えました。
「それは分からんぞ。」
と雷の神は言いました。
「俺はな、世界中の人間を守らなければならんのだ。凶暴な巨人やら魔物からな。お前達兄妹だけじゃ釣り合いがとれんさ。いざとなったら見捨てるかもしれん。」
「でもあんたは大きいし。」
とシアルヴィは言います。
「俺達自分の家にいても借金取りはやってくるし、頼りになる父ちゃんは出て行っちまったし…」
妹ロスクヴァは続けます。
「あなたと一緒にいれば誰にも虐められないと思うわ。」
「母ちゃんは家で待ってるのか?」
とトールは聞きました。
「ええ。」
「じゃあちょいと散歩したら送り届けてやるよ。土産でも持たせてな。」
とトールは言いました。
「あれは何でしょう!」
不意にロスクヴァが叫びました。
一行が向かう先に怪しげな男が一人、露店を出していました。
「おやおや、目ざといお嬢ちゃん。よく私を見つけてくれたね!」
と男はトールの一行に声をかけました。
「占い師だぞ。避けて行こう。」
とトールは囁き声で言いました。
「お兄さん!」
と占い師は大声でシアルヴィに喋りかけました。
「お兄さんは今しがたこっぴどい目にあって救われたばかりだ。そうだろう。」
「当たってる。」
とシアルヴィは眼を丸くして言いました。
「バカ言え。」
とトールは彼を占い師から引き離して諭しました。
「奴は道行く人にいつもああやって適当なことばかり言ってるんだ。それで当てずっぽうでも当たればいい方。外れてもあいつ自身が損をするわけじゃない。」
とトール。
「奴はお前から金をふんだくるだけが目的なのだ。」
と言いました。
シアルヴィは何も言わずに占い師の方を向きました。
トールも振り返りました。
するとすでにロスクヴァはカード占いの虜になっていました。
「言わんこっちゃない。」
「聞いて聞いて、巨人殺しさん!」
と彼女は無邪気に言います。
「シアルヴィの今日の幸運の品物は鉄の長いものですって。」
「幸運の品物?」
とトール。
「それを身に着けてさえいれば今日一日幸せ!てなわけでござい!」
占い師が答えました。
「そうか、鉄の長いものか。」
トールは稲妻の館から持ってきた一本の太い刀を取り出しました。
「こういうもののことを言うのか。」
そして占い師に向き直って迫りました。
竜巻のような手早い動きで占い師は露店を片付け、一目散に逃げてしまいました。
兄妹の連れていた仔ヤギも道連れにして。
「おい、ヤギを持っていかれたぞ。」
とトール。
「占いの代金で…」
ともじもじしてロスクヴァは言います。
雷神はうめき声をあげました。
「分かった。シアルヴィ。これをやる。これがいいんだろう。」
トールはシアルヴィに刀を差し出しました。
「俺はお前らのことには構わん。自分たちで身を守るんだ。」
神と兄妹。一匹減って一人と二人。
ときにコソコソ。ときに堂々と。おっかなびっくりに3人は森の中へと足を踏み入れました。




