獣神トール3
トール様、ガッデム蝶野説。
「酷いじゃないか!」
背の高い方の少年は、別に相方に同情はしませんでしたがトールに食ってかかりました。
「あんたはこの勝負で俺たちが失うものはないと言った。」
「ああ、言ったね。」
とトールは答えました。
「俺の相棒は右手を無くしたぞ。釘の打ちぞこないみたいになってらぁ。」
と少年は抗議しました。
「それじゃまた治してやるまでさ。」
とトールは何でもない風に言いました。
そして岩の上にまた、クシャクシャになった右手を乗せるように背の低い方の少年に命じたのです。
「さあ動くんじゃないぞ。」
トールはハンマーを振り上げました。
その様子が余りにも恐ろしかったので、不幸な少年は腕を引っ込めてしまいました。
「こらこら。」
とトールは言いました。
「治してやると言ってるんだぞ。」
トールは再び少年に手を突き出させました。
そしてまたしても大きくハンマーを振りかぶったのです。
燃える石炭の様な眼は、しっかりと少年の顔を捉えていました。
不運な少年は泣きわめいて萎えた手を引っ込め逃げ出しました。
「治してやると言ってるだろ! おーい!」
とトールは逃げる少年を呼びました。
しかし片手になってしまった不運な者と、それを追いすがって逃げ出したものを呼び戻すことはありませんでした。
谷底の岩場に一人の神と、一組の兄妹が残されました。
「…ありがとう。」
と痩せぎすの兄はトールに言いました。
「礼には及ばん。」
と神は答えました。
「…俺は臆病者さ。妹一人守れない。」
「いいや。俺は見たぞ。二人の敵にお前は一人で立ち向かっていった。お前は勇敢な男だ。」
とトールは言いました。
「名は何という?」
とトールは尋ねました。
「シアルヴィ。」
「ジアルフィ?」
「シアルヴィです!」
神は重々しく頷きます。
「妹はロスクヴァ。」
「結構なことだ。」
とトールは大いに頷きました。
「おじさんは何ていうの?」
とロスクヴァは尋ねました。
「巨人殺し(アンチサーズ)とでも呼んでくれ。」
トールは深い谷の切れ間を後にすると霧がかかった荒野に歩み出ました。
「待ってよ。」
シアルヴィはロスクヴァを伴って追いかけました。
「見ててよ巨人殺しのおじさん! 俺は足が速いんだ。」
彼は地から足が離れて見えるほど速く走ってみせました。
「元気な仔ヤギもいます。」
とロスクヴァは言いました。
仔ヤギはトコトコ歩いてメェ、と黄色い歯を見せて笑いました。
「一晩分の宿代になるかもしれないわ。」
「お前たち、恐ろしい霜の巨人や怪物、魔物に会いに行きたいのか。」
と嵐の神は低い声で兄妹二人に尋ねました。
兄妹は返事をしませんでした。
霧がかった向こうの、雷神が歩んでいる先まで意気揚々と仲良くヤギを引いて歩いていたのです。
「良かろう。」
と嵐の神は言いました。
「捨てるものがない者たちなら、いい道連れだとも。」
神と二人と一匹は連れ立って、魔物の住む森へと分け入って行きました。




