アースガルドと火の女神6
大いなる灰色の狼は嘘をつく神の右手を噛みました。
そしてその鉄の顎と歯で手首の先から食いちぎったのです。
そしてすぐにおかしい事に気付きました…
革のグローブに覆われたその右手は銀で出来ていて、ずる賢いローズルの本当の右手はぶ厚いコートの奥底に隠されていたのです。
「騙したな!」
タビティは叫びました。
「それなら、俺を追いかけてみろ!」
ローズルは俊足の神、ヘーニルにも負けないほどの速さで駆けて行きました。
冷たい金色の目を持つ狼は追いかけます。
追いながらもその鉄の歯で銀の手をバラバラにしました。
それは恐ろしい軋むような、唸るような音がしたのです。
ローズルは息を切らせ、肩を揺らしながらテュールの住む盾の館にたどり着きました。
戦いの神は外に出て薪を割っていました。
タビティは彼を見ました。
そして彼が不器用に、左手だけで仕事をしているのを見て呻いたのです。
「ああ!」
狼は突然力を失ったように見えました。
そして首を振ると鼻先を振って、壊れてしまった銀の手の欠片を拾い集めようとしました。
しかし、獣の鼻先も、手のひらの先もその期待には答えてくれませんでした。
テュールは斧を持って近づきました。
「来ないで!」
とタビティは叫びました。
ハッとしたように勇気の神は足を止めます。
これらのことが光の神と火の女神との出会いで、そして別れだったのです。
神々の王、オーディンは叫びました。
「恋心が人を愚か者にする!」
世界の全てを見渡せる玉座に座り、叫んだのです。
「頭の良いものに出来ぬことはない!」
と。




