表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始まりの神話  作者: ロッドファーヴニル
20/48

アースガルドと火の女神5

ローズルはテュールと分かれると直ちにタビティの元へ向かいました。

「やあ。タビティさん。」

と彼は声をかけました。

タビティは倒れた丸太に腰掛けて、豊かな金色の髪を鉄の櫛でとかしていました。


「ごきげんよう、ローズルさん。昨日は残念でしたね。」

と返事をしました。

「何が?」

とローズル。


「私が湯浴みするところや、素っ裸で眠るところを見られなくて残念でしたねと言うことです。」

と彼女は言いました。


「やだなぁ。」

とローズル。

「僕はただ貴方が夜の間中ずっと金色の眼を開けたままにして、辺りを見るのが珍しくて見入っていたんだよ。」

「嘘ですね。」

とタビティ。


「それなら何故茂みの中に隠れていたのかしら? まだ落ち葉がついていますよ。」

とタビティはローズルが着込んでいる、ぶ厚い暗色の上着の肩を撫でました。

ゾッとする感触の冷たさに彼は思わず後ずさりしました。


「嫌ですねぇ。」

とローズル。

「何にでも鼻が利いて、夜中ずっと目を開けて羊やウサギがいないか聞き耳を立ててる。これは一体何でしょう?」


その言葉を聞くとタビティは本来の姿を現しました。

灰色の毛皮をまとった、それは大きな狼だったのです。

金色の両眼は、夏の夜に光る稲光のように輝きました。


「お前の首筋に噛み付いてやる。この鉄の歯で。それからハラワタを食い破ってやる。」

と彼女は吠えました。

「それが僕の運命ノルンならしょうがないね。」

とローズルは落ち着いて答えました。


「怖くないのか?」

とタビティは問いました。

「死んだあとも残るものがある。僕が残していく名誉だ。」

とローズルは答えました。

「ほう。」

とタビティは唸りました。

「お前はこの世に、一体どのような名誉を残していくのだ?」

「僕だってアースガルドの戦士。命知らずの戦士にあっては、常に今この瞬間だけがあるのさ。向こう見ずさで名を残すに違いないぜ。」

「ほう。」

とタビティは唸りました。

「だが私には時が有り余るほどあるのだ。お前の身体をバラバラにした後は神々の父、オーディンを丸呑みにしてやる。そして勇ましいテュールと共に、アースガルドを治めるのだ。永遠にだ。」


「それはいけないね。」

とローズル。

「永遠なんて言葉は英雄の伝説には載ってないぜ。そして愛し合う恋人達にとっても同じ。今ある一瞬だけがあるのだよ。嘘もない。真実のみがある。」


「お前は何か私を騙そうとしているな。」

と狼は唸りました。

「お前の全てから、声から、表情から、信用できない者の匂いがする。」

心変わりするものの仮面は外れました。


「左手から君に差し出すと誓うよ。」

とローズルは言いました。彼の足元には水溜りが出来ていました。

「では右手からだ。」

狼は彼の右手を噛み切りました。


アースガルドの神々の殆どは未だ寝静まったまま、朝日に揺らめく草原に騙す者の絶叫が響き渡りました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ