アースガルドと火の女神1
新シリーズです。
アースガルドの神々と古代スキタイの女神、タビティのお話。
祈りの所作は神々が人に伝えたといいます。
手を合わせ、ひざまずき、供物を備え、それを焼き尽くし煙として立ち上がった香りは、荒ぶる者たちの心を鎮めました。
これらの事柄は全てアースガルドの偉大な神々が人々を造った際、約束事として取り決めました。
祈りの場に神は座します。
しかし戦場にも同じく戦いの神が座すのです。
彼の名はテュール。
この光り輝く神は戦場にあっては勇敢でたくましく、また平和なときには皆の相談役となりました。
いかなる悩みも相手と同じだけの重さをもって受け止め、共に心の苦しみを分かち合い、時には共に泣き、時には共に笑いました。
ある日空腹を覚えた神々はテュールと共に狩猟に出かけました。
アースガルドを出ると獲物を探して東へ東へ。
野を越え、山を越え、河を渡り、とうとうキンメリアの平野へとたどり着きました。
神々は散々歩いても成果のないことに苛立ち始めました。
心の狭い神々は口々に万物の父、オーディンに向かって不平を言いました。
「良い収穫には時と場所が必要だ。時は90年座り続けても待て。場所は90年歩き続けても見つけるのだ。」
オーディンは辛抱強く他の神々を説得しました。
やがて彼らがある川のほとりで休んでいると、地平線の向こうから馬に乗った女が一人近づいて来たのです。
「どなたですかな?」
オーディンは声をかけました。
「タビティ。」
と彼女は答えました。
「せっかくです。私と共に食べましょう。」
背が高く色の白い女神タビティは天幕の家に神々を招待しました。
彼らが席につくと、彼女はあっという間に一本の太い木に彼女の牛を吊るし首を断ち切り血を抜き、皮を剥いで来客のためのご馳走をこしらえたのです。
火は赤々と燃えてその香ばしい香りは、たちまちアースガルドの神々をとりこにしました。
しかしそれより一層彼らはタビティの細い腕に似合わぬ力強さと、その見事な腕前に興味をそそられたのです。
「あなたはこの平野に一人で住んでおられるのですか?」
とオーディンは彼女に聞きました。
「そうです。人間たちが毎日祈りと捧げものをしてくれるので何も困ることはありません。」
「我ら、アースガルドの神々も同じように尊敬を受けているよ。」
「私は『火』そのものですから、『火』よりも人々が感謝して、捧げものをする存在はありません。あるとすれば太陽くらいかしら。牛でも馬でも鳥でも、ここには何でもいる。」
それを聞くとオーディンはため息をつきました。
彼の心に少しの羨望と、憎しみが芽生えたのです。




