SOPHIA
オーディンは自らの宮殿への道を歩いています。
足長のヘーニルに遅れないように急ぐのは大変でした。
前方からはこの俊足の神のつぶやく声が聞こえてきます。
「帰ったら書を記して…和解のための法廷を開き…食事を摂り酒を飲み…狼に餌をやり…カラスの帰りを待つ…」
オーディンは声を掛けました。
「おいヘーニルよ。お前は私のやるべきことを数え上げるのは速いが、今までに自らの頭で決断したことがあるのかね?」
この素早く思案する神はオーディンの問いかけにも無言でただ首を振り、足早に夕暮れ時の小道を進んでいきました。
「待てったら。」
ヘーニル神の後ろ姿ははるか前方に霞んで見えるほどになりました。
ふと前方に、栗の木の切り株に腰掛けた一人の女の姿が見えました。
「あなたはどなた?」
オーディンは声をかけました。
「人は私を『知恵』と呼びます。」
振り返ったのを見ると女の両目は潰されて、まぶたは縫い付けられていました。
「あなたはひどく傷付いているのですね!」
オーディンは尋ねました。
「私は傷ついてなどおりません。同情は不要です。」
「知恵」は言いました。
「そうですか。失礼しました。」
オーディンは尋ねます。
「あなたにはどこかでお会いしたような気がします。」
「記憶を訪ねなさい。あなたの求めるものはそこにあるから。」
「知恵」は答えます。
「見えるもの聞こえるものは私を害した。私は『知恵』だから。」
オーディンは遠くへ歩いていったヘーニル神の事が気掛かりになりました。
ふと目を戻すと『知恵』は消え失せていました。
「お元気でお過ごしください。それでは。」
と声がこだまするように聞こえました。
オーディンは城に帰り、書を記し、法廷を開き、ワインを飲みました。二匹の狼には自らの食べ物をやり、尖塔の高い窓で二羽のカラスの帰りを待ちながら、女神の像を見続けました。
そして次の冒険に胸を馳せながら長い息を吐いたのです。




