神話7
オーディンは「肉」に言いました。
「あなたはその力強い手で、足で、地を這うビヒモスや海に侍るレビヤタンを造り出しました。」
「しかし木を断つためのノミ、命を立つための剣。物事には何にでも相応しい道具がある。」
「私の手はあなたのよりだいぶ細い。あなたにできない事が私にはできます。」
「本当かい?」
「肉」は震えて叫びました。
「持ってきてくれ、白く美しい石を。ノミをハンマーを持ってきてくれ。」
「時を手のひらにとどめておくことは出来ない。あこがれの矢を、思い出の彼方から放つことは決してできないのだ!」
偉大なる神は「肉」の言うとおりにして白く美しい石を丁寧に、ノミとハンマーをもって削り始めました。
「肉」は目の無い顔を振り、彼に細かく指図を与えたのです。
やがて神は見出しました。
現れたのはとある女神でした。
指を一本伸ばし、何かに触れんとしていました。
憂いを帯びたその表情にはどこか、期待と不安が入り混じっている様に彼には見えました。
オーディンは道具を置きました。
「これはあなたの心ですかな?」
オーディンは「肉」に尋ねました。
「私の心!私の命!私の母!」
「肉」は踊りました。
出来たばかりの繊細な形を崩さないように慎重に…
「ではこれはあなたの宝の中の宝というわけだ。」
オーディンはにっこり笑いかけて問いかけます。
「ああ。君には礼を言うよ。」
「ではあなたの庭にいる男と女、彼らもあなたの『心』でしょうか?」
オーディンは更に問いかけます。
「そうだとも。」
「肉」は目のない顔をキョロリとさせました。
そのときでした。
足長のヘーニル、俊足の神が戸口から飛び込み、二人の間に割り込んで女神の像をかっさらい、持ち出して走り去ったのです。
「全ての人を出し抜くものは呪われよ!」
盲目白痴のものは叫びました。




