追憶のあの日~ギルド試験4
◇◇◇
ジェイコブの大剣が床の石版に刺さったと同時だった。
「あ、まだ試験やってたんですか?中断してください!もう十分です、私が許可します、エリン君は合格です!《《そもそも、ギルド登録には試験なんてものありませんから》》!」
途中に地獄を垣間見るほどの激闘だったにも拘わらず、その余韻をぶち壊す声をかけてきたのはお仕事モードのラティスだった。
なお、エリンにはラティスの声が届いてはいなかった。
まだ、集中は途切れていないのだ。
そこからの反撃に備える予備動作を開始していた。
「もうお昼過ぎてますよ!みんなエリン君を待ってるんですから、もう行列がかなり……早くしてください!私はもう行きますからね、殿方のご趣味も程々にお願いします!」
登録試験に臨む前、一旦朝帰りして井戸水をひっかぶってからギルドにやってきた。
長い行列に並んだ後に闘技場で登録試験を開始した。
その頃には早朝とは呼べない時間になっていたが十分に朝の範疇だ。
そこから昼時までのぶっ通しとなり、かれこれ数時間は戦い続けていたことになる。
エリンはジェイコブの闘気が鎮まったのを感じた。
そこでようやく試験の終了を察して木剣を納刀。
その流れで一礼をする。
「はぁ、はぁ、あり……がとうございまし……た」
「おう、ありがとうございました。……ボソボソ(勉強になりました)」
荒い呼吸が邪魔をしてジェイコブの言葉が聞き取れなかった。
だが気にしていられなかった。
(――結果は、《《引き分け》》だ)
念願の初勝利とは行かず、エリンは気落ち…………していなかった。
初めて無傷(?)で勝負を終えられた達成感もあった。
だが過去には無い長時間戦闘を経て、目の当たりにし続けたジェイコブの技の数々(?)が目眩く、しかも肌をかすめる程の臨場感をもって体感できたのだ。
その感動を後回しにはできなかった。
感動に打ち震えるので忙しかったが、身に染み付いた習慣が並列処理で脳にその映像を刻み込むことを可能にさせた。いまは処理中だ。荒い呼吸を繰り返しながら、打ち震えながらも必死に脳に刻み込ませている最中だった。
「個室、意味なかったかもしれねぇな。坊主、さっさと……」
反応が乏しいエリンに声をかけたジェイコブが目にしたのは一心不乱に木刀を振るエリンの姿だった。
「フンッ……フンッ……」
「そりゃぁ強くなるわけだぜ。もう動きをトレースしてやがる。俺も引き出し増やさねぇと、もう相手してもらえなくなりそうだなぁ…………おい、そこまでだ」
素振りがヒートアップし続けていたが間隙を縫うようにエリンは腕を掴まれた。
「あ、ギルドマスター。どうされました? 使用時間外ですか?」
「もう昼休憩だ。ちょっとでもその身長を伸ばす気があるんならついてこい」
「わかりました……」
エリンは少し名残惜しい気持ちがあった。だが気を取り直してジェイコブの後を追いかける。
「……ボソリ(もう、子供扱いはできないな)」
「え?」
「いや、なんでもねぇ……今のパターン、もう覚えたのか?」
「はい、もう大丈夫です。またよろしくお願いします」
「…………次は……ボソボソ(手加減)お願いします」
「え?なんですか?」
「いや、なんでもねぇ……ほら、さっさと行くぞ」
訝しむエリンだったが、先へ先へと大股で歩くジェイコブに小走りで引っ付いて行く。
どこかぶっきらぼうで他所他所しい感じだったが腰をさすりさすり先を行くジェイコブの歩き方には何故か愛嬌があった。
そのギャップに堪えきれそうになかったため、口角を上げてしまわないようにやたらとハキハキ応答した。
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